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転生したオバサンは、枯れヒロイン目指して仕事に生きます!  作者: 風間レイ
オバサン、幼女になる

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それでもオバサンだった  4

 アレクシアさんを引っ張ってソファーに座ったので、中央にアレクシアさんが座って左右に私とローズマリー様が腰を下ろした。

 三人とも自然と姿勢がよくなるのは、子供の頃から礼儀作法を習っている賜物ね。


「第一王子って基本は優秀なのよ。頑張らなくてもそれなりに出来てしまう。頑張ればもっと出来るのにそれはやらない。遊ぶほうが楽しいから。それでも出来ているから講師陣は褒めるでしょ。使用人たちだって、明るくて気さくで見た目のいい第一王子は大好きよ。だからちやほやされる」

「王子なんてそんなものじゃないですか? ねえ」


 レイフさんが笑いながら話しかけたので気付いた。

 そういえば王弟殿下も王子よね。


「まあそうだな。俺は中身が大人でひねくれていたから、適当に聞き流していたけどな」

「王子には小さい時から、将来の側近候補になれるような高位貴族の子供が紹介されて、遊び相手になるものでしょう? レイフだってそれで王弟殿下に紹介されたんでしょう?」

「ローズマリー様って、レイフさんは呼び捨てで敬語も使わないのに、王弟殿下という呼び方は変えないんですね」


 私の質問にローズマリー様は、何を当たり前のことを聞いているのよと胸を張り、


「名前で呼ぶのに慣れて、間違えて人前で気安く名前で呼んだら大変でしょう。大騒ぎになるわよ」


 だから呼ばないんだと、なぜか威張りながら言った。

 大騒ぎになるんだ。

 高位貴族の子供と王族の子供が親しいなんて、よくあることなのかと思っていたのに。


「それで、第一王子の五歳の誕生日の時にお兄様が補佐をたのまれたのよ。ずっと国王夫妻が傍にいることは出来ないから、お兄様が傍でフォローして招待客に挨拶するようにって」

「ああ、そういえばそうだったな」

「途中で第一王子はいなくなりましたよね。誕生日なのにいなくなるなんてって噂になっていましたよ」


 二年前だと、ローズマリー様がノースモア侯爵家に乗り込んだ年よね。

 ワディンガム公爵が、自分の子供たちと王弟殿下がいつの間にか親しくなっていて、複雑な気分になり始めた頃でしょ?

 私はまだ何も知らなくて、変わり者の令嬢といわれながら商会で計算して喜んでいた頃よ。

 うちの両親は王宮に行ったことがないと言っていたから、招待されていなかったのね。


「第一王子は貴族の名前をほとんど覚えていなかったの。五歳だから仕方ないんだけどね。それでお兄様がさりげなくフォローして、それが完璧すぎて、みんなが第一王子よりお兄様を褒めちゃったのよ。陽キャなだけの中身のない子供より、才能があるうえに努力をしているお兄様のほうが優れているに決まっているわ。見た目だってお兄様のほうがずっと美形ですもの」


 この会話、ちゃんと外に聞こえないようになっているのよね。

 王弟殿下を名前で呼ぶより、今の発言のほうが大問題になるわよ。


「それで拗ねた第一王子は、お兄様にもういいから向こうに行けって文句を言って、挨拶の途中でお友達がいるほうに遊びに行ってしまったの。お兄様も子守りが嫌になっていたから、それなら勝手にすればいいって言われるままに離れてしまって、そして王弟殿下と話していたのよね?」

「そうだったな。退屈そうにしていたから、俺の知り合いがいる場所に連れて行ったんだ。レイフもいたな」

「いました。それで、何が問題だったんですか?」


 え? 挨拶の途中で遊びに行っちゃう王子は問題じゃないの?


「高位貴族とは国王夫妻のいる間に挨拶したから、まあ大丈夫だ。だが、無視された貴族はいい感情は抱かないよな」

「それはそうでしょうね」

「第一王子は年の近い叔父さんを兄のように思っていて大好きなのよ。それなのに自分と話すより楽しそうにお兄様と話していたでしょ? それですっかり嫌われたお兄様は第一王子の側近候補から外されたの」

「それは俺のせいじゃないだろう」


 ローズマリー様の第一王子嫌いは、ゲームのキャラの性格が嫌いなだけじゃなくて、そういう経緯があったのね。

 それにしても成人する前から叔父さんは気の毒ね。

 中身がオジサンだから本人は気にしていないのかしら。


「娘は既に婚約しているから婚約者候補に出来ない。息子は第一王子に嫌われている。自分が国王陛下の側近であるように、お兄様を第一王子の側近にしたかったお父様はだいぶがっかりしていたわ。しかもお兄様も私も第一王子より王弟殿下と親しいでしょ。それが嫌なんでしょうね」

「俺が何をしたって言うんだ……」

「シェリルが本当に天才かどうか確認させるという名目で、面会して簡単な説明は済ませるようにって、王弟殿下がお兄様に指示を出したでしょ? 本当はもう陛下の側近の元で働くのは決定しているのに、試験だということにして」


 え? もう決定しているの?

 そういえばそうよね。私に事情を説明してくれるためと、ヒロインの性格の確認のための会合だったんだもんね。

 でもワディンガム公爵は本当の試験だと思っているのよね。


「あれも、なんで陛下の側近の元で勉強するのに、王弟殿下が指示するんだって怒っていたわよ。直接、陛下が命じてくれればいいじゃないかって」

「こっちにはこっちの都合があるんだよ」

「わかっているわよ、私は。でもうちの両親は次期国王は第一王子だと思っているのに、王弟殿下がどんどん活躍しちゃうし、お兄様は第一王子なんて、あんな甘えた子供は話にならないって言っちゃっているんだもの」


 うへえ。ジョシュア様、そんなことを言っているの?

 相手はその年齢では普通の子供よ。

 自分を標準に考えては駄目よ。


「陛下もゲームでの第一王子のキャラを知っているんでしょ?」


 アレクシアさんがぼそっと言ったので、王弟殿下もレイフさんも一瞬動きを止めて、すぐに肩を落として頷いた。


「またあいつの性格が、今のところそのまんまなんだよ。ゲームに出てくる人間のほとんどは転生者じゃないが、性格や考え方がゲームと全く違う人間が何人もいるのに、よりによってあいつはそのまんまなんだ」

「それで陛下も、なかなか立太子させられないんですよ」


 そのままなのか。

 だからといってヒロインの私にどうにかしろと言われても、中身のオバサンが漏れ出している私を、第一王子が好きになるとは思えないし、とんでもなく面倒なことになるから関わりたくない。

 そういう面ではお力になれないので、ご自身で頑張っていただきたい。


「それでもしかして、陛下は本当は第一王子より王弟殿下を王太子にしたいのではないかなんて思って、余計にお父様は王弟殿下が(うと)ましいのよ。王位継承権を放棄したことを忘れちゃっているのかしらね?」

「成人するんだから、早く公爵とか大公になっちまえってことだろう? だがな、不正の摘発を王族がするのと、元は王族でも臣下になった公爵や大公がするのとでは、貴族たちの感じ方が大きく変わってくるだろう。王弟という立場は、陛下にとっても俺にとっても便利なんだよ」


 他人事で申し訳ないんだけど話を聞いて感じたのは、そんなことで王弟殿下を疎んじているワディンガム公爵は、度量の狭い男ねってことよ。

 王弟殿下が才能を見込んだ子供だから、私と親しくする気がなかったってことでしょう?

 執事も公爵夫妻が私と距離を置いているのを感じて、適当に侍従に指示を出せばいいやと思ったのよね。


「あの執事は、公爵家で働くようになって長いんですか?」


 ローズマリー様は私の問いに不満気に頷いた。


「そうなの。祖父母が前国王夫妻と同じ災害で亡くなったのは知っている?」

「はい」

「両親を亡くした悲しみの中でも、次期公爵はやらなくてはいけないことがたくさんあるし、一族の者たちはうるさいしで大変だった時に、祖父の代から仕えていた彼が父の相談に乗って支えてくれたんですって」

「まあ、それじゃあ大切にしますね」

「でもそれで屋敷内で力を持ったから何か勘違いして、まるで自分が公爵家の一員のようにふるまうようになったのよ」

「ああ……お金と権力は人を変えるって言いますものね」

「殿下、八歳の少女が目の前でしている会話とビジュアルに差がありすぎて、少々不気味です」

「心配するな。俺とおまえの会話もはたから見たら大差ない」


 王弟殿下とレイフ様の場合は見た目が二十代だから大丈夫ですよ。


「それで、ローズマリー様は大丈夫ですか? 家に帰ってから叱られませんか?」

「うーーん、どうかな」


 ローズマリー様が苦笑いして言葉を濁したので、心配になってきた。

 他の人達も同じように思ったのか、しばらく誰もしゃべらずに考え込んでしまっていた時に、ノックの音がして侍女長が戻ってきた。


 ベテランの侍女を選んで連れてきたのは、王族や公爵令嬢がいるのに粗相でもしたら大変だからだろう。

 ベテランの侍女でも緊張してしまっていて、カップとソーサーがカタカタ揺れてしまっている。


「お手伝いさせてください。本当は私は護衛なんですよ。お客様のように座っているだけじゃ落ち着かなくて」


 アレクシアさんがすぐに立ち上がって動いたので、私はソファーの上で体育座りをして、彼女の邪魔をしないように小さくなった。

 寝不足でぼうっとしていた時とは別人のように、今日のアレクシアさんはてきぱきしている。

 髪の艶もだいぶ戻ってきているし、化粧だって決して濃くはないのに大人っぽい。

 本当に艶やかな女性は、素顔でも艶やかなものよ。

 それに十四歳で色っぽいお姉さんを目指すのは早すぎる。


「これは美味しそうですね」


 レイフ様の顔が輝いている。

 この短時間でうちの料理人たちは頑張ってくれたんだなって、テーブルに並べられたお皿を見て嬉しくなった。

 パストラミのサンドイッチと生ハムとチーズのサンドイッチに、トマトやレタスのサンドイッチがずらりと並べられている。

 ひと口大のパイやケーキ、ババロアまで並べられていて、このままこの料理を持ってピクニックに行きたいような品揃えよ。


「旦那様がお帰りになったのですが、お話はお食事がお済みになられた後がよろしいと思いますので、それまでに事情を説明しておくそうですので、ごゆっくりお食事をお楽しみください。お嬢様、お食事が終わりましたら呼んでいただけますか?」

「わかったわ」


 こっちの話もまだ終わっていないし、ばっちりよ。

 たぶん本当は、王族相手にこの対応はいろいろと不備があるんでしょうけど、王弟殿下は嬉しそうにパストラミサンドに齧り付いているから大丈夫よ。

 あら? 女性陣も肉のサンドイッチを選んでいるじゃない。お腹がすいていたのね。

 

「私は、食べちゃ駄目?」


 だって美味しそうよ。


「お野菜なら大丈夫ですよ」


 違うの。肉がいいの。

 私にも肉をちょうだい。










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― 新着の感想 ―
[一言] 修正後、話を最初から読み直しました 話の量も丁度、話の流れも気にならない切り方で読み易かったです 話の修正も公爵の嫉妬?と権力欲からのというのが自然に感じられました 話がかなりスッキリして読…
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