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1.同居人は魔法使い

 一月下旬頃。


「それでは、卒業式の前までに両親に手紙を書くよう、自由登校の間に用意しておいてくださいね」


 担任の先生の声がぼんやりと耳に入る。俺は、机にスケッチブックを広げ、描きかけのイラストに手をつけるのを止めた。顔だけをむくりと上げ、教卓にいる先生の姿を見た。


「は……?」


 今、なんて言った?

 家族に、手紙……?


 俺は瞬きさせ、あり得ないとでも言うかのような視線を先生に送った。

 どうやらその話は本当らしく次々に話が進んでいく。


「全体での卒業式を終え、クラスで卒業式を行う際に代表者一名に手紙を家族の前で読んでもらおうと思います」


 淡々と説明を行う先生に辺りが騒ぎ出す。明らかに嫌そうな顔をする人や恥ずかしがる人、剥き出しになった表情は皆それぞれだ。

 その中でも俺は誰よりも顔をむっと顰め、眉間に皺を寄せる。


「げー嫌だな。面倒臭え……」


 しかも、卒業式当日にみんなの前で発表するんだろ? とんだ拷問だわ。公開処刑じゃん。


 左手に握っている鉛筆をくるくると回し、教卓を見やる。気がつくとクラスの委員長である苦瀬くるせがどこからかくじ引き箱を取り出した。


 あいつ、いつの間にそんなもんを持ってきたんだよ。

 そういや、休み時間にせっせと作ってたのってその箱か!!


「まあいいや。ここは俺含めて三十七人だし、三十七分の一とみて、俺が当たる確率はそうない」


 俺の出席番号は後ろから二番目だからな。ちなみに、最後は四月一日わたぬき

 委員長がくじを引き始める。紙切れを取り出し、中身を確認する。


「えっと、三十六番……」 


 ん? 三十六?


「じゃあ、ヨミくんで決定したいと思います」

「……え?」


 委員長の苦瀬が周りに言い聞かせる。途端にクラスの皆がそれに賛成し、パチパチと拍手する。


 はい……? 今、なんて言って……。


 数秒の間に起きた出来事で、俺は何が何だか分からなかった。


「え、ちょっと待って」俺は持っていた鉛筆を落とす。


 嘘だろ。


 おめでとうとか慰めのものとしか思えない。俺の顔を見て眉を下げる者も混じっている。


「冗談言うなよ……」


 項垂れる俺の姿に、こちらにきた委員長の苦瀬が肩を叩いて「ドンマイ」と囁いた。俺は恨めしそうに委員長に鋭い視線を突き刺した。



 錘のような足を引っ張るように帰路へ着く。授業が自習時間ばかりと言うだけで、教科書等を持っていく必要はそうそうなくなった。いつもより軽いリュックが何故かずっしりとしている。

 小さなアパートの階段を上り、無機質な扉を開ける。


「ただいまー……」


 自分だけに聞こえる程度の声で呟く。だが、玄関の扉の閉まる音が無駄に響いたせいで、俺が帰ってきたことが分かったらしく、奥の方がドタドタと騒がしくなる。


 俺は気が重くなりそっと溜息を吐いた。靴を脱ぎ捨て、リビングへと入った。テレビの音が近づく。画面には最近のニュースが報道されている。


 視線を下げると、テレビの前で人の姿がくつろいでいるのが見えた。


 俺の気配を察したのかこちらをくるりと振り返った。癖一つない白髪はくはつが艶やかだ。そこから見える黄緑色の瞳とバサバサと長い睫毛。


「おかえり。ヨミくん」


 目の前の人物はニコリと人懐っこい笑顔を浮かべる。男か女か分からない見た目、中性的で綺麗に整った顔が俺を見つめている。


「うん」


 俺は頷くだけの返事をする。その人は俺を見て再び微笑んだ。


 この人は、降魔ごうまさん。

 俺の同居人。


 そして、魔法使いである。


 魔法使い? 

 漫画やライトノベルの読みすぎだって? 

 ちげーよ。降魔さんは本物だよ。


 ほら、見てみろよ。

 

「さァて、これから晩御飯でも作ろうかな」


 降魔さんは肩を伸ばすと、右手の人差し指をテレビに向け、テレビの電源を自力で消す。


 次に何をするかと思えば、降魔さんはその指を台所の方へと指差した。キッチンの引き出しからフライパンや鍋を取り出す。

 ふよふよと浮遊する家具は、コンロに辿り着きカチャンと音を立てゆっくりと置かれる。


 降魔さん曰く、念力と言うらしい。


「はァ。やっぱり、魔法の方が手間が掛からなくて助かるよ」


 降魔さんはやりきったと言う顔を見せた。


 男か女か分からない見た目。その言葉の通り、降魔さんは性別不詳。

 と言うより、魔法使いは性別自体が存在しないんだと。だから、自分好みに変えることが出来るらしい。


 俺がこの人と初めて出会った時は、そりゃあ戸惑いしかなかったが、普通に生活する時はその中性的な格好でいることになっている。


「ヨミくん、弁当箱出せる? 今のうちに洗っちゃおうと思うから」


 弁当箱を取り出し、目の前の人に渡す。弁当箱の蓋を開けたその人は、中身を見て嬉しそうに微笑む。


「フフ。今日も完食。ヨミくんは良い子だねェ。偉い偉い」

「っ頭触んな」


 白く細い手が伸びるも、勢いよく払い除ける。行き場を失った降魔さんの手はひらりと仕舞い込まれた。だが、俺の気を引こうと次の話題を出す。

 

「今日の晩御飯はヨミくんの好きなオムライスだよ」

「あっそう」

「頬が緩んでるのバレバレ」


 降魔さんは俺の頬を指差しニヤリと口角を上げる。五月蝿いと俺は顔をそっぽ向いた。


「ボクは今から作るから、ヨミくんは着替えておいで」

「……分かった」


 俺は荷物と私服に着替えるため、自室へと向かった。


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