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第239話 オークの子

 冒険者女性たちを全員助け出す道は、なかなか厳しいようだ。


 捕まっていた女性たちから聞いた話では、すでにオークに妊娠させられた多くの女性は、別室で「飼われて」いるのだという。そしてまだ孕んではいないが、光属性持ちかつ一番の美人であるパーティーリーダーが、この群れを率いているオークジェネラルのお気に入りとなって、いずこかへ連れ去られたのだという。 


 とりあえず乱暴されていた四人は、ツェリさんの「浄化」で望まぬ受胎を防いで、広間を守っているギルド隊のもとへ送った。そして俺たちは、風魔法使いヘルガさんの力を借りながらさらに枝道を探索する。そして、二本ばかり無駄なルートを探索した後のこと。


「いました。人間族の反応が二十数人、オークが五体」


 それを聞くなり、無言で前衛部隊がおどりこむ。グレーテルの斧一振りで見張りの二体を葬り、武装していなかった二体は冒険者の戦士たちが片付けた。


「抵抗する者はいないわね。さあみんな、助けに来たわよ!」


「帰れるの?」「ああ、至高神よ……」「あ、ありがとう!」「夢みたい……」」


 グレーテルの言葉に、歓喜の声が次々重なる。まあとりあえず、良かった。みんなお腹にオークの子を宿してしまっているのがちょっとアレだけど……残念ながらその子たちは、光属性の魔法で浄化するしかないのだろうな。


 そこまで考えたところで、ふと気づく。


「あれ? オークの反応は、五体だって言ってなかった?」


 そうだ。ヘルガさんは確かに「五体」って言い切った。だけどグレーテルたちが倒したオークは、四体だけ。あと一体はどうなってるんだろう……ヘルガさんの方をもう一度見れば、彼女は背を丸めて壁の方を向いている一人の女性を指さす。


「え、彼女が……あっ」


 俺にもわかってしまった。赤毛の美しい女性が、必死で何かを隠そうとしているのを。それはおそらく……。


「オークの子ね。こっちに渡しなさい、生かしてはおけないわ」


 ギルド支部長が、冷徹に告げる。そう、女性が抱いていたのは、オークに孕まされて産み落としたのであろう、彼女の子……だが人間社会にとって魔物との混血児は、あくまで魔物なのだ。同じような事情で産まれた魔物の子は、ほぼ例外なく母親の手から引き離され……殺されるのが習わしなのだという。


「い、いやですっ! お願い、許して……この子は……無理矢理産まされたとはいえ、私の子供なのです!」


「魔物の子は、殺す決まりなんだ。許しておくれよ」


「いやっ! 見て、顔だって人間そのものじゃないの……」


 確かにその子の顔は、オークの豚顔とは似ても似つかない、整ったものだった。大きな豚耳が頭に乗っかっていることを除けば、人間の子と変わらない。いやむしろ、美しい女の子と言わざるを得ないだろう。


「どうしてこんな綺麗な顔に?」


「ネーナを孕ませたのは、オークジェネラルです。ジェネラルは、下級オークの豚顔ではなく、雄々しい男性の顔をしていますから」


 俺の疑問に、囚われていた女性の一人が答えてくれる。そうか、この母親は、ネーナさんというのか。


「ジェネラルの子なら、危険度は最悪じゃないの。ますます許すわけにはいかないね、渡しなさい!」


「いやぁ、お願い、何でもするからこの子を助けて!!」


 ネーナさんが一層強く子供を覆い隠すように抱きしめる。胸が痛くなるような光景だけど……魔物の血を引く子がこの中世的社会に受け入れられることは、確かに難しい。


「そうだね。自分のお腹を痛めた子は、守りたいだろう。だが、結局はオークの血を引く子だよ。この子が育って、罪のない市民を傷つけたら、アンタが責任を取れるのかい?」


「それは……」


 さすがのネーナさんも、口ごもる。そう、上級魔物の血を引く子がどう育つのかなど、過去の事例もなければ、予想もつかないのだ。オークジェネラルの戦闘能力や凶悪性が目覚めたりすれば、並みの冒険者でしかない彼女では、抑えようもないだろう。


「そうでしょう。辛いのはよ~くわかるけれど、人間社会に帰るなら、その子はあきらめな。このままその子と二人、魔の森で生き抜く覚悟なら、止めはしないけどさ……」


 支部長の言葉に、ネーナさんが完全に下を向く。魔物と野獣が闊歩する魔の森で、赤子を抱えて暮らすことなど、グレーテル級の能力が必要……とても彼女には無理なのだから。


「さあ、その子をお渡しよ、苦しまないようにしてあげるから……」


「……」


「聞き分けなよ!」「待って!」


 しびれを切らせて迫る支部長の言葉に、グレーテルの少女らしい高音が食い気味に重なった。


「この子が成長したら、魔物の本質が目覚めるかもしれない、それは否定できないわ。なら、もし最悪の事態が起こったときに、それを抑えられる人間が育てればいいわけよね」


「いやしかし、そのような手練れなどギルドには……」


「いるじゃない、ここに」


 俺の大事な幼馴染が、ドヤ顔で自分のうっすい胸を指さした。


 ああやっぱり、こうなっちゃうんだ……。


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