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【書籍三巻7/30】定年後は異世界で種馬生活  作者: 街のぶーらんじぇりー
第一章 定年おじさんは天才種馬
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第14話 卒業パーティ

 王立学校に併設された迎賓館は、卒業を迎えた学生とそのパートナーで賑わっている。順々に名前を呼ばれ、パートナーとともにホールに入場していくのだ。成績優秀者ほど、後の方で呼ばれることになり、格上とされる魔法科女子首席が、最後にコールされる。


「魔法科首席卒業! アンネリーゼ・フォン・フロイデンシュタット様、パートナーは弟君、ルートヴィヒ・フォン・フロイデンシュタット殿!」


 なんだかんだ話し合った後で、姉さんは結局俺をパーティのエスコート役に指名した。俺が新しい水魔法の使い方を提案したのがよほど気に入ったらしく、やたらと絡んで来るようになったのだ。パーティとか、あんまり興味ないんだけど「種馬として生きていくなら、できるだけ多くの令嬢に、顔を覚えてもらうことよ」とか言われて、無理やり連れてこられたんだ。


 リーゼ姉さんと俺は、腕を組んで会場に一歩を踏み出す。今日の姉さんは水属性にふさわしい薄青のドレスに身を包み、ライトブルーの髪をハーフアップにまとめている。キュッと背筋を伸ばし、柔らかく微笑みを振りまく姿は、我が姉ながらなかなかのものだと思う。称賛のつぶやきが耳に飛びこんでくるけれど、嫌味のこもったささやきのほうが多く聞こえてくる。「英雄の娘」という立場は、羨望より嫉妬を呼び込むものであるらしい。


「まあ、ここぞとばかりに派手に装って……嫌な女だわ」

「成績首席と言っても、所詮ハズレ属性でしょう? 就職の誘いもなく、すごすご田舎に帰るそうよ。だったら次席でも火属性のコンスタンツェ様に、ラストを飾る名誉を譲るべきだったのよ」

「子供をパートナーに連れて来るなんて……良い種馬には断られたのでしょうね」

「英雄ヒルデガルド様の後継ぎだというのに、なんとも地味な娘よね。本当に英雄様のお子なのかしら……それとも余程、種馬様の質がよろしくなかったのかしらねえ?」


 こそこそ話しているようで、微妙にこっちにも聞こえるくらいの音量で発せられる陰口。その中には聞くに堪えない下品な誹謗中傷も含まれている。思わずぐっと拳を握り締める俺だが、ここで俺が暴発したって、姉さんの評判をさらに下げるだけだ。それに……姉さんはこの悪口雑言に五年間耐え続けながら、研鑽を続けてきたんだ。恐らくそれは「英雄」と讃えられる母さんの名誉に、傷をつけないために。


 その姉さんは陰口など耳に入らないかのように超然とし、彼女を誹謗しない穏やかな友人たちには、柔らかく微笑みを送っている。イラついた令嬢たちがもっと攻撃的な言葉を投げかけようとした時、ひときわ大きいコールがホールに響いた。


「ベルゼンブリュックの輝ける太陽、エリザーベト女王陛下の、ご入来!」


 姉様も俺も、そして何やら悪態をついていた令嬢たちも、皆一斉に頭を垂れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「……五年の学びを終え、ここに集った若者たちが、これからある時は民を守る剣となり盾となり、またある時は民を養う大地となり慈雨となり、そしてある時は母となり父となって、このベルゼンブリュックを末永く支え守ってくれることを願って、祝いの言葉と致しましょう。今日はおめでとう、あとは存分に、楽しみましょう!」


「女王様、万歳!」「女王様、素敵……」

「ベルゼンブリュックに栄光あれ!」

「私たちの前途に祝福を!」


 女王の短い祝辞が終わると、会場は歓呼の声に満ちる。当代の王であるエリザーベト陛下は四十代前半、たしか母さんより一つかそこら年上だったはずだが、まるで黄金そのもののように色濃い金髪をきゅっと結い上げ、翡翠のように深い碧の瞳を真っすぐ聴衆に向けながら軽く口角をあげて賛辞に応えるその姿は、まだ子供の俺から見ても実に美しく、魅力的だ。そういや王立学校の二級上、ジーク兄さんと同学年に第二王女様がいたっけ、ものすごいクール系美少女だけど、彼女が年を取ったら、あんな風になるのだろうか。


 パーティは立食形式だけど、着くべきテーブルはだいたい決められている。姉さんと俺は、各学科の首席と次席だけが許される、会場正面のテーブルだ。まあ姉さんは実力でこの席を勝ち取っているのだからいいけど、俺はただ適当なエスコート役として連れて来られただけの人間だ、こんな華やかで肩の凝る場所は、居づらくて仕方ない。


 加えてさっきから、姉さんに突き刺すような視線を送る令嬢がいるのが、さらに居心地を悪くしている。恐らくこいつが、姉さんがいたおかげで万年次席だったという、オルデンブルク侯爵令嬢のコンスタンツェ様なのだろう。母さんほど鮮やかではないけど火属性にふさわしい赤毛に、きゅっと切れ上がった青い目、全体的にパーツが大きく、派手な顔立ち。可愛い系が好きな俺にはちょっと合わない感じだけど、普通にしていれば十分美人の部類だろう。あくまでも、普通にしていれば。


「あら、アンネリーゼ様。今日の装いには、珍しく力が入っていらっしゃいますわね。いつもは地味……ああ失礼、質素なものばかりお召しになっていますから、華やかなファッションがお嫌いなのかと……」


 そら来た。参ったなあ、まだパーティが始まったばっかりなのに……これからどれだけ、この嫌味攻撃を受け続けないといけないんだよ。



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