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【書籍三巻7/30】定年後は異世界で種馬生活  作者: 街のぶーらんじぇりー
第一章 定年おじさんは天才種馬
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第4話 この世界の男は

本日四話目!

 それから数日は、ジーク兄さんが付きっきりで、俺にこの世界のことを教えてくれた。俺もようやく起きられるようになって、屋敷の敷地内くらいなら歩き回れるようになっている。専属の庭師が丹精したのであろう凝った庭園にしつらえられた東屋で、兄さんと紅茶をたしなみながらの勉強会だ。


 だが兄さんの話を聞けば聞くほど、予想をはるかに超えて、俺の常識を修正しなくてはならないことがわかってきてしまった。


 基本的にこの世界は、元の世界でいう中世的な文化をベースに構成されているらしい。科学の程度も、中世レベル。だが人々の暮らしは俺の知っている中世よりは、話を聞いている限りかなりマシみたいだ。その理由はひとえに、この世界に魔法があるからのようだった。


 兄さんの説明によれば、この世界には色々な種類の魔法使いがいるのだとか。彼らは風の魔法で森林を切り拓き、土の魔法でそこを畑に変え、干ばつが来れば水の魔法で雨を降らせ、草木の魔法で作物を大きく早く育てる。そしてもしも外国や魔物が襲ってくれば、火の魔法を操る魔法使いが敵を焼き払って民を守るのだという。病や怪我を癒やす者もいれば、錬金を……現代なら化学に相当するのだろうが……得意とする者もいる。そして、強い魔法が使える者たちが、この世界の支配階級……貴族を構成しているのだという。


 確かに、それほど多彩な魔法がすでに存在しているなら、科学は発達しないだろう。よく「必要は発明の母」というが、その必要性をみんな魔法が満たしてしまうのだからな。研究なんかしないだろう。


 ジジイの身でラノベなどたしなんでいた俺にとっても、この話はなかなか刺激的だ。アニメか小説の中だけに存在していた「魔法」が、手に届くところにあるなんて。俺の脳内に、超絶魔法を自在に操り魔物相手に無双して、襲われていた可憐な姫を助ける、いかにも厨二病的な光景が一瞬広がったのも、無理ないことだよな。


「じゃあ、俺にも魔法が使えるのだろうな。ジーク兄さん、使い方を教えてくれないか?」


 ジーク兄さんの驚く顔を見て、俺は当惑していた。確かにずぶの素人である俺がいきなり魔法を使いたいとか、おこがましい言い分かも知れない。だけど兄さんの説明では、この家はフロイデンシュタット伯爵家という、代々優秀な戦闘系魔法使いを輩出してきた伝統ある一族なのだとか。ならばその一員である俺にも、魔法に関してそれなりの素質があっても、いいのではないだろうか。


「ああ……そうか、僕たちにとって当たり前でも、異世界から来たルッツは知らないよね」


「どういうこと?」


「うん、よく聞いてね。魔法っていうのは、女性しか使えないんだからね?」


「えええっ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 終わった、終わってしまった。一瞬夢見た厨二病的ヒーロービジョンは、兄さんの残酷な宣言に、無惨に崩れ去ってしまった。


「女性だけ?」


「そうさ、魔法が必要になるほど大きな仕事ができるのは、女性だけさ。農地を拓くのも、街道を造るのも、戦で外敵をほふるのも……」


 マジかよ。この異世界は、男にとってなかなかハードな設定であるらしい。


「戦も、女性の仕事なのか? 男は、役に立たないのか?」


「もちろん戦になれば、男だって前線に出るさ。だけど男の役目なんてせいぜい……」


「せいぜい、何なんだ?」


「魔法使いの女性が必殺の術を練り上げている間、自分の身体を盾にして彼女を守るだけの役目さ。よく言っても肉壁、悪く言えば捨て石ってとこだね」


 ジーク兄さんがこともなげに言い捨て、そして続ける。この世界における男の役割は、偉大な魔法を駆使して社会を動かしている女性たちを影から支え、ひたすら奉仕することなのだと。


「だから王国でも、責任ある地位についている男性は少ないよ。もちろん元首たる国王は女王様だし、閣僚の中でも男性は一人だけ。軍だって将軍級のほとんどは女性だからなあ」


 なるほど、魔法に頼るこの社会で魔法が使えないということは、予想以上に致命的なハンデであるらしい。じゃあ男は何をしているのかと言えば、接客業であったり、役所や商家の事務職だったり、高度なスキルのない者は、肉体労働……ただしこの世界では、一人の男が一日作業してようやくできる量の力仕事も、熟練の女性魔法使いなら三十分で片付けてしまう。男性唯一の取り柄であるはずの「身体能力」に、さして意味がないのだ。


 それでようやく納得がいった。大貴族であるこのフロイデンシュタット伯爵家の使用人が、ほとんど男だったわけが。母さんと姉さんの世話をする侍女はいるけど、あとはみんな男なのだ。料理人から掃除夫、庭師から洗濯係まで……ことごとく男性であったのは、彼らに魔法が使えず、屋敷の外に仕事がないゆえなのだ。


 そして、俺が伯爵家当主だと思い込んでいたアルブレヒトと言う名の父さんは、実は伯爵様じゃなかった。「フロイデンシュタット伯爵」はあくまであの活発な母さんであり、父さんは単なる「婿殿」なのであった。貴族の称号は真に力あるものに与えられるものであって、それは女性でなければならないのだ。この世界の貴族も中世的な「家」の存続と発展を何より重んじているけれど、その「家」はあくまで女系を前提にした「家」ということなんだ。とにかく何から何まで、女性中心で回っているのがこの世界なんだ。


 いやあ、これは参ったなあ。


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