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【書籍三巻7/30】定年後は異世界で種馬生活  作者: 街のぶーらんじぇりー
第一章 定年おじさんは天才種馬
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第9話 けしからん洗礼

本日九話目!

「はぁ……っ。ルッツ君、本当は……初めてじゃないのでしょう? そんなに綺麗な容姿なのだから、お嬢さんたちが放って置かなかったのね」


「いえ、正真正銘、今日が初めてですよ」


「……あなた、天才かもね」


 「協会」敷地内にある離れのベッドから起き上がって、俺と、初めてのお相手であるお姉さんがまったりと会話を交わす。


 別に俺が特別上手だったわけではない。ただお姉さんの身体があまりに綺麗だったのでちょっと舞い上がっちゃって、スケベ大国日本では当たり前だった技を思わず普通に使ってしまっただけのことだ。この世界の「種付け」は最低限必要なこと以外はしないようだから、珍しがられたのだろう。それにしても、元の世界で経験していたものより、なぜだか今日のそれはかなり良かった。重要なのでもう一回言う、うん、かなり良かった。


 今日は「洗礼」の一日目だ。これから八日間、俺はこの離れに缶詰めになって、毎日違うお相手と「種付け」をすることになる。


 お相手を選ぶ権利は、全くない。「血統協会」が、俺の能力を分析するために最も適した女性を、厳正に選ぶのだ。主に下級貴族や騎士、そして有力官僚家などから、魔法の基本八属性である火、水、木、金、土、風、光、闇を持つ女性を一人ずつセレクトして、あてがうというわけだ。


 この女性上位の社会の中で、そんな実験相手みたいな相手に立候補してくれる人はいないだろうと思っていたら、意外にも希望者が引きも切らないのだという。下級貴族にはスタッドブック上位者の種付料を払う金銭的余裕はないが、「洗礼」であれば格付け前だが高位貴族の種が無料で得られるからだ。もちろんマテウス兄のように「ハズレ」もあるけれど、多くの場合高位貴族ほど能力が高いもので……リスクとメリットを天秤にかけると、俺みたいな伯爵家子息の「洗礼」は、かなりお得なボーナスイベントなのだとか。


 そんなわけで目の前にいる初めてのお相手は、男爵家の次女であるというヘルミーネさん。丸くて小さい顔と、少し垂れ気味のはしばみ色した目が印象的な、優しく包み込んでくれるタイプの女性だ。ちょうど十歳上の二十三歳、土魔法を武器に農務省で働いていると言うのだが、子供は男子が一人だけ、どうしても女子が欲しい、それも魔力の高い……というわけで、応募してきたというわけだ。


「これほど幸せな種付けをしてもらったのだから……九ケ月後が、楽しみだわ」


 お腹をゆっくりさすりながら、目を細めてそんな可愛いことをつぶやかれたら、俺も嬉しくてついまた元気になってしまう。彼女の目的は良血貴族の「種」なのだが、どうやら俺自身もお気に召して頂けたらしい、ちょっと嬉しいな。


 お姉さんもそれを目ざとく見つけて、


「あら? 若いっていいわよね。もう一度……する?」


「はい、ぜひお願いします」


 うん。二回目も、とても良かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから八日間、毎日違う女性と寝食を共にしつつ、「子作り」をした。準男爵家の水魔法使いアルマさん、平民だけど冒険者として名をあげたという火魔法使いのコロナさん、代々聖職者だという光属性のダニエラさん……みんな素晴らしかった。思春期の身体に戻った俺も、いわゆる「覚えたての猿」になってしまったのだろう、ひたすら頑張った気がする。


 そして、今日は最終日。


 こんな「洗礼」だったら何日続いてもいいと思うけど、ジーク兄さんに言わせると、あまり数をこなすと、かえって価値が下がるのだそうだ。「洗礼」で将来性を示したら、あとは血筋のよい女性に限定して種付けをしていくことで、年々自分の値段を上げていくのが理想なのだと。ならば今日はお相手が許してくれる限り一晩中でも頑張るぞと、余分な気合を入れる俺だ。


「ルートヴィヒ様、よろしくお願いします」


 現れたお姉さんは、意外なくらい若かった。どう見ても、二十歳に届いていない。カラスの濡れ羽色とでも例えられそうな黒髪と、同じく黒い、惹き込まれそうな瞳。丁寧な所作で三つ指をついて俺に頭を下げる姿は、まるで元世界の日本……いや、もう日本にこんな古風な習慣、滅びていたっけか。


「お姉……いや、アヤカさん、畏まらないでください。どうかルッツと呼んで」


「では、ルッツ様」


 やけに固いが、仕方ないか。八属性のうち最も適性ある者が少ない「闇」の候補者は少なく、多少血統の怪しい女性も採用される。アヤカさんも、二代前にはるか東方から移り住んできた一族の人で、もちろん貴族ではない。一族は闇魔法と暗殺術に優れ、王国の後ろ暗い部分を担当していて……それを束ねる族長の、姪にあたるのだとか。


「それでは、参りますね」


 そう言って優しく背中に掌を当てたつもりだが、彼女が感電でもしたかのようにびくっと反応する。唇を重ねると、細かい震えが伝わってくる。


「あの、もしかして……」


「はい、殿方と契るのは、初めてです」


 これには俺も驚いた。「洗礼」はあくまで種馬の能力を測るのが目的だ、お相手は一人以上子供を産んだ女性が選ばれるのが通例であるはずだ。


「闇属性の能力者は、我らの一族でも減っております。その力を必ず強く残せという、族長の命令ですので」


 黒い瞳に覚悟を込めて、アヤカさんは俺をじっと見つめている。何だかぐっときてしまった俺は、まだ震えている細い手を、両側から包み込むように握った。


「大丈夫です、優しくしますから」


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