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第326話 もっと楽な方法

 再びミカエラが、何やら詠唱して集中を高めている。


 もちろんその直前にはお約束の魔力チャージの儀式があったりするのだけど……グレーテルの殺人光線を感じつつも、ついまた唇からやってしまう俺だ。だってほら、ここは戦場だし、時間をかけてはいられないじゃないか。一番早い魔力補充は体液交換だって、君も知ってるよね? そう、これはあくまで効率化なんだ、決して俺の欲望との関係は……ないとは言い切れない自分が情けないのだけど。


 まあ、それはそれだ。まずはミカエラが、納得いく投擲ができるかどうかが問題……「奥様」のお怒りは、王都のカフェで鎮めてもらうとしよう。


「はあああっ!」


 心なしか、さっきより魔力を込めまくっている気がする。まあ、前に飛ばすエネルギーに加えて、回転まで要求したんだ、より魔力を食うのは、仕方ないよな。


「はっ!」


 最後の短い気合とともに、ものすごいスピードで撃ち出された大石は、城門に向かってまっすぐ飛び……轟音とともに門扉を一撃で吹っ飛ばした。ぶっとい丸太を並べて肉厚の鉄板でガチガチに補強したアレは、石の一発が当たったくらいじゃあ壊れないはずなんだが……規格外の弾速には耐えられなかったようだ。中学校あたりで習った、運動エネルギーは重量に比例して速度の二乗に、とかいう公式が思い浮かんでしまう。


 頼みの城門を破壊された叛徒どもが右往左往しているのが見えるけど、あえて向かってくるような勇者はいない。そりゃあそうだ……あんなでかい石が高速で飛ばせる魔法使いなら、小石一つで人間ひとりくらい容易に殺せるだろうという想像力くらいは、誰でも持っているだろうからな。


「うんっ! これは会心の一投ですっ!」


 当の規格外術者は、やたらと高揚している。


「俺には一投目との違いがよくわかんないんだけど」


「今回は、まったく軌道がブレなかったのですよっ! ルッツ様の指示通りに回転をかけたら、狙い通りに!」


 そうか、少しは効果あったのかなあ。一投目は完全に無回転で……無回転だと空気抵抗の影響を受けてサッカーとかバレーで意図しない変化球になるのは、誰でも知ってる。野球のナックルボールもそうだよな。それを防ぐには回転をかければいいって発想だったんだ。中身が空気のサッカーボールと違って、こんな重たい石に空気抵抗なんてほとんど関係ないんじゃないかと思いつつダメ元で試してみたんだけど、ミカエラが喜んでくれたのなら良かった。まあ彼女の「ブレた」ってのは、指一本分とか、そういうレベルだと思うけどね。この世界の女性、魔法に関しては例外なく完璧主義だからなあ。


「さあ、まだ石は残ってるわ、ミカエラさん。どんどん壊しちゃってくれない?」


「姉さん、ちょっと待って」


 ノリノリのリーゼ姉さんを制止して、俺はもう一つのアイデアをミカエラにささやく。彼女はもともとくりくりの目をもっと丸くした。


「確かに、そっちのほうが楽ですねっ! 一発だけ試してみますね! はっ!」


 さっきみたいに念入りな詠唱はなく、気合一発で一番大きな……おそらく二百キロくらいあろうかという石が、宙に浮く。それは先ほどのように強烈な速度ではなくふよふよと、上空に向かってゆっくりと昇ってゆく。


「よし、その辺で一旦ストップ。あとは城の一番デカい建物の上まで移動して」


 石はゆっくり、城の中央にある一番ごつい建物の真上に移動していく。石に向かって敵があれこれ魔法を飛ばしてくるけど、何しろどでかく重い石だ、火球や雷撃が多少当たったところで、ビクともしない。


「よし、今度はひたすら上に動かしてくれ。そしてもう限界ってなったら魔法を切るんだ」


 俺の言葉にミカエラがこくりとうなずくと、巨石はじわじわとまた高度を上げる。


「すごいな……辛くないか?」


「まったく平気ですね。ゆっくり動かす分には、魔力はほとんど使いませんしっ!」


 精々三~四十メートルくらい持ち上げられればと思っていたのに、ミカエラはその倍くらいの高さまできても、涼しい顔をしている。


「うん、このへんでやめておこうか」


「ええ~っ、まだいけますよっ?」


 さすがに制止すると、ミカエラが不満顔を向けてくる。魔法を使って何かを始めると、必ずその限界を試したくなるのが、この世界の女性に共通する病気なんだよなあ。


「いいから。そこで落として」


「む~ん、仕方ありませんね、いきますよ……それっ!」


 彼女が少し肩を落とすと、巨石は重力で勝手に落下していく。胸の中で三つ数えた頃には、すでに轟音が響いて……城の中心で威容を誇っていた重厚な石造りの尖塔が、文字通りバラバラにぶっ壊れていた。


「こ、これは……すごいわね」


 ようやく言葉を絞り出したリーゼ姉さんの表情には、驚愕がにじんでいる。


「うん、単なる破壊だけなら、こうやって上空から落とした方が、術者の負担が少ないと思うんだよね」


 そう、一気に加速しなければならないストレート軌道の投石は、ものすごいエネルギーを瞬間的に発生させる必要がある。それに比べたら自由落下方式は、必要とする高さまで、ゆっくり自分のペースで上げていけばいい。まあ、同じ距離を走るのと歩くのと、どっちが疲れるかって話だよな。


 まあ、あの速度で水平に飛ばすパワーも、使い道がいっぱいありそうだけど……。


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