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プロローグ

「っるぅああああぁぁぁぁぁああああっっっっ!!!!」


ガキンッ!!


大きく振りかぶって繰り出した俺の大剣による渾身の一撃が彼女のか細い腕によりいなされる…

いなされた空振りがてら俺は左足を中心に回転し、彼女に回し蹴りを放った。

俺の回し蹴りは彼女の腹に命中し、そのまま彼女は数メートル吹っ飛んで俺との間に距離ができた。

間髪をいれず俺は頭に魔術の術式を構築し、右手を彼女にかざして解き放った。


「消えろぉぉぉぉおおおおっ!!!!」


術式が発動し、氷撃、電撃、熱波が順に彼女を襲う…


ズドォォォォォオオオンッ!!


それらは彼女に直撃し大きな音を立てるとともに周囲に爆風と土埃を巻き起こした。


はぁ…はぁ…


爆発の被害を受けないように俺はシールドの術式を瞬時に展開していて、肩で息をしながら様子を見守る。


手ごたえがねぇか…くそっ…


額から一筋の汗が垂れ落ちる。

魔王城に到着してから数時間の戦闘が続いている。


俺は前方から注意を逸らさず、後ろに倒れたままの仲間の彼女を横目で追った。


彼女はうつ伏せに倒れたまま、こちらを見ている。

床には彼女から流れ出る大量の血が水たまりのようになっている。

恐らく魔術の術式を展開し回復に専念しているようだが回復するには時間がかかりそうだ。


「やぁやぁ、酷いじゃないか。」


ふいに前方から声がかかる。

晴れる土埃とともにニヤニヤと笑顔を浮かべた彼女が姿を現した。


そのままの黒いローブに傷一つない小柄で華奢な身体…

青白く美しい妖艶な顔…

初めて出会ったあのときと姿形を変えた、未だどこか幼さの残る顔…


「魔王」…


その顔がニヤニヤと俺に冷たい視線を送っている。


これは終世に向けた物語だ…

救いも何もない…全てが終わる…終わった…

俺の大切な人達も…


「しかし君も歳取ったねぇ。

初めて出会ったのは17年も前だっけ?

このくそったれな世界に一緒に召喚されてさ。

かわいかった君も、もうおっさんだね。

あの時から君は肉体のピークもとっくに迎え、落ち目なんじゃないかい?

あははは。」


「魔王」は口を開いた。


「…うっせぇ…よ、ベラベラしゃべりやがって…

殺してやる…殺してやるよ…許せねぇ…

てめぇの発する一語一句が…癪に障んだよっ!!」


俺は地面に突き刺した大剣に寄りかかり気力をふり絞って叫んだ。

肉体強化の術式は解けている。

組み直さなければ…


魔術の過剰の行使で頭痛が酷い…

目がかすむ…

疲労感で身体が重い…

吐き気がする…

汗で張り付いたシャツで背中が気持ち悪い…


誰がどう見てもこれは俺達の負け戦だ…


「そんなつれないこと言わないでよ。

僕ら、仲間だろ。ん?元仲間?

まぁ、何でもいいや。

僕はこれでも君に好意を抱いているんだよ。

昔話でもしようよ。

冥途の土産ってやつ?

違うか、あははは。」


「ちっ…」


肉体強化の術式を組み上げた俺は大剣を振りかぶりながら「魔王」に駆け寄り距離を詰めた。


「せっかちだねぇ。

でも嫌いじゃないよ。」


ガチンッ!


ふいに俺の直進は見えない壁に阻まれた。

停止した俺に「魔王」は右手をかざす。

そのまま「魔王」が右手を上に上げると、俺も大剣を構えたまま重力を無視して宙に浮いた。


「いい眺めだねぇ。

もっと君が若かったらなぁ。

いや、でも今の君もなかなかに渋くて嫌いじゃないよ。ふふふ。」


俺は「魔王」が組み上げた術式で身動きが取れず為す術がない。


…?


これは魔術の術式…なのか…?

魔術でこんな細かいことができるのか…


「てめぇ…は変わった…よなぁ!!

化け物に…

心も身体も、化け物だっ!!」


「ふふふ。誉め言葉として取っておくよ。

あのときの僕は矮小でみじめで君の助けがなければ死んでいたよ。

あー、何ていったけ?

口では経世済民とか言ってた経済オタク君…

元の世界での経済の知識で異世界を救うとか言ってたね。

でもあいつ、口では綺麗ごと言うけど、あいつの仕打ちも酷かったなぁ。

僕が手を下すまでもなく利用されて殺されてるから笑っちゃうよね。

まぁ、世界がこんなことになったのはあいつのせいも少しはあるんじゃない?

ああ、僕の手で殺したかったよ。」


智弘…

あいつは経済の知識で世界を救いたいと言っていた。

しかし、それはあいつの承認欲求からくる欺瞞だった…

確かにあいつが余計なことをしなければこの世界は滅びに向けて加速しなかっただろう…

あいつは権力におぼれた。

そして世界をこんなことにした報いを受けて死んだ…


「脳筋ヤンキーとヤリマン女達からの仕打ちも酷かったなぁ。

僕らみそっかすグループは毎日が地獄だったよ。

自分を勇者だとか言って、僕ら戦闘訓練のサンドバックだったからね。

王様も王様だよねぇ、勇者だの何だのって唆してさ。

それを真に受けるバカもバカで笑っちゃうけど。

他の転移者見つけたらそっちに首ったけで最後まで責任取れよと思ってたよっ!

くっ…くくく…

あーっはははははっ!!」


「魔王」は右手を俺にかざしたまま、左手で顔を押さえて狂ったように笑った。

目は笑っていなく憎しみの炎が渦巻いている…


勇樹…

転移者特有のステータスボーナスが他の転移者より秀でいていた。

そのため国王に目を付けられた。

しかし、それは長くは続かなかった。

他に優れた転移者が現れると見向きもされなくなった。

そのため、勇樹は荒れた。

その捌け口が取り巻きの女への性欲、みそっかすグループへの暴力として向けられた。

最後は国から抜け出して盗賊まがいの冒険者となった。


そして最終的に「魔王」に挑み殺された…


「君はよく庇ってくれてたねぇ。

ああ、聖女様もいたねぇ。

君とよく僕達を庇ってくれてた…

でもきっと皮をむけば王様や貴族達に股開いて腰振ってるビッチだよねぇ!

あーっはははははっ!!」


愛華…


俺は唇を噛み締めた。


「みんな、君以外は死んじゃたねぇ。

ほとんどは僕が殺したんだけどさ。

君には恩があったから殺さないでいてあげたんだ…」


「魔王」は急に真顔になった。

続けた。


「じわじわと君の周りからいたぶって苦しむ姿が傑作だったなぁ…

くっ、くくく…」


「ってめぇっ!!!!」


堪えきれず吹き出した「魔王」に俺は激昂し声をあげた。


「でももうおしまい…

君が無様に老いていく姿に耐えられないんだ…

死んでよ。」


シュッ!!


「魔王」が右手を俺に添えたまま、左手で俺を殴る恰好をすると風が音を切った。


ドゴォッ!!!!


その瞬間、腹部が熱くなり、俺は吹っ飛ばされて地面に転がっていた。

風穴の空いた腹部からとめどなく俺の命があふれ出る…

背中に接する大理石が異常に冷たく妙な心地よさを覚えた。


俺は…死ぬのか…


視界に俺の仲間、ルシアがまだ横たわりつつも蒼白な顔で俺を直視しているのが見えた…

何かを叫んでいる…


もう聞こえない…


眠たい…


ああ…

俺は開放される…の…か…

みんな…

俺は…


「Hello World, Hello Again」


俺の意識は無に消えた。

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