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オバサンは図太い  2

「姉上が帰ってくるまでに、そういうやつらは追い出しておくから心配しないで」


 頷きはしたけど、人間って、そういう噂話が大好きだから、今後もそういう話は何回も出てくるわ。

 何も考えず、その場が盛り上がればいいというだけの理由で、私が男爵家を継ごうとしているって言いだす人がいたって驚かない。


「でもそうなると、姉上は結婚するってことだよね。結婚しても商会の仕事を続けさせてくれる人を探すってこと?」

「もうそんなことまで考えなくちゃいけないの!?」

「ワディンガム公爵家に御令嬢の話し相手として滞在したことがあるって広まったら、嫁にしたがる家が多いんじゃない?」


 今までは、お父様がワディンガム公爵と親しいというコネだったけど、これからは私自身がワディンガム公爵家全員と親しいというコネに変わるのか。


「大丈夫よ。ワディンガム公爵様が私の後ろ盾になってくださるそうなの。だから私と結婚したかったら公爵様の承認もいるのよ」

「だったら、いい条件の相手を紹介してもらえるかもしれないね」


 実は王族とも繋がりが出来そうなんだよねーなんて言ったら、また跡継ぎがどうのって話になったりするんだろうか。

 めんどくさいな。

 婿養子を取らなくちゃいけない私より、ギルバートが継ぐほうがいいに決まっているじゃない。 

 弟を傷つけるようなことを言うやつは許しませんからね。

 

「そもそも結婚に興味がないのよね。私は仕事がしたいの」

「商会の仕事があるだろ?」

「うーん。家族全員が一か所で働くのはリスクがあるでしょう? 商会が潰れたら全員が路頭に迷うわよ」

「朝から怖いこと言うなよ。商会だけがうちの収入じゃないし」


 そうか。貴族だから、領地経営が本職で商会は特産品を広めるための手段だったわね。

 それにかなりの貯蓄もあるんだっけ。

 毎月口座に生活費として多額のお金が振り込まれているから、私も働かなくても問題ないんだけど、自分で稼げるというのは大事よ。


「それよりも、ちょっと相談に乗ってくれない?」

「え? 相談? う、うん。聞くよ」


 身を乗り出して言っても、仰け反りはしたけどギルバートは今回は逃げなかった。

 

「領地の職人さんに知り合いがいるでしょ? 作ってもらいたいものがあるのよ。たのんでもらえる?」

「なんだ。自分でたのめばいいじゃないか」

「ワディンガム公爵家に行くのに? あまり外を出歩いたら危ないでしょう?」

「そうか。父上も拉致される危険があるんじゃないかって心配していた」


 やめてよ。無法地帯か何か? 世紀末?

 男爵家とはいってもれっきとした貴族の令嬢を、伯爵家の人間ならさらっていいなんてありえないでしょ。

 その男、頭がおかしいの?

 それとも、自滅してもかまわないほど私を気に入ってるってこと?

 こわ。キモ。


「で、何を作りたいのさ。もしかして商売に繋がるもの?」

「さあ? その辺は私はよくわからないわ。あなたが判断してよ。自分で使いたいものがあるの。計算が楽になる道具よ」

「…………姉上ってブレないよね」


 今までのシェリルは無口であまり表情にも感情を出さない子だったから、家族でもどんな子かつかみ切れていなかったんだろう。

 だから吹っ切れたと言って、いろいろと話すようになった今の私を、本当はこういう子だったのねと自然と受け入れてくれてしまっているけど、これでいいのかしら。


 だって今の私って、ほとんどオバサンの時の性格のままよ。

 むしろ若返って元気になって、頭もよくなって、見た目が美幼女になって、パワーアップしてしまったオバサンよ。

 でも八歳の私としては、記憶が戻ってから家族と話せるようになって、お友達も出来て、変態親父の脅威も解決できそうで。

 つまり全てがいい方向に動き出したから、オバサン化を喜んで受け入れてしまっている。


「何を考えこんでいるんだよ。眉が寄ってるぞ」

「おお?」


 今度はギルバートが、さっきの私のように眉間を撫でてきた。

 顔は赤いし、私の反応を伺っている感じだけど、今までより仲良くなれている気がするわ。


「いけない。こんなところに皺が出来たら困るわ」

「八歳で皺の心配すんな」

「若い頃からの積み重ねが、老後の美しさに繋がるのよ。三十代までが大切なの……って侍女が言ってた」

「わかったから、その話はもういいよ。それより何を作りたいんだよ」


 文句を言いながらも笑っちゃっているじゃない。

 きつい性格に見える顔だなんて、ぜんぜんそんなことなかったわ。

 笑顔がとっても素敵な子だった。


「そろばんを作りたいの」

「そろばん? なんだそれ」

「だから計算する道具よ」

「初めて聞くけど、見本か何かあるのか?」

「図面を書くわ」

「図面? 姉上が考えたのか!?」


 ゲームの世界だから、現代の若者が憧れるような異世界にするために、衛生面は魔法で現代同様の生活になっていて、食事もメジャーどころは揃っている。

 でも魔法と冒険のストーリーに、事務仕事や帳簿作成なんてないわよね。


「そうなるのかな。待ってね、今、簡単にどういう物かは説明するから」

「名前も姉上が考えたの?」

「うん、なんとなくゴロがいいかなって」

「適当だな」


 紙とペンを持って来て、説明をしながらそろばんの絵を描いていく。

 たぶんローズマリー様はそろばんなんて手にしたことないんだろうな。

 みんな計算機を使うし、そもそも計算はソフトがやってくれるから、入力だけすれば決算だってなんだって完了しちゃうでしょ?

 でも、中小企業の町工場ではあったほうが便利な時もあったのよ。


「けっこうな技術がいるかも。玉の中央に穴をあけて棒を通すでしょ? この球を動かすことで計算をするから、引っかからないようにガタガタしないようにしてほしいのよ。玉同士がぶつかった時にはいい音がするようにしてほしいわ」

「計算に音って関係あるのか?」

「リズムは大切よ。早く計算できるようになるのよたぶん」


 疑いの目を向けるのはよして。

 自分用のそろばんは採算度外視で、気に入るものを作りたいじゃない。


「枠の角の部分は金属で補強してほしいなあ。出来れば綺麗な細工をしてほしいわ」

「本当にこれで計算が出来るのか?」

「ええ。商会で使えるように何個か作ってよ。そうしたら使い方を伝授するわよ。便利だと思ってもらえたら商品に出来るでしょ」

「まあいいけど、もう少しわかりやすい絵は描けない? これのどこが図面?」

「ええ!? こんなにわかりやすく描いているのに!?」

「はあ」


 盛大にため息をついたわよ、この子。

 

「ともかくこれを持って職人に説明してみるよ。そして図面を書いてもらってくるから、それを見て修正して」

「わかった。悪いけどワディンガム公爵家まで来てね」

「僕が行っても平気?」

「平気よ。侍女も連れて行けるくらいだし。でもくれぐれも注意してよ。変態が何をしてくるかわからないから」


 侍女に金を払って情報を仕入れるって、ストーカーでしょ。

 嫌がらせ目的で、仕事を妨害したり家族に怪我をさせたりするかもしれない。


「特にセリーナが心配なのよ。私が駄目ならって、あの子に目をつけるかもしれないわ」

「まだ五歳なのに!?」

「三十過ぎの変態にとって、八歳も五歳も大差ないわよ」


 三年経てば八歳になるんだから。

 いや、幼ければ幼いほどいいっていう変態かもしれない。


「ギルバート、セリーナをひとりにしないようにしてね。両親もそのあたりは気を付けてくれているだろうけど、忙しいから隙が出来るかもしれないわ」

「わかった。セリーナは僕が守るから心配しないで。それに姉上に執着しているみたいだから、たぶんそんな心配はいらないと思うよ」


 セリーナが狙われないのは嬉しいけど、変態親父に執着されるのは本当にいや。

 私がヒロインだってことが影響しているのかしら。

 いえ、なんでもそれに結び付けるのはやめよう。


「そろそろ食堂に行かないといけないわね」

「僕がエスコートするよ」


 エスコート? 

 きゃー、かわいい。


「ありがとう」


 真っ赤な顔で差し出された手を取って歩き出す。

 七歳からこんなに素敵な紳士だったら、大人になったらどうなるのかしら。

 女の子が群がってくるんじゃない?


「前を向いて歩きなよ。転ぶよ」


 手を取り合って部屋を出てきた私たちを見て、侍女たちもほんわかと優しい笑顔を浮かべている。

 それが照れくさいのか、いつも以上に話し方がぶっきらぼうだ。


「ふふふ。ギルバートとたくさんお話が出来て嬉しいなと思って」

「なんだよそれ」


 ギルバートにエスコートされて食堂に来た私を見て、両親が驚きと喜びで大騒ぎした。

 セリーナは私も一緒に来たかったのにと拗ねたので、今度は一緒に来ようって抱きしめたら、笑顔で抱きしめ返してくれた。

 まだ五歳の小さな手で抱きしめてくれる可愛さったらないわよ。

 

 この幸せを変態親父に壊されたくはないから、ワディンガム公爵家でもうまくやらなくては。

 ジョシュア様のそばに年の近い女の子がいるってことに、神経質になる人がきっとたくさんいるはずだもの。

 私は無害だって早めにアピールしなくては。






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