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第167話 アニメ声の鑑定お姉さんと……

「すごかったですぅ、これで二日くらいは徹夜で鑑定できますぅ……」


「徹夜はだめですからね。女性はしっかり睡眠をとらないと」


「は、はいぃ……」


 俺の左腕を枕にして、胸に唇を寄せてくるのは、あのアニメ声の鑑定お姉さん……ニコルさんという二十歳の、甘え上手な女性だ。そう、このひとも気が付けば、金のライラックを豊かな胸に飾っていたのだった。金のブローチは「リラの会」副会長の印、彼女が望めば、月に一度だけだけれど俺が種付けをしなきゃいけないってことになっている。


 そして昨晩彼女は、その権利を行使したってわけだ。まあ彼女はクラーラの件でいろいろ世話になったからなあ。何か飴をしゃぶらせなきゃって思っていたから、俺の種でいいっていうならそれもありかと、ちょっといろいろ頑張ったんだ。


 たっぷり触れ合ったこともあって、俺の魔力がじゃぶじゃぶ彼女に染み渡ったみたいで、彼女はあふれる魔力に感動しているらしい。まあ、俺も結構感動したぞ……している最中の声までアニメ調だったのは、なかなかクるものがあったからな。


「鑑定頑張ったら……また、抱いてくれますかぁ?」


 ちょっとたれ気味のおっきな目をうるうるさせておねだりなどされたら、もう辛抱たまらん。もう一回戦いきたいところだが、今日もお仕事だ。女と寝くたれて遅れましたなんて言ったら、グレーテルが怒りの鉄槌を下すだろう。


「ええ、ニコルさんの鑑定は、バーデンにとってすごく有難いものですから。頑張ってくれたら、また一緒に過ごせますよ」


「頑張りますぅ!」


 喜んでもらえているらしいのは嬉しいのだが、なんだか自分がホストっぽく感じる今日この頃だ。この調子で次々「リラの会」メンバー女性としてたら、いつか刺される日が来そうだなあ。


 あくびを噛み殺しつつ冒険者宿の離れから出ると、朝っぱらから控えていたらしいミカエラに生暖かい視線を向けられる。「このクソ主人、ヤッてる暇があったら働けよ」とか、思われちゃってるかなあ。護衛としてついてくれるのはとても心強いけど、こんな姿ばっかり見せていたら、俺が彼女をグレーテルが言うような意味で「傍に置く」日は、来そうもないな。


「ごめん、待たせちゃった。お詫びに、オヤツのリンゴ飴でもおごるよ」


「オーク串焼きのほうがいいですっ!」


 そうか。このくらいの女の子は、食べ盛りだもんな。俺は、思わず顔をほころばせた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 開拓最前線の休憩広場には、捕虜たちに支給されるお小遣いを当て込んで、飲み物を売ったりちょっとした軽食を食べさせたりする露店がいくつも並ぶようになっている。こうやって領地の中で経済が回っていく感じ、嬉しいよなあ。


「はむっ! むぐっ、むぐむぐ……」


 約束通り午前の休憩時間に買ってあげたオーク肉の串を、仔犬のような表情で無邪気に頬張るミカエラ。満面の笑みを眺めていると、こっちまで幸せになりそうだ。


「ミカエラは、本当にうまそうに食うなあ」


「もちろんですよ! だって、お肉なんて食べられることは、めったにありませんでしたからね!」


 明るく言い放っているけど、ようは帝国にいる時分、彼女がいかに粗雑な扱いを受けていたかよくわかるってもんだ。帝国では貴重な土属性Aクラス魔法使いとして、子供の頃から冒険者に貸し出されて結構なカネを稼いでいたはずで……本来なら肉どころか、もっと美味いものをたらふく食える身分だったと思うのだが、実家たるヘルツホルム家は彼女の稼ぎをひたすら収奪するだけで、それにふさわしいご褒美どころか、まともな生活や教育を与える気がなかったってわけなんだ。さすがに俺も、怒りを禁じ得ない。


「あっ、今は結構幸せですよ。お腹いっぱい食べられるし、先輩たちも無闇に殴ったりしてこないし……」


 俺の表情が曇るのを見てあわててフォローするミカエラだけど、それはフォローになってないと思うぞ。その言葉が意味するところは、ようは帝国ではろくに食わせてももらえず、先輩冒険者に殴られまくってたってことだからな。どうしてそんな環境で、こんなに能天気な……もとい明るい性格に育ったんだろう。


 ヤバい、なんだか俺、この子を守りたいとか思っちゃってる。この世界じゃあ男なんて、女性に依存し、守ってもらう生き物だというのに。だけど気がつくと俺は、チョコレート色の髪を、自分の胸にぎゅうっと抱き込んでいた。


「あの、領主……さま?」


「……」


「はっ! お肉のタレが服に!!」


 その素っ頓狂な声で我に返った俺は、彼女の小さな頭をあわてて解放する。その頭の持ち主は、口元に串焼きのタレをくっつけたまま、驚いたような顔でしばらく固まっていたけど……不意にその頰が、なにかに気づいたかのように一瞬で上気し、真紅に染まる。


「わっ、やっ、あ、あの……私っ! ルッツ様の胸を汚してしまいましたっ、なにか拭くものを持ってきますので、ち、ちょっとお待ちをっ!」


 激しく噛みながらもそれだけ必死の表情で口にすると、彼女はひらりと身を翻し、作業側の方に走って逃げていった。


 あれ? 俺って今、ものすごくマズいことしちゃったよね? これってなんというか、お仕事の上下関係を利用して、異性関係を迫るという、昭和っぽいセクハラだよね?


 きっと、たった今ミカエラの中で俺、危険人物認定されたよな。ああ、ちょっと餌やりで懐かれたからって、いきなり抱え込むのは……ああ、やっちまった感満載だ。


 呆然とたたずむ俺の背後から、聞き慣れた少女っぽい高音が響く。


「あら、鈍いルッツにしては、ずいぶん積極的に攻めたじゃない。やっぱりずいぶん気に入ったみたいね……まあ、私に任せなさいな!」


 ストロベリーブロンドを一本のでっかいお下げに編んだ俺の幼馴染が、ドヤ顔で宣言して、薄い胸を張る。いや、正確に言えばそんなに薄くはないのだが……そこにあるのはたくましい筋肉で、男の憧れである尊い脂肪のかたまりが見当たらないと言うか……


「ん? 何か言いたいこと、ある?」


 いいえ、ございません。スミマセンデシタ。


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