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4.同居人は魔法使い

 俺はふと、考えた事を降魔さんに尋ねる。

 降魔さんはううん、と考え込む。暫くした後、どこか余裕そうな笑みを浮かべた。人差し指を自身の唇に当てて俺に教える。


「秘密だよ」

「はぁ?」 


 答えるのを溜め込んだ挙句に出たのがそれかよ。期待外れな言葉に思わず呆れ気味になってしまった。


 ふざけんな。そうやって俺を焦らしやがって……。


 それに、あまりにも綺麗な顔で言うものだから更に腹が立つ。


「何だよームカつく」

「まだまだお子様には早いよ」

「お子様って、俺、法律上では大人なんだけど!?」

「え〜? 僕にとったらヨミくんは子供だよ。ねぇ、ヨミくん」

「何だよ」

「ヨミくんはボクと一緒に居るのは、楽しい?」

「……」


 俺は無言になってしまう。そして、顔を俯かせた。そんな俺に降魔さんはふふふと笑って見せる。


「無言は肯定と捉えても良いってことだよね?」

「なっ、何言ってんだよ!!」

「あれ? 違うのかい?」途端に眉を下げる。


「別に楽しくない訳ない……けど」

「随分遠回りする言い方だよね。でも、良かった」

「良かったってなんだよ」


 本当に意味分かんないことしか言わないよなー。


 夜風でボサボサになる髪を落ち着かせようと、頭を触りながら髪を手櫛で解かす。隣にいる降魔さんの髪も、風で靡かれ毛先が空を彷徨っている。


 それでも降魔さんはとっても綺麗なのは変わりなかった。

 降魔さんは俺を見つめる。夜空の暗さが引立つのか、降魔さんの瞳がより明るく目立つ。


「ボクも、ヨミくんと一緒に居れて楽しいよ。毎日が幸せ。だから、ありがとう」


 ありがとう。


 日常で聞かないことはない言葉の一つ。

 だが、降魔さんからその言葉を聞くたび、単語ひとつひとつにぎゅうっと詰まったような重さがあると錯覚する。

 そして、胸が締め付けられる様な罪悪感も感じる。

 

 違う。


 それを言うのは俺の方だ。

 あの日、生きる気力を失った俺に手を差し伸べてくれたのは紛れもない降魔さんだ。降魔さんが居なかったら、俺は今、ここで過ごしてる訳がない。


 「ありがとう」の一言も言えない。


 たった五文字だ。いつも会話をしてるなら、余裕に超えている文字数。自分が意気地なしなのは分かっている。でも、言葉の意味を考えてしまったら途端に苦しくなる。


 俺はもどかしい気持ちを押し潰したくて、降魔さんの背中に引っ付く。


「ヨミくん。今日は甘えん坊だね」

「五月蝿い。ただ……」

「ただ?」


 夜風が更に強くなる。頬を降魔さんの背中に押し付ける。


「この背中が恋しくなっただけ」


 降魔さんの後ろに乗って空を飛ぶなんて、これまでに何回もある。その度に見る景色と俺よりも大きな背中。


 いいなぁ。


 寂しさと同時に懐かしさも感じる。黒髪が風に靡き冷たい空気が肌に沁みる。降魔さんの反応は分からない。


「ヨミくん」

「え?」

「見て見て」


 降魔さんは指を差す。倣って俺もその方向へと見やる。俺は息を呑んだ。


 その先には、大きな月が淡い黄色の光を溢れさせ輝いていた。月の輪郭が弧を描き、暗い夜の中に満ちている。

 下には雲が盛り上がり、星を背景に月がある。


 いつの間にか、空の上まで来ていたようだ。降魔さんは飛行するのを止め、月が見える位置に箒を浮かばせる。箒に跨っていた降魔さんは横乗りに変え、俺の顔を見つめる。


「ヨミくん。今日は月が綺麗だね」

「キモい。あと、口説きながら男の姿になるのをやめろ」


 魔法使いと言うだけであって、人間との体の作りが違く、男体化した降魔さんの腕を触ってみると筋肉で硬く、引き締まった体つきで所謂細マッチョと言うやつだ。


 おまけに傷一つない顔に、睫毛の長い目。


 クソっ。男になってもイケメンとかムカつくわー。身長も俺より高いし、モデルにスカウトされても可笑しくない。


 アルト音が更に低くなる声に思わず意識してしまう。そんな声で降魔さんは上品に微笑んだ。


「フフフ、魔法使いからの告白は珍しいんだよ? そこら辺にあるダイヤよりも価値があるんだ」

「ない。てか、ダイヤはそこら辺に落ちてない」


 宝石がそんなにゴロゴロ落ちてる世界なんてあってたまるか。

 魔法界は一体どんな場所なんだよ。


 でも。


 降魔さんの言う通りだった。

 近くて見る月は、恐ろしいくらい綺麗だった。

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