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転生したオバサンは、枯れヒロイン目指して仕事に生きます!  作者: 風間レイ
オバサン、幼女になる

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それでもオバサンだった  3

 ワディンガム公爵にしてみたら、王弟殿下がここまで私にかかわる理由がわからなくて、私の存在が不気味なのかもしれない。

 ちらっとこちらを見下ろした目にはもう優しさや親しみの色はなくて、化け物でも見るような表情になっていた。


 でも私、ジョシュア様に比べたら普通の子供だと思うのよ。

 それにローズマリー様の言っていた通りに、公爵家にいた頃に私と親しくなってきっちり守ってくれていたら、今頃感謝されて、大好きな国王陛下に褒めてもらえていたわ。

 ローズマリー様だって両親の嫌な面を見せられなくて済んで、きっと笑顔で過ごせていたはず。


「つまり今後は王弟殿下がシェリルの後ろ盾になるということですか? まだ成人していないのに?」

「あと二か月で成人だ。だが、さすがに王族の俺が後ろ盾というのはまずいだろう。今後、クロウリー男爵家はギルモア侯爵家の一族に加わることになった」


 ギルモア侯爵家!?

 中立派の中心的存在の家よね。

 確か当主はもうかなりの年齢で、近いうちに引退して息子さんが次期当主になるんだけど、その人でさえもう五十代じゃなかった?


 記憶が整理されたおかげで、この国の貴族の情報がかなり理解できたわよ。

 貴族同士の繋がりや、力関係は成人するまでにしっかり記憶しておかないと、社交界デビューしてから恥をかく恐れがあるから、記憶力が優れているのは助かるわ。


「ギルモア!? いくらなんでもそのようなことを王弟殿下がお決めになるなんて、越権行為ですよ」

「俺が決めたんじゃない。ギルモア侯爵家とクロウリー男爵家で決めたんだ。俺は最初の橋渡しをしただけで、もちろん陛下にも話は通してある」


 ワディンガム公爵って、国王陛下の了承があるかどうかをすごく気にしているけど、なんでもかんでも了承を得なくてはならなくなったら、陛下が忙しすぎて大変よ。

 王弟殿下は王族なんだし、それなりの権限を持っているんじゃないの?

 いくらまだ成人していないからって、失礼だと思うわ。


「クロウリー男爵家は我が一門から抜けるということか?」


 自分たちで決めたと聞いて、ワディンガム公爵はお母様に苛立った顔を向けた。


「夫と共にそちらにご挨拶に伺う予定でしたのに、このような形でお話することになって残念ですわ。実はギルモア侯爵は私の祖父なのです」

「は?」


 ワディンガム公爵もローズマリー様も、もちろん私も目を丸くして驚いた。

 私とローズマリー様はまだ抱き合ったままだったから、かなり間抜けな様子になっていたんじゃない?

 私の瞳の色は母の家系の色だというのは聞いていたけど、どんな家なのかは知らなかったわ。


「母が騎士の父と駆け落ちしたことは聞いていましたが、どこの家の人間かは知らなかったんです。でも今回の話を聞きつけて祖父が王弟殿下を通して連絡をしてくれたんです。私も母が亡くなってしまってから、祖父に会ってみたいという思いはあったので夫と一緒に会いに行ったんですよ」


 もう会ってきたの?

 私が寝込んでいる間に?


「ギルモア侯爵は娘の忘れ形見に会えて喜んでいたよ。それにクロウリー男爵の経営手腕も高く評価している。今後は彼らを一族の一員として迎え入れ、後ろ盾になりたいと言ってくれている」


 その面会の席に王弟殿下も顔を出したってこと?

 私が転生者だからそれも役目だと思っているんだろうけど、面倒見が良すぎるわ。

 だから忙しくなって、疲れた顔をしていたのでは?


 寝込んでいた自分が情けないやら申し訳ないやら。

 今後は強い体を作らなくてはいけないわ。


「ギルモア侯爵の孫……」


 ワディンガム公爵は母に対する態度を決めかねているようだった。

 公爵家は侯爵家より身分は上だけど、どちらも大貴族だし、ギルモア侯爵は前国王の頃から重鎮として活躍してきた人だ。

 影響力も強く、豊かな領土を持つ一族でもある。


 そこと商売上手なうちが仲良くなるって、どちらの家にとってもお得感満載よね。

 しかも仲直り出来ないまま亡くなってしまった娘の忘れ形見と会えて、ひ孫は王族のお気に入りとなったら、そりゃあ身内に引き入れようとしてくれるわ。


 そうなると、うちの貴族内での地位もぐんとアップするはずよ。

 ワディンガム公爵家の遠縁ということで、一族の端っこに置いてもらっているだけの男爵家から、ギルモア侯爵の孫の嫁ぎ先の男爵家に変わるんだから。

 これは、ワディンガム公爵としても仲違いするよりは、親しい関係を維持したほうがいいと思わない? いえ、思って。そしてローズマリー様のさっきの態度は水に流して仲直りして。


「……はあ」


 ワディンガム公爵は額を押さえながら深いため息をついた。


「おかしいですね。私は謝罪に来ただけなのに、なぜこのような扱いを受けるのでしょうか」


 あなたに悪かったという気持ちが感じられないからよ。

 それでみんな、許す気がないからだわ。


「シェリル嬢」


 不意にやさしい声音で話しかけられたので、ローズマリー様の体をそっと放して、室内着のままでも出来るだけ上品に見えるようにカーテシーをした。


「公爵様、五日もの間お世話になりました」


 子供の私を丸め込もうとしている気がする。

 あちらの話を聞く前に、先にこちらの意見を言ってしまわないと。


「……ああ」

「今回は悲しい行き違いがありましたけど、両親も私も、今後もワディンガム公爵家とはいい関係を築いていきたいと思っております。父と公爵様とは学生時代からの友だと聞き及んでおりますもの。私もローズマリー様と今後も仲良くさせていただけると嬉しいですわ」

「なるほど。いや、そうだった。ジョシュアがきみは自分より大人だと話していたんだ」

「それはありませんわ」

「陛下が気にする子供なだけはあるね」


 王弟殿下も気にしてくれていることは無視ですか。

 いったいどうしてそんなに殿下が嫌いなの?


「もちろん今後も我々の関係は変わらないよ。王宮に行くのなら忙しくはなるんだろうが、ロージーとも今まで通り仲良くしてくれ」

「はい」

「ではこれで今日のところは失礼しよう。ロージー、きみはどうする?」


 ローズマリー様に視線を向けた時、ワディンガム公爵の顔つきが少しだけ冷たくなった。


「もう少し、シェリルとお話をして帰りますわ」

「そうか。きみも馬車で来ているのなら問題ないな。では、王弟殿下、私はこれで失礼します」


 よかった。私の言いたいことは、ちゃんとワディンガム公爵に伝わった。

 謝罪はもういい。私は今回のことはこれ以上問題にはしない。

 だからクロウリー男爵家がワディンガム公爵家の一族と離れても、今までと同じ関係を続けてよねって。

 本当にまったく同じ関係なんて無理だろうけど、嫌がらせをされなければいいのよ。

 商売に影響が出たり、弟や妹までつらい思いをすることになるのは避けたいわ。


 執事は、最初から最後まで存在感がなかったな。

 あの家でも、べつに特に優秀な人だという印象はなかった。

 たぶんこれで、職を失うんだろうな。

 私が気にしなくても、王族方はワディンガム公爵の行動をチェックしているもんね。


「シェリル、私はワディンガム公爵様をお見送りしてくるわ」

「はい、お母様」

「王弟殿下方を客間に御案内できるわよね?」

「はい」


 私の頭を撫でてからお母様が歩き出すと、侍従と侍女がすぐに後ろに続き、レイフ様がふたりの騎士にもついて行くように命じてくれた。

 そういえばレイフ様も存在感がなかったわね。

 今はにこやかな笑顔で目立ちまくっているのに……


「侍女長、みなさんを客間に御案内して」

「は、はい」


 いつもはしっかりしている侍女長が、緊張した面持ちですがるように私を見ている。

 まさか王族が屋敷に来るとは思わないもんね。

 どうすればいいのかわからないよね。

 ごめん。私も正解はわからないんだ。


 でもここで重要なのはおもてなしの心よ。

 王弟殿下は、細かいことは気にしないと思うわ。


「人数が多いから、一番広い客室に案内して」

「はい。こちらでございます」

「ローズマリー様とアレクシアさんもどうぞ。そちらに軽食をご用意しますわ」


 時間的にお昼を過ぎてしまっている。

 たぶん、王弟殿下とレイフ様はお昼を食べていないはずよ。


「侍女長、マフィンとかサンドイッチを用意して。サンドイッチには肉の入ったがっつり系と野菜のはいったものがほしいわ。女の子のために摘める甘いものもいるわね」

「厨房にあるもので大丈夫でしょうか。急いで買いに行かせますか?」

「大丈夫。うちは割と食の水準は高いほうよ」


 伊達に成金をやってはいないのよ。

 衣食住にはお金をかけているんだから。


 ずらずらと並んで廊下を進み、侍女長が案内してくれた部屋に入る。

 確かに広かったわ。

 宴会場みたいな広さに、ソファーセットの塊が島のように何か所かに配置されている。


 王弟殿下が部屋の奥の窓際の椅子に腰を下ろしたので、みんな無言で従った。

 アレクシアさんはソファーの傍に立とうとしたけど、私とローズマリー様とで腕を引っ張り、三人掛けのソファーに並んで座った。

 王弟殿下の選んだのは、噴水のある中庭がよく見えるひとり掛けの椅子で、レイフ様は出入り口に近い椅子を選んだ。


「なかなかいい部屋だな」

「そうですね」


 侍女長が一礼して部屋を出るまで、当たり障りのない会話をする王弟殿下とレイフ様と比べ、女の子三人はずっと無言のままだ。

 私は、ここにいる全員が転生者だということと、最年長が十六歳だという事実に中庭をぼんやり眺めながら思いをはせていた。

 そして扉が閉められて、アレクシアさんが声が外に聞こえなくなる魔法を使うと、


「どうしてお父様に謝罪させなかったの?」

「ワディンガム公爵は、なんであんなに王弟殿下を気にするのよ?」

「少しお腹がすいたんですが」

「私のせいで騒ぎになってすみません」


 いっせいにテーブルに身を乗り出して話し始めた。


「おまえら落ち着け」


 王弟殿下は落ち着き払っているけど、こっちは心臓がバクバクだったわよ。

 寝込んで復活したその日に修羅場とかやめてほしい。


「レイフ様、軽食をご用意しますので少しお待ちくださいね」

「ありがとう。気が利くなあ」


 平和だ。

 さっきまでとは打って変わって、空気が軽い。


「順番に疑問に答え合うか。まずは、ワディンガムがなんであんなに俺に突っかかってくるかだが……わからん」


 全員で真剣な面持ちで答えを待っていたのに、わからないの?

 思わずみんな、がくっと力が抜けてしまったわよ。


「たぶん成人が近くなって陛下の仕事を手伝うようになったせいで、いろんな話をする時間が増えて仲良くしているからやきもちを焼いているんじゃないか?」


 そんな単純な話ならいいんだけど、実はワディンガム公爵ってけっこう屈折した性格なんじゃないかって印象になってきているのよ。

 だって王族同士で、しかも兄弟で協力するのは当たり前でしょう?


「はあ。王弟殿下はタイミングが悪すぎるのよ。それに第一王子のせいでもあるのよ」


 転生者しかいないからなのか、ローズマリー様って王弟殿下に敬語を使わないのね。

 そして、まさかここで第一王子が出てくるとは思わなかったわ。




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