第1話 伝説の始まり
「いよう!グレン。見てたぜ」
「ロバートか。うん、まあ、普通はそうするよね?」
おっと、紹介遅れた。俺は元・天の剣のアタッカー グレン。まあ、とは言っても攻撃の要と言う訳ではない。どちらかと言うと堅実にダメージを与えるタイプだ。酒場で話しかけてきたのはロバート、天の剣と同じランクのクランリーダーだ。
「あ~、まあなあ。お前んとこのクラン。いや、元クランか。ギルドの監視対象に入ったってよ。あと、サミュエルはうちが拾わせてもらったぜ!」
うん、まあ、ギルドで堂々と追放宣言。しかも、人が沢山見てる所でやればそうなるなって。なんでって?普通に考えよう、追放に関してはよほど素行その他が酷くない限りはリーダーやメンバーによる一方的な追放は禁止されている。しかも、今回の場合5年も一緒に居るタンカーの追放である。そして、サミュエルを拾った彼のクランは更に躍進が約束されるだろう。
「おっす、グレン。お前んとこの元リーダー、マジでやったな。そして、お前もマジでやったな」
また一人、相席が増える。彼も同じく高ランククランリーダーのカッセル。エールを片手にゲラゲラ笑っている。そら、笑うしかないよなあ。ライバルクランと言う訳ではないが、自分達と同じランクのクランの有様がアレじゃあなあ。
「いや、だってさ、お前もあの場に居ただろ?」
「まあなあ。あんな堂々と宣言するもんだから、お芝居の練習か何かと思ったクラン多数らしいぜ?」
まあ、うん、アレは無い。と言うか、リーダー改め、バカリーダーの称号を送りたいぐらいである。神様、送ってやってくれんもんかね?いや、割と真面目に後で神殿に行って、お願いしてみるか?と真面目に考えたいレベルである。
「高レベルタンカーを雇い入れる、分かる」
『うんうん』
まあ、分かる。高レベルタンカー雇用イコール生存率の上昇だ。大事とも言える。まあ、後述するが必ず良いとは限らない事もあるけどね。
「華ともいえる女の子を入れたい。まあ、分からんでもない」
『まあな~』
うん、まあ、自分も2人も男である。分からんでもない、ないんだが・・・・・・
「ギルドが指定する定員だからって、歴戦のタンクをリーダーとその取り巻きの一存のみで追放」
『 無 い わ 』
これである。あのバカリーダーはレベルが低いと言っていたが、基本、タンカーは配分経験値が少ない。何故か?基本は盾受けだからである。要は、敵の攻撃を防ぐしかしていない。その為、配分は非常に少ない。その為、年単位でレベルが上がらなくても生き残ってるタンカーとは高レベルにすら勝るタンカーである。ぶっちゃけて言えば、クランが最も手放してはいけないタンカーである。逆に高レベルタンカーとは養分を吸ったタンカー、つまり、仲間を守るという鉄則をやっていないタンカーである。要は、モンスターのトドメだけをして経験値を吸ったタンカーが多い。これがどういう事かと言うと、あのバカリーダーは大変優秀なタンカーをギルド内で皆が見ている前で堂々とクビにしたという事である。更に入ってきた女性タンカーは盾の傷が無い割にレベルが高い。つまり、そういう事である。もしかすると、無自覚クランクラッシャーだったかもしれん。
「天の剣のリーダー交代の噂には聞いてはいたけどねえ」
「まあなあ。前リーダーが負傷で脱退。投票で決めたと聞いた時はまさかとは思ったけどな」
2人の言う通り、冒険者業に怪我は付き物。前リーダーはとある依頼中に日常生活は出来るものの、冒険出来るような状態ではなくなってしまい引退。その後のリーダーに関しては揉めに揉めた。様々なリーダー候補が手を上げた。そして、揉めた末に恨みっこなしの投票という事になったのだが・・・
「投票者の7割を買収。まあ、俺は知ってたけど」
言いながら、ひょいと運ばれてきたツマミを食べる。知ってたのになぜ止めなかったか?単純だ。自分はすでにそうなる時点の前に団を抜けると決めていたからだ。
「放っておけば、どこかで暴走する。それを止める者がいれば、まだ引き継ぎとかの為にもう少し残る可能性はあったがね」
2人が頷く。天の剣には様々なクランとの同盟もあったが、近い内、いや、早ければ今日からでも同盟白紙を行うクランが次々と出るだろう。クランメンバーも分かる奴は離脱していくだろう。即断して良かったわ。
「で、グレン。君は予定通り?」
「ああ、色んなクランから誘われたが、準備は前々から整えていたからな」
ロバートの言葉にこくりと頷く。
「俺はダンジョン住まいになろうと思う」
ダンジョン住まい、書いての如くである。その気になれば一般市民や低ランクからでもなれる。但し、それは数年前までで今は非常に厳しい条件の下、資格を取得する事が出来るのである。条件は以下の通り。
1 Bランク以上の冒険者、もしくは国の軍務経験が5年以上ある者
2 魔導式シェルターを所持する者
3 解体スキルを所持する者
この3つの条件をクリア出来る者に許可証が発行されている。初期は条件も無く・・・いや、条件は遺書を用意してある事とかあったらしい。でも、今はこのように厳しくなっている。何故か?
「まあ、厳しくもなるよな、条件」
「まあ、そうなるな。条件が厳しくなるまでの別名、自殺願望製造機だったもんな」
「それが更にパワーアップして、厳しくなる前の末期は、命のポイ捨て場・・・だったからね、酷さが窺えるってもんさ」
自分の言葉に対するカッセルとロバートの言う通りである。1番目の条件がまさにその問題を解決する為のものである。ある程度、闘い慣れている事、これは一般市民には簡単に出来ない事である。これにより、改正後に9割近くの志願者が落とされたと言えば、初期の頃の酷さがお分かり頂けると思う。
「そして、魔導式シェルターのお値段」
「「そこは仕方ない」」
2つ目のダンジョン住まい用の魔導式シェルター、これがクッソお高い。少なくとも、Sランクレベルの装備を5人分揃えるぐらい必要になる。シェルターを購入するのに心が何度躊躇したか分からない・・・・・・だが、仕方ないのだ。何故、高くなるか?理由は簡単である。
「風呂・トイレ付き、庭付きだもんなあ。ダンジョン住まい用だと結界装置で更にドン!」
当たり前だが、住むという事は生活用である。そら、新築1戸建て丸ごと買うと同意義となれば、お高いのも納得だよなとなると言う訳である。この2つのせいで、庶民、貴族も簡単にダンジョン住まいが出来なくなったと言う訳である。加えて言うなら、冒険者は基本ダンジョン住まいを嫌う。そら、引退する原因になったり、トラウマ再発したりするから仕方ない。
「まあ、高位クランには必須だからな、コレ」
「「分かる。クランで誰かがコレ持ってないと戦争になる」」
なんで?って、街の近くでの依頼ならともかく、遠征先、ダンジョンにトイレなんかあるわけないし、風呂もある訳がない。水場で水浴びやトイレなんて不意打ちしてくれと言ってるようなもんである。まして、テントで着替えとか体を拭くとかしてる間、モンスターが待ってくれる訳がないし、女性からは風呂、トイレ、安全に洗濯物が干せる場所が無いと非難轟々なのである。この為、Cランクのクランから上は魔導式シェルターを複数買えるかで規模が決まると言ってもいい要素なのである。と言うか、強いか弱いかではなく9割ぐらいはこれが占めると言っても過言ではない。ギルドもシェルターが無ければランクアップ試験は受けさせない程である。
「んで、解体スキル。これはまだ楽な条件だよな」
「「せやな」」
まあ、一般人でも取れるスキルである。料理人とか猟師とか、その気になれば子供でも取れるのだ。だが、ダンジョン住まいには必須スキルとして設定された。何故か?
「生きる術って必要よね」
「だなあ。俺達も低ランクの頃はダンジョン住まいが解体持ってるからこそ、帰りとか助かってた訳だし」
2人の言う通りで冒険者に限らず、解体は素材を集めて換金する為の生きる術、そして、クラン創設且つ低レベルの頃は解体スキル持ちが居ない場合はダンジョン住まいに解体をお願いするのが基本である。この際、ダンジョン住まいは多少の金額を要求してもいいので、まさしく、お互い様である。
「で、どこに住まうんだ、グレン?やっぱAランクダンジョンか?」
「いや、俺が住まうのはGランク、角ウサギの住処だ」
『ファッ?!』
2人が驚くのも無理はない。角ウサギの住処はダンジョンと言うより、初心者の狩場である。階層は1階層、セーフティエリアは入り口付近のみ、部屋は大小含めて4つというまさに極小ダンジョンである。普通に自分のランクなら、もっと上を狙うのが普通と世間では常識である。しかし、俺は俺の考えがあるのだ。ついでだから、こいつ等も巻き込んでみようかね?
「ここからは、耳が多いからな、マスター、奥貸してくれ」
「銀貨1」
「あいよ」
マスターの後ろにある扉は秘密の会議とかに使う部屋だ。そこで自分の考えを2人に話した後、2人は大急ぎでギルドに駆け込んだのは言うまでない。
今回はレベルとかの表記はありません。ただただ、ダンジョンに住まうなら?と言う事を書いていけたらなと思います。こちら、ネタ鍛冶師と同じく不定期連載ですがよろしくお願いします!