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第302話 冒険者のコロナさん

 いつものように、バーデンの街から「魔の森」へ向かう冒険者たちをぼんやり眺めていた俺は、そこに懐かしい女性の姿を見つけた。


 ウルフカットの弾む赤毛とハリのある肌、そして野性的なギラギラした眼光を放つ目と、生き生きとした唇、ムキムキ筋肉のついた肢体、引き締まったヒップ……エネルギーにあふれたその女性は、「洗礼」でお世話になったお相手の一人、火属性のコロナさんだよな。お子さんも冒険者デビューしたから、自分は子作りをした後に食堂でもやるんだと言ってたような気がするけど、結局まだ冒険者稼業を続けてるんだなあ。確かあの頃三十歳って聞いたから、今は三十四か、五になるはずだけど……あれ? どう見ても、そんな齢には見えないけどな?


「コロナさん?」


「うん? ああ、ルッツ様だね! すっかり出世しちゃって……おまけにいい男になったんだね、見違えたよ」


 やっぱり、あのコロナさんに間違いない。だけど、やっぱり見た目が若くなってるよなあ。もともと活き活きしていた彼女だけど、やっぱり日焼けで痛めつけられた肌は荒れ気味で、ぽつぽつとシミができてたりしたのを覚えている。しかし今はどうだ……もちろん一面日焼けしているのは同じだけれど、その肌は健康的な小麦色で、シミなんてどこにも見当たらず、ぷるぷるとみずみずしい。何も知らなかったら、二十代だって言っても普通に通るのではないだろうか。


「まだ冒険者、続けてるんですね」


「そうなんだよ。あちこち身体の動きが悪くなって、もうやめようって思ってたんだけど……ルッツ様からあの宝物をいただいたら、魔力が上がっただけじゃなく、何か見た目もこんなになってね。娘と一緒に冒険者やっても、不自然じゃなくなってさ」


 そう言ってコロナさんが引っ張り出してきた女の子は十八歳か十九歳か……中剣に軽装鎧を身に着けているところを見れば、お母さんと同じく魔法戦士なのだろう。


「二人並ぶと、姉妹にしか見えませんね」


 そうなのだ。なぜかものすごく若見えになったコロナさんとその娘は、同年代にしか見えなくて……もしかしてコロナさん、元世界で言う「美魔女」ってやつか?


「そう言ってもらえると嬉しいね。なんだかエンマを……ああ、ルッツ様の種で孕んだ子だけどね……産んだ頃から、やたらと肌の調子が良くってね。鏡を見るのが楽しみになったくらいさ。おっと、仲間が呼んでる、それじゃあね、領主様!」


 まるで少女のような足取りで、娘と手を取り合って掛けていくコロナさんの後ろ姿に、何やら不気味な予感を抱いてしまう俺。これは、確認しないとやばいよな?


    ◇◇◇◇◇◇◇◇


「全員、空気弾用意……てっ!」


 今日も今日とて、我がバーデン領軍は訓練に忙しい。風魔法部隊を指揮しているのは、俺の種のせいで領軍随一の風魔法使いになった、コルネリアさんだ。


「よし、本日の訓練は以上、解散してよし!」


 張りのある声が心地よく響く。こころなしか、以前より高い声になったように聞こえるのは、俺の気のせいか。


「ルッツ様、お呼びとうかがいましたが」


 軽く身支度を整えて、敬礼するコルネリアさんは、相変わらず凛々しくて素敵だ。だけど、その汗ばんで滑らかな肌なんかをまじまじと見ると、俺の疑念がますますふくれ上がる。


「うん、ちょっと今晩は、食事に付き合って欲しい。君の上司と一緒にね」


    ◇◇◇◇◇◇◇◇


 その日の晩は、王都の高級料理店とは比べものにならないけど、バーデンいちのレストランで、甘口のワインなどたしなみつつ、軍人さんの好みに合わせてがっつりお肉系ディナーだ。俺の向かい側には、軍服からワンピースに着替えた女性が二人……右にはコルネリアさん、左には領軍総司令官のアントニアが静かにグラスを傾けている。


「奥様やお方様を差し置いてルッツ様と食事ができるなんて、幸せですわ」

「ルッツ様は私たちに何かお聞きになりたいことがあるようですね、何でしょう?」


 領軍の二人はさすが年長者、わけがわからないまま呼ばれたというのに、落ち着いたものだ。アントニアが向けてくる視線がなんだか熱を含んでいるようで、むしろ俺の方がドギマギしてしまう。


 そのアントニアは二ケ月前に、彼女そっくりの容姿を持った愛らしい女の子を出産していて……もちろんその魔力は、土属性のSクラスだ。当然アントニア本人もSクラス相当に魔力を伸ばしていて……これまで国軍でたゆまず重ねてきた鍛錬の成果もあって、女王陛下をしのぐ土魔法使いと言われる存在になっているんだ。そんな彼女が「ルッツ様のお役に立ちたい」とかなんとかしおらしいことを言って、国軍幹部の地位を捨ててこんな辺境に来てくれたんだよなあ。ものすごくありがたいんだけど……その想いが、ちと重たいわ。


 そんな彼女の方に目を向ければ、出会った頃はきついと思った吊り気味の目が優しく緩み、なんだかほわんとした微笑みを俺に投げてくれる。だけど俺は、彼女の笑顔をみて、確信した。


 もしかして俺の種って……またチートを発揮しちゃってるんじゃないの?


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