第321話 あれこれ実験
ティナの異能が明らかになったところで、女性たちの実験大会が始まった。何を実験するのかって? もちろん、ありとあらゆる属性の魔法を、ティナに食わせてやろうというのさ。
すでに、水、火、土の属性魔法は「食える」ことが、わかっている。ま、このへんは五感で認識できる物質を生み出す属性だからな。他のわかりにくい属性は、なかなか難しいのではなかろうか。
「まずは私ね。光属性といえば身体強化、これを使えると強くなるわよ!」
グレーテルが張り切ってティナの前で身体強化魔法を使ってみるけれど、何の興味も示さないのが我が子だ。まあ、見えないし、感じられないものだからなあ。
「じゃあ、治癒魔法はどう?」
そう言って自分の指を剣で傷つけては、大陸最強の光魔法で直してみせる姿に、ティナはまったく喜ばないどころか……次々流れる血に、泣いてしまった。
「あちゃあ……光属性は、ダメなのかな?」
「ティナにはっきり認識できる魔法じゃないと、ダメなんじゃないの? たとえば、雷撃とか」
「あっ、そうね」
俺の思いつきにハッとして、グレーテルはその白く美しい両手の間を、ちっこい稲妻でつないでみせた。俺には荒っぽい力任せの魔法ばかり見せてきた彼女が、こんな繊細な魔法も操ってみせることに、少しだけ感心する。
「きゅう……」
ティナの小動物っぽい声が聞こえたかと思うと、グレーテルの両手から放電がすっと消えた。気を取り直してもう一度両手に魔力を注ぎ込むけれど……肝心の雷撃が、いっこうに現れないのだ。
「驚いたわ。もちろん全力じゃないけれど、私の雷撃魔法を完全に止めて、というより発現した瞬間に吸い取っているのよ。こんなちっちゃい子のどこに、そんな魔力容量があるのかしら?」
「グレーテルちゃん、遠慮なく全力を出してあげて」
やたらとスパルタな発言をするのは、何とリーゼ姉さんだ。
「いやいや、さすがに危ないだろ……」
そうさ。グレーテルの魔力は二人の子を産んだことで、SSSクラス相当に爆裂成長している。いくらティナが魔法の大食い王でも、無限に食えるわけじゃないだろうさ。腹一杯になったら何かと危ないんじゃないの?
「こんな機会はめったにないんだから、ティナの限界を見極めてあげなくちゃ。大丈夫、多少調子が悪くなっても、ここには治癒魔法のプロが、二人もいるのよ!」
うはあ。やっぱりこの世界の女性は、魔法オタク集団だ。俺を囲む女性の中では一等常識人だと思っていた姉さんですら、新たな魔法才能を発見すると、こんなにはっちゃけてしまうんだなあ。
「そう、絶対ティナを傷つけたりしないから安心しなさい、ルッツ!」
凛々しく宣言した幼馴染が、グレーの瞳を輝かせる。そしてその両手が、プラチナ色のオーラをまとう。
「ふっ、はあっ!」
おいおい、子供との魔力比べに、全力の気合なんか入れちゃってるよ。だけどティナは、キャッキャと笑っている。
「何という、恐ろしい子だ……」
もはや女王陛下も、完全に引いている。まあ、そうなるよなあ……ベルゼンブリュック最強の魔法使いであるグレーテルが放つ魔力の奔流を受け止めているというのに、まるで楽しんでいるかのような反応をしているのだから。
どれほど力比べが続いただろうか……我が幼馴染の両手の間に、ようやく稲妻の橋がかかった。
「ふむ。異才の子も、さすがに『光の勇者』には勝てなかったか」
ベアトが漏らした感想に、グレーテルが首を横に振った。
「いいえ、ベアトお姉様。この子は、とりあえず満足したから食べるのをやめただけです。限界は、はるか先にあるはずです。私は断言しますわ……フロイデンシュタット侯爵令嬢アルベルティーナは、この国の至宝となるでしょう」
そう「とりあえず」魔法をたっぷり食って満足したティナは、興奮しまくっている大人たちのことなど知らぬげに、気持ちいい寝息をくうすか立て始めていた。まるで、お母さんのおっぱいに満足した、赤ちゃんのように。
◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数日……この国の魔法使いトップグループを張る女性たちがティナを取り囲み、どんな魔法をどれだけ食うことができるのか、実験が繰り返された。
闇魔法はさすがに無理かと思われていたのだが、意外にもデバフの類は大好物のようで、アゲハが必死で弱体化や睡眠の魔法を掛けまくっても、ティナは元気になるだけだった。風魔法も肌で感じられるわかりやすい魔法だからなのか、あっさりと食っていたが……アデルが得意とする転移魔法は、不思議な顔をして見つめるだけの結果に終わる。
木属性と金属性は……まったく成果なしだった。まああれは、植物やモノにアプローチする魔法で、直接感じ取れるようなもんじゃないからなあ。
「で、この子は今や、八属性のうち六属性の魔法を身体にたっぷりとため込んでいる危険人物になったわけだが……そなたたちは、どこかの国でも滅ぼすつもりなのか?」
陛下のジト目が、とっても怖いけど……さすがにこれは、俺が悪いわけじゃないぞ!




