表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/353

第94話 姉さんが?

「ここまで言ってもまだわかんないかな。最後の一人は、グレーテルよりめんどくさいよ」


「だから、それって誰だよ?」


「……リーゼ姉さんに、決まってるじゃないか」


「え?」


「ルッツは本当にニブいんだなあ。はなはだマズいことだけれど……リーゼ姉さんがルッツを見る視線は、完全に恋する女の子のそれだよ」


 呆れたような表情のジーク兄さんを前に、俺は言葉を失ってしまった。確かに、最近やたらと甘えられたりデレられたり、熱い視線を送られているのは自覚しているけど……


「いやアレは、姉さんの水魔法に俺があれこれアドバイスしたのがたまたま当たったから、そこに感謝してもらっているだけで……ほら、弟子が師匠に向ける尊敬とか、新興宗教の信者が教祖に向ける信仰というか、そういうものじゃないかな?」


「師と弟子が男女の関係になるのはよくあることだし、教祖様が信者のハーレムを築くことだって、珍しくはないはずだけどね」


 うぐっ。今日のジーク兄さんは、触れられたくないところを遠慮なくグサッとえぐってくる。


「だって、俺と姉さんは、姉弟じゃないか。この世界ではそんなこと、許されるのかい?」


「もちろん教会は認めないさ。だけど、禁じられた恋ほど燃え上がるって、よく言うじゃないか?」


 言葉の調子はやたら軽いけど、兄さんの表情は真剣だ。少なくとも兄さんの目には、俺とリーゼ姉さんの関係が、そういうものに見えているってことか。


 実のところを言うと俺も、姉さんの視線にヤバさは感じていたんだ。元世界で染み付いた昭和の倫理観が、それを認めることを拒んでいただけのことだ。だけどたった今、兄さんにズバリと指摘されて、事実を直視しなけりゃいけない状況になってしまった。


 一旦それを意識してしまうと、リーゼ姉さんはものすごく魅力的な女性だ。色白の肌にピンク色した長い髪、そして同じ色の魅力的な唇から紡がれる柔らかいアルト……普段の優しくしとやかな様子と、戦いに臨み軍を指揮する凛々しい姿のギャップも、たまらない。もし、姉弟じゃなかったら間違いなく惹かれているはずで……いや不覚にも、今は姉弟とわかっているのに女性としての姉さんを意識してしまっている。


「俺、どうしたら……」


「まあ、実の姉弟だと、結婚は認められないからね。ルッツに許された側室三人の一人にしちゃうことは、難しいだろうな。まあ、愛人って手はあるけど……」


「いや、それは……」


 兄さんの答えに、俺の悩みは益々深くなるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 結局のところ俺の告白は、それから二週間くらい後になった。バーデン領のあれこれに関する会議は落ち着いたけど、もう一つの戦犯国であるリエージュ公国との終戦交渉に、ベアトが忙殺されていたからだ。


 捕虜は八千人、そしてその中に公国の後継者である、第一公女がいたのだ。最精鋭の魔法使い部隊、そして堅固を誇る重装歩兵部隊はリーゼ姉さんとグレーテルが壊滅させている。公国との小競り合いは何十年も続いているけど、これほどこっちの立場が強くなったことはない。二度とベルゼンブリュックに牙を剥かないように、たっぷりお灸を据えてやることが出来るのだ。


 そして交渉の責任者は、今度もベアトだ。彼女の「精霊の目」は、百戦錬磨の公国貴族が長い長い条約文の隅っこにこっそり忍ばせた悪意を、確実に探り出していく。結局のところ公国側の卑怯な努力は何ら実を結ばず、公国との交渉は帝国とのそれより、王国側に圧倒的有利な条件で決着した。


 まず、八千の捕虜は帝国のそれと同様、奴隷としてバーデン領開発のため働いてもらう。魔法使いの大半を緒戦でリーゼ姉さんが葬ってしまったから、帝国捕虜より人材の質が低いが……そこは待遇に差をつければいいだろう。


 だが賠償金は、帝国に課したものより、はるかに重い。向こう十年間金貨五億枚の金額は帝国と同じだが、公国の国家予算は帝国の半分……十五億金貨くらいなのだ。三分の一を賠償に取られては当分の間、戦争どころか国内運営にもたっぷり支障をきたすだろう。ここまで公国を痛めつけたのは、火事場泥棒のような侵略行為が女王陛下とベアトの怒りに火を着けたから。そして公国側が第一公女の身柄返還を最優先にしたことで、不利な条件でも飲まざるを得なかったからだ。第一王子をあっさり見捨てた帝国とはえらい違いだが、後継ぎでは仕方あるまい。


 まあそんなわけで、交渉は終結した。


 そして今日、ベアトの住まう離宮で、彼女自ら入れる紅茶を味わっているのは、俺とグレーテル、アヤカさん。そして、悩みに悩んだけどジーク兄さんのアドバイスに従って、リーゼ姉さんもテーブルに招いている。婚約者たちが変に思わないか不安だったけど、三人とも姉さんの姿を見て「ああそうか」というような顔をしている。


「さあルッツ、わざわざ私たちを集めて、どんな面白い話を聞かせてくれるのか?」


 おいベアト、いきなりハードルを上げるのは、やめような?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ