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第170話 そして結果は

 グレーテルを相手にむちゃくちゃをやった夜から、二週間ちょっと経った。今日も今日とて彼女は魔銀の斧を振るって、ひたすら木こりに打ち込んでいる。


 ふにゃふにゃになるまでアヤカさんに弱体化させられ、どうやら夜の準備運動も十分施されていたらしい彼女は、あの晩だけだけど俺に最高の征服感を味わわせてくれた。でも翌朝にはすっかり回復したようで、早速リベンジをかまされてしまった……光属性の回復力、恐るべしだ。


 まあそれ以来、何事もなかったかのように働きまくっているグレーテルなのだ。俺はただその凛々しい姿を、ミカエラに守られつつ、ぼうっと眺めているだけ。


 その時ふと、グレーテルが手を止めて、握った魔銀の斧を怪訝そうに眺めた。


 そして彼女が何やら一つ気合を入れると、いつもだったらうっすら銀色の光を放つそれが、まるでそれ自体がLED発光体でもあるかのようにプラチナ色の眩しい光束を放射して……その斧を一振りすれば、その光が彼女の前にでっかい扇のように広がって……二十本を超える樹木が、一斉に倒れていく。


 これは、まさか。俺が走り寄ると、そこには両の目からとめどなく涙を流している、ストロベリーブロンドの幼馴染がいる。


「グレーテル……もしかして」


「……私、わかった……魔力が、身体の奥から湧いてくるの」


「それってやっぱり……」


「うん、うん……ありがとうルッツ、私に宝物を、授けてくれて!」


 斧を放りだしたグレーテルにがしっと捕らえられて、魔力強化された両腕でぎゅうぎゅうと抱き締められる……うん、彼女の嬉しい気持ちが伝わってきて、とっても幸せだ、幸せなんだけれども……


 俺は久しぶりに、グレーテルのベアハッグで失神した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「マルグレーテ様、ご懐妊おめでとうございます」


「うん、ありがとうアヤカ。こんな日が迎えられるなんて……とても幸せ、アヤカにはいくら感謝しても足りないわ」


 恭しく頭を下げるアヤカさんに、いつもはキツいその目を、柔らかく緩ませるグレーテル。


「いえ、これは私の願いでもありましたから……」


 そうだよな、グレーテルはおかしな種馬チート能力があろうとなかろうと、ただ純粋に俺の子を熱望していた。そんな彼女には一向に子が授からず、自分は間もなく三人目をその腕に抱こうとしている……優しいアヤカさんは、ずっとそこに引け目を感じ、グレーテルに力を貸したいと願っていたのだ。


「でも、マルグレーテ様の持つ光の力を抑えるのは、本当に大変でした。さすがは『勇者属性』とも言われる光のSクラスです。ご懐妊で魔力が増した今はもう、私の力では止められませんでしょう」


「うん、感じる。今までとは魔力の量が違うわ。何割増えたというレベルじゃないの、ケタが違うというか……もう、魔王が来たって、負ける気がしない」


 うはっ、魔王か、大きく出たよなあ。いにしえの伝説にある魔王を倒せし勇者も、光属性の高位遣い手だったのだというけど……その勇者は、SSクラスだったのかその上だったのか。いずれにしろSクラスのグレーテルが「ケタが違う」と言っているのだから、今の彼女はSSか、ひょっとしてそれ以上の魔力を具えているのだろう。


「それは、祝着至極ですわ……ですけど、お子を孕まれたからには、しばらく激しく身体を使うお働きは避けていただきませんと」


「そこは心配ご無用よ。私は大陸最高の治癒魔法使いなんだから。呪いでもかけられない限り、直せない怪我も病気もないの。そしてお腹から伝わってくる魔力を常に感じているから、不調があったらすぐわかる。子供がお腹に宿ってくれさえすれば、絶対元気に産む自信があるから!」


 ま、確かにそうか。もともとSクラスの頃から、グレーテルの治癒魔法は無くした腕まで生やすような、あり得ない高レベルだった。今懐妊して、大きく増えた魔力を以てすれば、治せない障害はないだろうな。


「そこまで仰るなら……マルグレーテ様の思いのままに」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「本当に……良かったです」


「ありがとう。アヤカさんのお陰で、グレーテルの望みを叶えることが出来た」


「……そう仰って頂いただけで、報われた思いです」


 少し頬を染めるアヤカさんが、とても愛しい。グレーテルも大事だけど、こうしてひたすら影から支えてくれる彼女も、俺にとってなくてはならない女性なんだ。


「とはいえ、マルグレーテ様の警護も固めませんと」


 うん。近接戦闘最強のグレーテルも、背中に目があるわけじゃない。彼女ももう自分一人の身体じゃないんだ。闇の一族にまわりを固めてもらえば安全だ。


「ホノカの乳母たちを、現場復帰させるタイミングです。まずはマルグレーテ様とルッツ様の護衛から就けていきます」


「あれ? じゃ、ホノカの世話は?」


 そう、アヤカさんの次女ホノカは、生まれたときから「魅了」の魔法を無意識にバラまいていて、並の魔力持ちが近づけば一発でおかしくなってしまう。だから俺の種を付けて魔力Aクラス相当になった女たちを乳母として付けていたのだが……代わりがいないだろ。


「大丈夫です。サヤたち三人が乳母につきますから」


 ああ、なるほど。帝国戦で一緒に戦ったサヤさん、ナツさん、ミフユさんが、先月相次いで子供を産んだんだ。もちろん全員俺の種ではあるのだけれど、俺には全然似ていない、黒目黒髪の女の子たちだ。彼女たちもお腹の子供から魔力をもらい、そして鍛えられて……みんなAクラス相当の実力者になってしまっていて……ホノカの「魅了」に耐えられるって寸法か。


「しばらく彼女たちを、生命のやり取りから離してあげられます。そして乳姉妹の赤子たちは長じて後、ホノカの忠実な臣となるでしょう」


 まあ、闇一族の社会も、うまくできているってことかなあ。親がいつ帰ってくるかわからない稼業だから、子供は小さいときから一箇所に集められて、一族で育てるのだと言うしなあ。うんうんと感心している俺の耳に、サヤカさんの低い声が響く。


「護衛の四人には、手を付けないでくださいましね。順番というものがございますから」


 うっ、俺ってやっぱり、信用されてない?


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