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第176話 初めての妹

「いやあ、可愛かったなあ……」


「本当ですね! 『炎の英雄』様そっくりの鮮やかな赤毛に、ルビーみたいにくりっと輝く瞳……思わず私も、見とれてしまいました!」


 馬上でつぶやけば、並んで騎行するミカエラから、打てば響くように弾むアニメ声のレスポンスが返ってくる。とにかくこの娘は反応が早いし、感じたことを言葉にすることが上手なんだ。まともな教育を与えられず、字の読み書きをこないだやっと覚えた彼女だけど、きっと地頭がかなり良いのだろう。


 そんな風にまったりと会話を交わす俺たちは、王都からの帰途……すでに今日中にはバーデン領に着こうかという位置にいる。身重のアヤカさんや、ついていくとゴネたけど総動員で止められたグレーテルに代わって、俺の護衛隊を指揮するのは、まだ十四歳のミカエラなのだ。


 ほんの二月前、春の祝祭を理由に王都へ行ったばかりの俺なんだけど、今度ばかりはどうしても実家のフロイデンシュタット家を訪れたくて、ちょっと無理して王都行きを決めたのだ。だって……俺にとって初めての、妹が産まれたって言うのだから。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 四十代半ばになっても相変わらずラブラブの我が両親が、年甲斐もなくこさえた赤ちゃんは、母さんの予感に違わず、女の子だった。産まれてまだ十日くらいしか経ってないというのに、濡れたような輝きを放つ色濃く紅い髪がしっかりと生え揃い、大きな目はぱっちりと開いて、宝石のようにキラキラした瞳が無邪気に見つめてくるんだ。


「ふふっ、アルブレヒトだけじゃなく、ルッツもデレデレね」


「うん、妹ってこんなに可愛いものなんだなあ。ねえ母さん、身体は大丈夫だった?」


「な〜んにも問題なかったわ。何しろ六人目だからね、慣れたものよ!」


 母さんは、こんな時にもいつも通り楽天的だった。結構な高齢出産だし、俺は心配したんだけどなあ。


「こんな見事な赤毛はめったに見ないわ、間違いなく火属性でしょうね。それに、かなりの魔力持ちだと思う……」


 そう言えば母さんはある程度、他人の魔力も見ることができる能力を持っているのだった。


 せっかくだからと滞在をちょっとだけ延長して、妹の洗礼にも付き合ってきた。結果はまあ母さんの予想通り……火属性のSクラス。母さんのSSクラスには及ばないけど、国家間戦争では最優と称される火属性……王都は「炎の英雄」を継ぐ者が現れたと、沸き返っている。


「我が妹ながら、世間の期待が重過ぎて、可哀想になってくるな」


 リーゼ姉さんも「英雄の娘」という圧力に、ずっとさらされて苦しんでいた。そして妹は母さんと同じ火属性……周囲の期待は、水属性だった姉さんとは比較にならないほど、大きくなるはずだ。姉さんのようにそれを努力で跳ね除けるか、それとも……まあ考えても仕方ない、今は新しい家族の誕生を、喜ぶとしよう。


「きっと大丈夫ですよ。あれほど明るくて前向きなヒルデガルド卿の血を引かれているのですもの、多少のストレスなんかふっとばしちゃう、強い女の子になると思います!」


「そうかなあ、血筋は関係ないと思うぞ……」


 だって……昭和のたとえで言えば「便所の百ワット」って感じで無駄に能天気な母さんからも、何かと考え込むタイプのリーゼ姉さんや俺が生まれて来るんだぜ。むしろミカエラ、あんな境遇で育ったというのに、底抜けに明るい君の性格がどこから来たのか、むしろ俺はそっちに興味があるよ。


「ああ、あんな可愛い子だったら、私も欲しいかもです!」


 おいおい、子供が欲しいって……子種の主は誰なんだよと思わず突っ込みたくなる俺だが、屈託なく笑うミカエラの横顔を見る限り、その台詞に特別な意味はないらしい。ほっと安心しつつも、少し寂しく感じるのは、男の身勝手というものなんだろうなあ。


 そんなのんきな会話をしているうちに、シュトゥットガルトの街が見えてきた。ああ、なんだかホームに帰ってきたっていう、ほんわかした安心感がする。帰ったら、留守番でむくれているだろう幼馴染の、ご機嫌伺いに行かないとなあ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 のんびりと街に入った俺たちが、異状に気付くのにそれほど時間はかからなかった。街をゆく戦争捕虜たちの間に、ピリピリした緊張感が流れているんだ。


「ああ、よく帰ってきてくれた、待ってたんだよ」


 出迎えてくれたマックスが、目の下に隈を作っている。寝不足になるほど忙しいイベントは、予定されていなかったはずだが……


「早速だが報告事項がある」


「うん。俺もなんか街の様子が変に感じて、マックスに聞かなきゃと思っていたんだ」


「まさに、それだ。実は、帝国の女魔法使いが何をトチ狂ったか、公国の男に全力の風属性攻撃魔法をぶちかましてしまったんだ」


「ええっ? 何で?」


「わからん。だが、この事件を受けて公国の連中は、一様に帝国人を敵視している。そして最初は茫然としていた帝国人も、向けられる敵意に反応するようになってしまってな……このままではバーデン領内で、帝国捕虜と公国捕虜の間で、騒乱が起こりかねん」


 え~っ、そんなに重たいことになってるの??


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