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転生したオバサンは、枯れヒロイン目指して仕事に生きます!  作者: 風間レイ
オバサンの地味で平和な王宮改革

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オバサンは十一歳になりました 6

「確かにそうかもしれないが、俺たちにはそれぞれの立場がある。転生者同士だからといって、遠慮を失くして友人感覚で動かれては困るんだ」

「わかっています。私だって他国の王女に留学を勧められるなんて、どんな断り方をすれば失礼にならないのかわからなくて、どうしようかと思いましたよ。でも、あちらのヒーローに言うことを聞かせるためというのは違うんじゃないですかね。アードモアの転生者は王女に対する悪い印象が強くなっている気がします」

「それだけ苦労させられているんだ」


 そうなんでしょうね。

 そのせいで味方がどんどんいなくなって、誰も私をわかってくれないって意固地になってしまっていないといいんだけど。


「だからって私を自国に招こうとするというのは、しかも王族に断られているのに直接接触するのは、さすがにまずいとわかりそうなものなのに……。向こうの親や兄弟にも話していないんですよね」

「それはすぐにわかる。陛下からあちらの国王に直接苦情を言うそうだ」

「えええ!? 国王同士の話になっちゃうんですか!? たかが準男爵の留学の話で!?」

「たかがじゃない。ギルモアの怒りようはひどいぞ。誕生日会に公爵家が揃っていただろう? 彼らにも話してしまったから、次の会議はやばそうなんだ」


 私は庭にいたからわからなかったけど、室内では大伯父様が私の話を拡散していたってこと?

 謁見の騒ぎも拉致未遂事件の騒ぎも収まって、誕生日会が終われば年末までは静かに暮らせる予定だったのに、おかしいな。


「どうあってもシェリルの留学を阻止する気なんだろう。高位貴族たちからも圧力をかけさせて、国王を動かそうとしたんだ」


 ああ、なんてこと。

 そうじゃなくても苦労が絶えない国王陛下のお仕事を、また増やしてしまったわ。


「すみません」

「いや、ギルモアが動かなくても陛下は動いたさ。シェリルの話を王女はかなり詳しく知っていた。だから陛下が一年で学園を卒業させて、王宮で正式に雇う気でいることも知っていたはずなんだ。そして俺も打診された時にきっぱり断ったのに無視されたからな。さすがに我が国としても動かないわけにはいかない」


 未成年だから、先にうちの両親に打診するべきだしね。

 全部吹っ飛ばして、私に直接会ったこともないのにカードとプレゼントを送ってくるって、理由はなんであれ、やり方がまずいわよね。


「ヒロインキャラだっていうのは、やっぱりインパクトが強いんですね」


 どさっと背凭れに寄りかかって天井を見上げた。

 会ったことがないから、私がどんな性格なのか全くわかっていないのに、ゲームの中のヒロインのイメージを思い描いて動いているんでしょう?

 王女もヒーローも転生者なんだから、自分とキャラは違うんだってわかっているでしょうに。


「そろばんと鉛筆はそんなにインパクトがあったんですかね。だったら、自分でも何か作ればいいじゃないですか。あ、折れ線グラフもありましたね。まだ棒グラフも円グラフもあるんだから、誰か使えばいいんですよ」

「おまえは何を言ってるんだ。そのへんも確かにやばかったが、もっとやばいことをやらかしただろうが」

「え?」


 身に覚えがなさ過ぎて、がばっと身を起こした。


「何をしましたっけ?」

「マガリッジ風料理の町おこしだよ」


 確かにやりましたけども……それがなんで大問題?

 答えがほしくてアレクシアのほうを見たけど、彼女もわかっていないのかケーキを食べながら首を傾げている。

 もうすぐ夕食の時間なのに、ここでしっかりケーキを食べるんだ。


「確かに名物料理を作って店を出して、仕事も増えて観光客も増えて土地の名前も覚えてもらって活性化を図るというのは、よくある町おこしの方法だ」

「ですよね」

「前世の世界ではな」

「……いやでも、問題になるような話じゃないでしょう? 和食も食べられるようになって一石二鳥ですよ」

「まずその発想からして俺たちは驚いたよ。和食をこの世界に前からあったマガリッジ風料理ということにしてしまえば、作ってもおかしくないしいつでも食べられるって、かなり乱暴な発想だぞ」


 それは……まあ……自覚ありますけど。

 みんなが和食を食べたいっていうし、でもそんな機会はなかなかないし。


「だったらあの時に止めてくれればよかったじゃないですか。そうだ。マヨソースを持ってきたのはレイフ様ですよ? 私と同じことを考えていたんじゃないんですか?」

「……和食が食べたかったからな」

「同罪ですよ」

「確かにやっと和食が食べられると思って無茶をしたのは、俺にも責任がある。あの時、マガリッジ風として売り出せる料理を考えるとクロウリー子爵に話してしまっただろう?」


 本当は地元の人達に和食を広めて、それをマガリッジの料理として売り出したかったんだけど、マガリッジを復興させろと命じられた翌日に、お父様まで顔を出すんだもの。

 地元の人も知らない料理を、これは昔からマガリッジで食べられていた料理ですとは言えないじゃない。


「それはわかっている。俺が言いたいのは、マガリッジを復興させる手段として、地域の名物を作って町おこしをするという企画を、十歳の子供が命じられた当日に考えて翌日には実行に移していたというのが、どれだけ異常かということだ」


 ……そう言われてみれば確かに。


「でもあの時は誰も驚いていなかったじゃないですか。美味しいねって喜んでましたよね」

「クロウリー子爵夫妻もギルモアも、シェリルは天才だと思っているからな」

「ぐおおおお」


 思わず両手で顔を覆って呻いた。

 復興しなくちゃ。和食をみんなに食べさせなくちゃ、ってそればっかり考えて、周りからどう見えるかまでは考えていなかった。


「で、でもでも、料理は向こうの料理人にも手伝ってもらったし、マヨソースはレイフ様が犯人ですよ?」

「その辺は俺も、料理はクリスタルと向こうの料理人や食堂の人間が協力してくれた。マヨソースを考えたのはレイフで、王都に店を出すというのもレイフとアレクシアとシェリルの三人で考えて、実際に動くのはレイフとアレクシアだという話を広げているし、ギルモアもおまえの両親もそう思っている」

「おお、よかった」

「だが、バリーソースはおまえが考えたと、あの場ではっきり言っただろう」


 え? 言いましたっけ?

 やだなあ、最近はもう記憶があやふやで。

 昨日の夕ご飯も覚えていなくて……って十一歳では言えないわね。


「だから、シェリルは興味のないことに関してはポンコツだが、興味のあることには探求心旺盛なのと、これは覚えておこうと思ったことは一度で完璧に覚える才能がある。それで、みんなが料理を作っている間にソースを作ったと話しておいた」

「それは事実ですからいいんですけど」

「事実? 一度で全部覚えられるのか?」

「香辛料の味はすべて覚えましたし、記憶しなくてはいけない勉強もすべて覚えていますよ。だからアードモアとフューリアの言葉も公用語も覚えるのは簡単だったんです。ローズマリー様には、ずるいと何度も言われました。話していませんでしたっけ?」

「本当に天才なのか」


 記憶力がいいのと天才は違うんじゃないかしら。

 なんでもかんでも覚えてしまうとしんどいので、スイッチの切り替えのように覚えなくてはいけないこととそうではないことを切り替えるようにしているだけよ。

 覚えなくてもいい事でも、覚えちゃうことも多いしね。


「ギルモア侯爵夫妻は、ともかくおまえの自慢がしたいらしくてな」

「はい?」

「ギルモア侯爵は王宮で、夫人はお茶会や夜会の席で話をするものだから、すっかりおまえは天才少女として認知されていた。最近はそこにロゼッタも加わって自慢しているようだ」


 とっても嬉しいしありがたいんだけど、恥ずかしいからやめてー。

 社交も政治もまるで疎い私では、天才と言われても事務仕事しか出来ませんからね。


「それで、いったいどんな子かと思って祝賀会に参加してみたら、人形のように可愛い女の子が御婦人たちのいる席に自分からやってきて、自慢をするのでもおべっかを言うのでもなく、にこにこしながらご婦人たちの話を聞いて、大人のような答えを返す。それがまた本当に楽しそうに見えたんだそうだ」


 実際、楽しかったからね。

 人生経験豊富で貴族社会の第一線に存在し続ける女性方のお話は、とっても楽しくて勉強になったのよ。


「あの時はけっこう年配のうるさい御婦人方もいたんだぞ」

「アレクシア、殿下が何か失礼なことを言っているわ」

「私もあそこに行く気にはならないわよ。機嫌を損ねたら大変じゃない」


 礼儀をわきまえていれば、優しい方達ばかりだってギルモアの大伯母様が言っていたわよ?

 博識な方も多いので、知っておくと得する雑学って感じのお話を聞けて楽しかったわ。


「そんなおまえを、異国の王女が会ったこともないくせに、勝手に自分の国に連れて行こうとしてると聞いて、かなりご立腹な人が多いんだよ」

「でも、今日の話ですよ? ついさっき、大伯父様たちが広めたばかりですよね?」

「高位貴族が全員揃っているところで話したんだぞ。もう王宮にも知らせが届いているし、誕生日会帰りに王宮に立ち寄る貴族もいた」


 え。いくらなんでもそれは大きな問題にし過ぎでしょう。

 なにも無理やり連れて行こうとされたわけじゃないのよ?

 カードとプレゼントが届いただけよ?


「アードモアと我が国は、コアの問題で微妙な関係なんだ。税金をかけて高くコアを売りたいアードモアとしては、今はまだ低レベルのコアだけとはいえ、魔道具に人工コアを使用するようになった我が国は脅威なんだよ。もっと技術が進めばコアを輸入しなくなるかもしれない。そうしたらダンジョンを存続させる意味が減ってしまう」

「でも素材はいりますよね」

「コアの儲けのほうが圧倒的に大きいんだ」


 そんな微妙な関係の国の王女が、準男爵になったばかりの天才少女を自国に連れて行こうとしているってことなのね。

 ヘンリエッタ王女だって、そのあたりの事情は知っているでしょうに。


「もしかして、知っているからこそなのかもしれないぞ。ヒロインは全属性の魔法が使え、魔力量も多い。実際シェリルもそうだろう?」

「はあ」

「ヒロインが人工コアを完成させるんじゃないかと考えているやもしれない」

「そんなことまで期待されても困ります」


 でも、ちょっとだけ興味はあるのよね。

 ノアが人工コアの研究を始めるのなら、いろいろと教えてもらえるんじゃない?

 インベントリにランクAスリープラスのコアの見本もあることだし、暇な時に試してみようかしら。


「ともかくおまえは、今度こそ、本当に、おとなしくしているんだ」


 みんなしてさんざん和食を食べたくせに、私だけのせいにするのは理不尽だわ。

 ちゃんと我慢して、マガリッジに店舗を出すのもマガリッジ料理の店を王都に出すのも、私は関わっていないのに。


「俺は一月いっぱいまで大公領に行くことになったから、来年は二月から王宮に月末だけ来てもらう」

「月末だけ!?」

「勉強優先だ」


 計算のお仕事が出来ないの?

 うえええ、気分転換になっていたのに。


「大公になるのは延期だったんじゃ……」


 アレクシアが呟いたのを聞いて、そう言えばって思いだした。

 いやそれより、料理がいつの間にかほとんどなくなっているじゃない。

 殿下も食べていたけど、アレクシアもしっかり食べているわね。


「優秀だと評判になったのはシェリルだけじゃない。マガリッジは王室御用達の玉子の件もあって注目されていただろう。それも今は解決して、定期的に市場を開催して、町の整備も進み、年末には王都に店も出すほど順調だ。それでレイフもアレクシアもクリスタルまで有能だという話が広まっているんだ」

「実際に有能ですからね」

「だから俺は予定通りに大公になり、王位継承権は放棄していることをもう一度発表することになった」

「短い間でしたけど、お世話になりました」


 立ち上がって頭を下げたら、殿下の手が伸びてきて髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられた。


「なにをするんですか。うわあ」

「王宮での仕事は続けるんだから、おまえも今まで通り俺の執務室で働くんだ」

「なんだ、そうなんですか」


 それならそう言ってくれればいいだけじゃないですか。

 ああ、髪が乱れちゃった。


「本当におとなしくするんだぞ。おまえとレイモンドは一歳しか年が違わないんだ。今のレイモンドの年齢の時に、おまえはもう王宮で活躍していたというのに、あいつは公務をまだ一度もしていないと比較されている」

「そんなことを私に言われましても」


 まだ十歳なんだから、せめて学園に通う年齢になるまでは好きにさせてあげればいいんじゃないの?

 非行に走っているわけではないんでしょう?


「この世界の非行ってなんだ?」

「夜遊びとか、悪い友達とクスリに手を出すとか」

「やめろ。考えたくもない」


 クスリはあるんだ。

 薬草があるんだから、あってもおかしくはないかな。

 



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王弟はシェリルに目立つな言うけど、王は学校1年で卒業しろとかマガリッジを復興させろとか十歳の子供に言ってるからシェリルには只管国益稼げと考えてて目立つななんて考えてないと思うんだが。国王兄弟はシェリル…
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