第7話 その名は命名神
「よし、出来た!」
完成した剣をヘイン君の前に出す。剣の柄は彼の物だが、刀身は鉄の光ではなく黒光りする刀身。ドロップ武器と既存武器の融合鍛冶は総じて、武器に変化をもたらすのである。そして、同時にここからが、作成者の楽しみでもある。
「ヘイン君、これが君の武器だ。握りたまえ」
「はい!」
うんうん、素直なのは良い事だ。だが、我々の愉悦はここからだ!
「じゃ、そのまま。命名神よ!新たな武器の誕生を祝福したまえ!」
「ちょっ?!」
「ゲーッハッハッハッハッ!これだから、このドロップ鍛冶のこの関連事項は秘密にされているのだ!俺も通った道だ、少年、お前も通れぇ!」
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
さて、何故少年がコレだけ慌てふためいているかと言うと、今行った命名神ネーマーのせいである。いや、お陰とも言える・・・か?この神、なんと最高神すらも凌駕する神と言われているのだ。そして、ある意味では人類に最も恐れられ、呆れられている神とされている。何故か?名前の通り、命名神とは名前に関して司る神である。彼の神から付けられた名を持つ物や人は様々な恩恵を授かる。ところが、この神に名を付けて貰う事は少ない。何故か?
「変な名前付いたらどうするんですかぁああああ!!!」
コレである。いや、彼の神の名誉の為に言っておくと大半は良い名前や格好良い名前なのである。ここまで言えば分かるね?、そう、大半は良い名前である。では、大半に含まれない名前は?そういう事である。例で言うと、とある国で作られた聖剣の名前が【初代国王の名前】カリバーである。え?名前改めればいいだろうって?命名神によって付けられた名前はなんと最高神ですら変えられず、一生残り続けるのだ、人の名も物の名も。更に英雄、それに準じる武器は歴史に残り続けるのである。別名、愉悦神の由縁である。
「大丈夫、俺の剣もまともだったから、おおよそ10%ほどのアレを引かなければオッケーだ!」
「思いっきりフラグ建てないでくださぁああああい!?」
まあ、こんなやり取りをしているが、その効果は絶大だ。【初代国王の名前】カリバーは名前こそあれだが、一振りで龍の鱗を貫いたとさえされ、二振りで鱗ごとその体を裂いたと言われている。こう色々言ってはいるが、本当に凄いから止めれないんだよな、命名神の儀式。なんだかんだ言いながらヘイン少年が掲げ続けた武器が少し淡く光る。命名神の儀式が完了したのだ。
【硬剣 イクリプス】
おぉ、かなりまともだ。元々黒かった刀身が本当に黒くなっている。どれ、効果はと・・・
【その漆黒の刀身は持ち主のあらゆる敵を貫くだろう】
ワオ、防御貫通が付いた?攻撃力はそれほどでもないがイクリプスの名の通りって訳か。こりゃ、強い、運が良いな。だが、同時に運が悪い。何故か?ロングソードにおける突きと言うのは突かれた痛みで牽制するのが主な役割だ。更に彼はタンカーの為、刺さりすぎる武器と言うのは有用であり、扱いが難しいとも言える。
「う~ん・・・・・・」
ヘイン少年も思案顔である。この武器の一番厄介な所は武器が貫通し、倒せてしまう可能性が出てきたと言う事だ。普通はこれほどの武器は歓迎すべき事である。ただし、ヘイン少年が前衛でバリバリ戦う戦士ならば・・・が付くが。
「これ、やっぱりヘイト分散します・・・よね?」
これだ。例えばである、ゴブリンが良く身に付けているレザー装備や鉄の胸当ての上からザシュッと貫かれるロングソード。そんなタンカーに殴りかかろうとする奴が居るだろうか?居る訳がない。加えて、肩や足を突くと言う手もあるが、容易に重症レベルの刺し貫く装備を持つ相手に殴りかかろうとする者は居ないだろう。
「だね。ふむ、ちょっと待ってて」
鍛冶場を出て、筆と紙と封書を取ってくる。紙にさらさらと書いていき、2種類をヘイン君に渡す。
「こっちは君のギルドマスターに、こっちは【刻印師】への紹介状だ」
「刻印師ですか?」
ヘイン少年が疑問を口にする。刻印師とは名の通り刻印を入れる者だ。主な仕事は鎧に家紋などを入れるなので、あまりこっちの顔は知られてないんだよな。
「初代国王の剣は当然知ってるよな?」
「はい。剣を扱う者には憧れですからね、名前はさておき!さておき!」
うん、分かる。迂闊に命名神に頼らなければ、もうちょいマシな名前になったかもな剣だからな、うん。でも、頼らないと、その威力は出なかったって言うから皮肉なもんである。
「なら、伝承も知ってるよな?」
「当然です!・・・・・・って、あっ!もしかして!」
「ああ、今でこそ台座に刺さった形で神々しいが、刻印が為されるまでは庭に横にして置かれてたらしいぞ」
「国宝ぅ―?!」
実際そうだから仕方ない。覚えているだろうか?【初代国王の名前】カリバーはたやすく龍の鱗を刺し貫いたという伝承を。うん、それを覚えていれば、この先は想像に難くない。
「いや、あのね?龍を両断出来る剣を今安置してるような風に立てたらどうなると思う?」
「あっ・・・・・・ああ~」
ヘイン少年も想像付いたのだろう。うん、最初期こそは普通の状態で今のように剣を立てておこうと思ったらずぶずぶと地に刺さって潜っていったらしい。寸での所で国王が掴んで何とかなったが、そら、横に野ざらしで置くしかないよねってなる。
「で、色々と研究が為されて、刻印の出番になった訳だ。刻印とは打ち込む命令だからな。例えば、国王の血筋以外が触らない時は普通の剣であると剣に刻印、つまり・・・」
「剣は刻印によりその強力な力を制したんですね」
「そういう事だ。まあ、代わりに厳重に王城の奥深くで保管されるようになったんだけどな」
まあ、仕方ない。王家の者が使わねば、危険は無いとは言え、国宝である。まあ、国宝が横に置かれて野ざらしだったのも大概におかしい訳だが。
「まあ、そういう事もあって、こういう武器には刻印師を紹介する権利がある訳だ。まあ、うん、一先ずクランリーダーにそれを見せに行くといい。後、リーダーに会う前に数回深呼吸をしておけ。これは誰もが通る道だ」
「は、はあ?分かりました」
そう言って、少年は大きめの鞘に収めた剣を持って去って行った。え?なんで深呼吸しろと言ったかって?紹介する刻印師、少年とこのクランリーダーと仲悪いんだよなあ。まあ、事情はいつか・・・な?