第5話 元ギルドの事?そんな事より、お金の話をしよう
「ふむ」
あれから2週間。時々来る解体依頼をこなしつつ、2週間である、うん。
「ああ、ホント、楽だなあ」
しみじみと感じる、このなんて言うか、開放感。家事と解体をこなさねばならないが、逆に言えば、こなしさえすれば後は自由時間である。で、そんな中、読んでいるのが紙束である。内容は街での出来事の報告書。発行は冒険者ギルド、持ってきてくれたのはロバートのクランに入ったあの少年達である。水差しに水を入れて庭に机と椅子を置いて確認していく。
「天の剣は取り潰しと。まあ、仕方ないな」
これに関してはマジで仕方ない。ただでさえ、ギルドから監視受けてたのがようやく終わりそうな所であの事件である。潰すなと言うのが酷なもんである。高ランククランには特例が付く事もあるが、流石に森の掃除屋を狩りまくったのを無い事にする事は出来ない。一歩まかり違えば、平原に居る低ランク冒険者が大勢が大怪我、下手すれば、街道を行く市民や商人達も死亡した恐れもあるからだ。流石に高ランクギルド特例でも見逃す事は出来ないだろう。
「せめてもの救いはメンバーに関しては引き取り手が数多って事だな」
これに関してはマジでクランのネームバリューに関して感謝と言った所だ。う~ん?この時に街に戻って、一人ぐらい住まいに引き込めばよかったかな?う~ん、後の祭り!
「ギルマスとその取り巻きと例の自称美少女タンカーは即刻死刑。まあ、ねえ?」
死刑についての話し合いがもたれ、ちゃんと形式的な裁判が行われただけでも温情である。なお、弁護士は誰も立候補しなかったらしい。まあ、100どころか1000%でも良いぐらいの確率で負ける弁護なんて誰もしたくないわ。よりによって、グリーンモスと言う、森の掃除屋殺して、商人、貴族は販路を、一般市民は安全な陸路を、王族は他国に行く為の街道を危うく無くすところだったしね。もし、弁護なんかしたりしたら、その弁護士、黒星付く上に一生後ろ指刺されてるだろうからなあ。
「天の剣の元メンバーに関しては友好的に受け入れられてるのが幸いだね。まあ、責任の根源は処した訳だし、そうなってくれないと困る」
ここは本当に何度見直してもホッとする。さて、この生活をするにあたって、客が居ない内に欠かす事が出来ない日課を行う事にする。それは・・・
「っし!」
柔軟体操から始まり、狭いが庭で反復横跳びと短距離ダッシュ。剣の素振りに腹筋、腕立て伏せ。とまあ、ここまで言えば分かると思うが体力づくりである。この高額になるシェルターに庭があるのは農園だけの為ではない。鍛錬の為でもあるのだ。
「まあ、農園でも作業すれば足腰鍛えれるんだが・・・」
あくまで、それは鍛えただけであり、戦闘用の動きもしないと、維持出来ないのだ。当たり前だが、引退した後で街に住むならまだしも、ダンジョン住まいにグータラが許される訳がない。冒険者、軍人を引退したとは言えど、ダンジョンの中は不測の事態は大いにあり得るのだ。そんな時、剣を振れませんでした、動けませんでした等言えるはずもない。この辺が命の捨て場と言われた理由の一端でもある。シェルターは完璧ではない。スタンピード、すなわちモンスター暴走が起これば、確実な安全とは言えない。
「っし!」
運動を終えたら、今度は武器の手入れだ。刃こぼれが無いか見て、あれば砥石で研ぐ。更に鞘のベルトや鞘に不備はないか?サブウェポンはちゃんと揃っているか?を確認していく。それを終えたら、今度は籠手と足具の確認。実は鎧よりもこちらが重要であったりする。物理攻撃を逸らしたり、逃げる・走る為に重要な防具はしっかりと確認しておくのは重要だ。
「よし、次は・・・」
終えたら、今度はインナーと鎖帷子、そして、鎧の確認だ。自分は軽戦士タイプなのだが、重戦士もそう変わらない構成だ。なんだかんだで、鎧の隙間とは鎧最大の弱点である。それを補うのが鎖帷子である。そして、鎖帷子の金属部分が肌に触れないように付けるのがインナーである。これ、インナーが実は冒険者が一番頭を抱える出費部分である。鎖帷子が肌に触れない為でもあるが、前線系では攻撃を受けてしまう事が多い。また、後衛でも魔法が飛んで来るわで、結構な確率でインナーは破損と言うか破れてしまう。で、買い替え→破損のエンドレスである。なので、大抵の冒険者は回避特化になる。インナー料金を一々捻出してられっか!である。
「しみじみ、自分が男子で万歳と思う瞬間だわ」
女子は日々体型が変わるので、ただでさえ、消費が激しいインナーが今より大きめ、小さめ、標準と買わなければいけない。更に、ここに下着、生理用品の代金がドン!更に更に、クランでは毎日、女子限定の身体測定が行われているほどである。これにより、インナーは勿論、下着の代金更新!とかも十分にあり得る。なので、冒険者に進んでなろうという女子は少ない。居ても、ここで脱落するのが多い。脱落、つまり、夜の商売に身を落とすって事ね、世知辛え・・・・・・
「まあ、男子でも手入れを怠ると、大怪我の元になるからな。チェック、よし」
チェック中も結構な人数がダンジョンに入ってくるが、解体の依頼は昼近くの今もまだ無い。と言うか、ここは初心者の狩場であり、その初心者が狩りを終えるのは朝から始まり、夕刻辺りが普通だからだ。加えて、兎が儲けになる程を考えるなら、数をこなさなければならない。安定して倒せるようになるまでと倒せるようになるほど時間が掛かるのだ。まあ、ある意味、この辺の事情も知っててここ選んだんだけどね。ゆっくりする時間は欲しかったし。中規模辺りのダンジョンは解体依頼がガンガン舞い込むからね。何故かと言えば・・・
「モンスターに種類があるからなあ。狩場と狩りの速度が自然と決まるんだよな」
こういう事である。つまり、金策の効率化とでも言おうか、決まった獲物を決まった量を狩り、解体料金も高額でも払えるようになる為、効率重視で次々と解体を素材運搬班がダンジョン住まいに任せる。で、そうなると、どうなるか?はもうお分かりと思う。儲かりはしてもてんてこ舞いである。ゴメン被る。
「その点、このダンジョンは良い訳だ」
解体するのは決まってホーンラビットのみ、初心者用の為、大量解体の依頼は中々来ない。スタンピードが起きたとしても、ラビットのみである。しかし、ここは超初心者の狩場。儲けが超少ない。これが住まうのを躊躇させているのである。その躊躇さえなければ、ここは比喩抜きで天国である。
「おっと、こいつに記録もしておかないとな」
装備品のチェックが済み、運動の後のクールダウンが済んだ所で、部屋の隅に設置してある宝玉に触れる。
<<健康状態チェック・・・完了しました。問題無し>>
健康状態がこれでギルドの方に送信される。ちなみにコレ、ダンジョン住まいに憧れる人間がダンジョン住まいを諦める理由の一つである。お値段、なんとこのシェルターと同額!と言えば分かるだろうか?この固定台座に設置された半径5センチの玉一つでである。
「最初は法外とは思うけど、説明されると納得出来るんだよなあ・・・」
思い出してもらいたい、かってダンジョン住まいはどう呼ばれていたか?を。命の捨て場。それはダンジョン内での事故やモンスター達だけではない。健康も難敵である。一応、風邪程度ならば、直せる魔法はある。中位からの冒険者にとっては必須なので自分も取っている。なんで?って、風邪で依頼が達成できませんでしたは論外であるからだ。が・・・
「難病は流石に上位神官に任せなきゃだからなあ」
難病はとにかく症状が分かり難い。特に兵士や冒険者なら倍率ドンである。何故か?一般市民ならば激痛とする痛みも彼等からすれば、痛いけど痛いだけかな?と放置してしまうのである。これに関しての答えは簡単。この程度の痛みと考えるほどの傷や痛みは日常茶飯事であったからである。そうして、放置してシェルター内で死亡は初期から中期までかなりあったらしい。
「シェルターは本人が認める、同居してる人しか入れない」
で、起こる惨劇と言えば?もうお分かりだろう。内部の人間力尽きてるのに誰も入れない。で、匂いは結界があろうと貫通するから、死後何年も経過した死体の匂いが充満するダンジョン住まいの家とか普通にあったから、ギルドがありとあらゆる方面に手を回して作られたのが、この玉、健康チェック宝珠である。シェルターと連動しており、内部登録者が倒れた場合は、シェルター内にギルド関係者が入れるようになる。また、先程も言ったがチェック情報がギルドに送信される。これが一定期間送信されないと、やはりギルド関係者が入れるようになる。
「そら、必須ですわ」
こうなる訳である。お金がいっぱいかかるが故にダンジョン住まいはこれまで忌避されてきた面もあるのである。つまり、何が言いたいかと言うと・・・
「世の中ゼニだな、畜生!!!」
外には聞こえないシェルター内部で思いっきり叫ぶのだった。俺の銀行口座見るかい?すっげえ量の金が引き落とされて消えてるんだぜ、ハハッ・・・・・・・・・
ダンジョンに住まうにはまだまだ条件があります。こんなのほんの上澄みだぜぇ・・・と言うお話。世知辛いね!!!