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14.同居人は魔法使い

今回は短いです。

 数分後。

 しゃがみ込んで水槽を見つめていた降魔さんが突然立ち上がった。 


「ヨミくん。次、イルカショーやるみたいだから行こっか」


 どうやら満足したらしく、降魔さんの端正な顔から笑顔が生まれた。

 身に付けていた腕時計を覗くともうすぐ十一時半になろうとしていた。そう言えば、先ほどアナウンスでそう聞こえた気がする。

 降魔さんは次々と流れてくる情報を聞き逃さなかった。

 

 そろそろ行くか。


 俺も降魔さんの案に納得し、このエリアを後にした。

 館内の廊下を二人横に並んで歩く。海臭い匂いが空気と共に流れ鼻につく。嗅ぎ慣れないものだが、気にする程の不快な匂いではなかった。

 寧ろ、海の生き物たちはこれが普通だったりするのだろう。俺は陸地に住んでいるから分からないが、自己解釈することでそれを気にすることはなかった。


「降魔さん」

「ん? どうしたんだい。ヨミくん」

「イルカショーが終わったら、クラゲ見に行こうよ」

「良いの?」

「多分、水族館ここにクラゲいるしさ。それなら行こうよ。折角の初めての水族館なんだろ」


 その瞬間、降魔さんのエメラルドみたいな瞳が波のように揺らいだ気がした。そしてすぐに、いつもの愉快げな顔に戻った。


「うん。行きたいな」

「じゃあ、イルカショー見て、お昼食べてからにしよう」

「そう言えばもう、そんな時間なんだね。ふふ、あっという間だなァ。ヨミくんもそう思う?」

「まぁ……」

「良かった。ここ最近、ヨミくんにいっぱい誘われちゃった。水族館行こうって誘われちゃったし、これからクラゲ見に行くし……。これってなんだか、デートみたいだね」

「はぁ?! デート??!!」

「ちょっと、声が大きいよ」


 思わず声が裏がり、叫んでしまう。近くにいた人たちが反応し、俺に視線を集めた。


 やっべ、今変な奴だって思われてる!!

 いやいやいや、でも俺はこれは悪くないぞ?!


 徐々に顔が火照り始める。館内はそれなりに冷えている筈だが、ここだけ冷房が壊れているみたいに生暖かい空気が俺の肌を伝った。

 俺は降魔さんをキツく睨む。当の本人は俺に注意するだけで鋭い視線など、気に留めていなかった。


「降魔さんが変なこと言うからだろ?!」

「えェ? だけど、これってそう思っても可笑しくないだろう?」

「そ、そうって……デートって言ったこと?!」

「フフ、ヨミくんは分かりやすいね」


 降魔さんは何度目かの笑い声を上げた。くそ。どうして俺が笑われないといけないんだ。元はと言えば、降魔さんが余計なことを……。


 そんな言い訳を考えたとしても降魔さんに通用する筈がない。例え口に出したとしても降魔さんはいつもの分かりにくい笑みで俺をイジるのだ。


「ねェ、ヨミくん」

「な、何?」

「ボクね、クラゲ見に行くの楽しみ」

「はいはい、まずはイルカショーな」


 食えない性格の魔法使いに俺は骨が折れそうだ。途中、揶揄われたりとムカつく所もあった。

 まぁ、本人はイルカショーよりもその後に行くクラゲがどうしても楽しみで仕方ないらしい。どうしてそんなに楽しみなのか、俺には分からない。


 そして、どうして俺は降魔さんにそう誘ったのか未だに分からないままだ。


 もし、クラゲを見ることが出来たら、降魔さんがどうしてあんなことを言うのかを理解できるかなとかそう思っただけ。


 ただ、それだけだ。


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