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第335話 お務めです

「それはそうと、今日はルリの顔をご覧になるのが目的ではありませんね。御屋形様としての大事なお務めがございます。それにはまだ陽も高いですから、まずは湯浴みをなさるのがよいでしょう、すでに準備させております。その後軽く御酒などたしなまれてから……」


 狂信者モードから少し我に返ったらしいアゲハが、俺のスケジュールをすらすらと口述し始める。そう、彼女は俺の護衛に就いて以降、秘書のような役目も自ら進んで請け負うようになったのだ。


 意外に……と言っては失礼になるけれど、アゲハは読み書きのみならず政治経済、芸術や文化にも造詣が深かった。なんでも、色仕掛け要員というのはどんな相手ともスムースに会話できないといけないわけで、他の闇一族と違う、高い教養が求められるのだという。男をとろけさせるテクニックばかりではなく、幼い頃から高位貴族もかくやというくらい学問と儀礼を叩き込まれているのだ。


 その学びを本来の色仕掛け任務に活かす機会は失われたけれど、書類の仕分けや巡察の手配、手紙の草稿起こしなど……彼女が側につくようになってから、俺の事務仕事はずいぶん楽になっただけじゃなく、精度もばっちり良くなった。これまでも何かと不便はしていたのだけど、もちろん文字すら最近覚えたミカエラにはこんな仕事頼めなかったし、俺のまわりの女性は全体に脳筋かオタク系が多くて、こういう任務に適するひとはいなかったからなあ。


「私がお手伝いできればよかったのですが、一族を率いる身ではままならず……それで思いついたのが、アゲハなのです。ルッツ様も、特別お気に召していたようでしたし……」


 というのがアヤカさんの弁だ。最後「特別……」のフレーズで背中にヒヤリと冷たい風を感じたのは、俺の気のせいとは言えないだろう。いやはや怖い怖い。


 そんなわけで、俺はもうスケジュール管理をアゲハにまるっと全部お任せしてしまっている。次に行くところがどこか、なんてのも最近は自分で把握していないことも多くなった。


 だが……さすがに今日の予定ばかりは、しっかり認識させられている。アゲハの言う「御屋形様の大事なお勤め」とは、闇一族の女性への種付けのことだからなあ。


 アヤカさんは、一族への種付けを年に数人程度に絞っている。あまり急速に闇一族が力を増すと無用な警戒心を呼び起こしてしまうからだ。これまで通算しても、アヤカさん自身も入れてようやく十名程度しか恩恵を与えていない。こうして許される数が少ないからこそありがたみが増すものらしく、自身や縁者に「御屋形様の種」を授かるため、一族の精勤ぶりは実にすさまじいという。


 そして今回の対象は、こないだの森人探訪ツアーに同行し、戦闘から索敵、そして俺たちの世話まで幅広く尽くしてくれたサヤさんとミフユさんの推薦する女性だという。


「今晩はユキナと臥所を共にしていただきます。明日は王都から商人の一行が表敬に訪れますので一旦市街へ帰って会食、夕方にまたこの里へ戻ります。明晩のお世話は、チヒロがいたします」


 はあ、こう完璧に予定を組まれてしまうと、本当に種馬感満載だぞ。せめてほら、お相手とじっくり語り合ったりして、ゆっくりと何かをはぐくんでいくような過程、あったらいいのになあ。


 ため息をつく俺に、お腹いっぱいになっておねむモードのルリを世話係の婆さんに預けたアゲハが、ちょっとあきれたような目を向けて言った。


「お考えになっていることはわかりますけれど、そんな自然な触れ合いを全員となさっていたら、御屋形様がみんな愛人にしてしまいそう……って心配を、お方様も殿下も、しておられると思うのですよ。御屋形様は、すぐほだされちゃう方ですから」


「……否定できないのがつらいデス」


 確かに、俺ってお相手に感情移入しちゃうタイプなんだよなあ。身の上話なんか聞いちゃうと、ついつい……コルネリアさんとかミカエラとか、そうやって好きになってしまったんだものなあ。


「でも、御屋形様のそういうところ、私は大好きですよ。だって、もし種付け相手を子作りだけの関係って割り切ってしまえる方だったら、私みたいな小娘をこれほどやりがいある仕事に引き上げてはくれなかったでしょうから……これでも感謝、しているのです」


 少し頬を染めてそんな可愛いことを言うアゲハの美貌に、また胸がドクンと大きく波打った。その蠱惑的な唇に思わず口づければ、その舌がおずおずと遠慮がちに応えてきて……背中に回った俺の右手が徐々に下がって、イケナイ動きを……。


「はい、御屋形様、そこまでですよ!」


 するりと俺の手から抜け出して、幼くも妖艶な笑みを浮かべるアゲハ。逃がさないようにしっかり抱え込んでいたつもりだったのに、これも「闇の蝶」のじらし技なのかな。


「これ以上したら、私も本気に……いえっ! たとえ一夜の関係であったとしても、他の女の匂いをつけて床に入るのは、粋ではありませんよ?」


 へい、おっしゃる通りで。今日のところは大人しく、種馬になるでござる。



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