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第44話 変わった拷問

 それから十日ほど、俺は一日おきにアルトナー商会に通って、離れでスザンナさんと子作りを頑張った。やけに頻繁な訪問になったのは、アヤカさんがめでたく妊娠して、そちらの「夜」を辞退されてしまったから、そしてベアトとアヤカさんが口をそろえて「できるだけ足しげく通え、何なら毎晩でもいい」と勧めてくれたからだ。妻たちから他の女性への種付けを推奨される気分はなんとも言えないが、そういうものらしい。


 そんなある日、王宮のベアトから呼び出しがあって向かうと、いきなり地下牢に連行された。もしかしてスザンナさんと頑張り過ぎたから浮気のお仕置きを……という妄想が一瞬頭に浮かんだが、そんなはずはないわな。一番奥にある拷問室には、三十歳前後のムキムキ暑苦しい筋肉男が椅子に縛り付けられてて、それをベアトとアヤカさんが冷ややかに見下ろしているという光景があった。


「ベアト、この男は?」


「ルッツを待ち伏せしていたので、アヤカの部下が捕まえた。情報を吐かせる」


「俺、全然気づかなかった……」


「そうだろう、ルッツは鈍感、だけど闇の一族は優秀。ルッツがスザンナのところに足繁く通えば必ず狙ってくると思ったが、正解。しかし……囮として役立っているから許すが、一日おきに通ってしかも平均三回とは、ルッツは猿並み」


 うぐっ。闇の一族が護衛してくれてるのは知ってたけど、いたした回数までベアトに報告しなくてもいいじゃないか。心なしかアヤカさんの視線も、ヒヤリとした空気をまとっている気がするぞ。


「賊よ。たった今吐けば痛い目に合わせず、五年ばかり牢で務めればいいようにしてやれる。ルッツを襲うよう命じたのは、誰?」


 筋肉男がつばを吐き捨て、それがベアトの足元を濡らす。彼女の翡翠色した瞳に冷ややかな光が浮かび、口角が片方だけ上がる。ああこれは本気で怒ってる、かなり怖いパターンが待っていそうだ。

 

「仕方あるまい、私はこういうことをあまり好きではないが」


 そう言うなり、男の上半身に霧吹きで水をかけ始めるベアト。何がしたいんだかさっぱり分からないが、まあ見ていよう。そして何か細かい粒を、男に振りかける……あれは芝かなんかの種かな?


「胎教に悪いからアヤカは見なくていい」


「何をおっしゃいます、私たちは王国の暗部を担う者、これも立派な教育になりますわ」


「アヤカは怖い女。では、荒事に向かない木属性でもできる簡単な尋問を、見せようか」


 一つ大きく息を吸って、ごくごく短い呪文のようなものを唱えるベアト。何も起こらないじゃないかといぶかる俺の目に、男のシャツの上で緑色の領域が広がる光景が映った。


「うわっ、痛え、てめえ……」


 男が悪態をつく理由が、やっと飲み込めた。先程ばらまいた芝のような草の種が発芽し、まるで芝生が成長するように、身体を包み始めているのだ。その根は、男の皮膚を徐々に食い破りつつある。


「人間の血を養分にすると、随分丈夫に育つものだ。お前の体液を吸い尽くしたら、庭にでも移植させるかの」


 これが、Sクラスと言われるベアトの木属性魔法。草を尋常ならざる速度で生長させ、男の身体をじわじわと侵食していくのだ。ゆっくり、だが着実に、目に見える形で進む肉体の崩壊は、相手を精神的に追い詰めるに十分だ。さっきまでの尊大な態度はどこへやら、真っ青な顔で歯を鳴らしている。


「おい、勘弁してくれよ、なあ……」


「私たちの知りたいことを教えてくれたら、考えなくもない」


「……」

 

「言わぬか……まあ、頑張るがよい」


「うわあぁぁっ!」


 最後に上がった悲鳴は、芝が上半身を占領し、下半身……股間に根を伸ばしてきたからだ。ベアトの操る残酷な雑草は、いよいよその根をあらぬところに食い込ませ始めたのだ。


「早く吐かぬと、お主は男でなくなる。まあ、どうせ全身吸いつくされるのだ、余分な機能など、あってもなくても変わらぬか」


 陶器人形のような表情に乏しい美貌が、こんな場面ではひたすら冷酷かつ無慈悲に見える。その口元が、ニヤリと歪んだ時、男は耐え切れず叫んだ。


「わかった、何でも話す! 許してくれえええ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「やはり直接の依頼主はあの妹一族だったみたいだけど……黒幕がいたんだ」


「これは、根っこから正さねばならぬ」


 男がさっきまでの強情ぶりをかなぐり捨ててペラペラとぶっちゃけた内容は、予想を超えるものだった。妹一家には高位貴族がスポンサーについて、ならず者たちに依頼する資金を出してやっているらしい。もちろんそれは、後日たっぷりと利を乗せて回収するのだろうが。


「ベルゲン伯……辺境の大物」


「商家の相続なんかに手を出さないといけないほど、追い込まれているのかな?」


「本来であれば伯の領地は北方貿易の利だけで十分やっていけるはず。金欠になってるとすれば、おかしな婿のせい」


 ベアトが教えてくれたところによると、四十過ぎの伯爵家当主は二年前に新しい婿を迎えた。二十代前半の輝くばかりの色気を持った美青年なのだそうで、その溺愛ぶりはつとに有名なのだという。だがこの婿は当主に高価な服や装飾品をねだっては、すぐに飽きて新しいものを欲しがるのだ。堅実を誇った伯爵領の財政も傾き、いまや当主があちこちの豪商を金策に走り回っているのが、高位貴族の間で噂になっているのだとか。


「ルッツは私に何もねだらない。婿の節度としては立派だと思うが、少し寂しい」


 ベアトは意外な言葉を口にしながら、ぽっと頬を染めていた。



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