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前世大魔法使いは黒歴史のポエミー日記を滅したい!

作者: 千子

昔々、あるところに世界的に有名な大魔法使いがいました。

大魔法使いは決して私欲のために魔法を使わず、すべて困っている人達のために使いました。

貧困で困っている人が居れば山程の食事を与え、戦争で疲労する国々があれば花を降らせ人々に安らぎを与え戦争を終わらせ、突然両親を亡くした子達には夢で会わせて最後のお別れをさせました。

そんな大魔法使いにも、ひとつだけ困ってしまう問題がありました。

それは亡くなった人を生き返らせることです。

金銀宝石を出すことも、見たこともない料理を出すことも、きらびやかな衣服を出すことも、与えることも出来ますが、亡くなった人を生き返らせることだけは魔法の力ではどうしようもありません。




しかし、大魔法使いは唯一出来ない魔法を求めました。

大魔法使いの恋人が、大魔法使いを妬んだ者の呪いで死んでしまったのです。

大魔法使いは呪いをかけた者に復讐し、死者が生き返る魔法を探し日々求めました。

そこにかつて人々に慕われた大魔法使いの面影はありませんでした。

困っている人を助けることもありません。

大魔法使いは、終生その唯一を求め、やがてすべてを恨むようになり亡くなりました。


その唯一を求めるための研究書は、唯一にに辿り着くまでに数々の素晴らしい魔法も書かれており、大魔法使いの死後、求める人々が争いをしました。

そしていつの間にか争いだけは続き、大魔法使いの書はどこかへと姿を消しました。




というのがこの世界に伝わる大魔法使いの書の伝説の一説である。

すべての人にとって大魔法使いの書のことは真偽のほどは分からないし、そもそも見たこともない読んだこともないものだから存在すら本当にあるのか分からないという。

それでも大魔法使いの書を求める者は未だに大勢いる。


自分にとって、その書は出来れば既に消滅していてほしい。


だってあれは、大魔法使いが残した魔法の書ではなくて、大魔法使いが亡くなった恋人が居なくなってしまい寂しさのあまり書いたラブラブポエム思い出日記だからである!しかも大魔法使いの恋人は淡白なため妄想98%である!


なぜそんなことを知っているかというと、自分がその前世大魔法使いだからである!!

前世の才も受け継がれていた!!だが、そんなこと今ではなんの役にも立たない!

思い出したくなかった!!あんな恥ずかしいポエミー日記(捏造)を書いていたなんて!!せめて前半の清く正しい大魔法使い像だけ思い出したかった!

思い出した日記の文のあまりの気恥ずかしさに悶える!!

だって恋人亡くして寂しかったんだもん!!思い出(捏造)ぐらいでしか心が慰められなかったんだもん!仕方がないんだもん!もん!!

全部呪ったやつのせいだもん!今世でも見掛けたら復讐してやる!




そんなわけで、出来れば可及的速やかに大魔法使いの書を探して燃やし尽くしたい。

戦争の時に破壊されてても全然オッケー!!

それが現在の自分の夢であり目標である。

全世界の人に大魔法使いのポエミー日記を読まれたら死ぬ。前世の社会的にも。


そうして自分の旅が始まった。

しょうもない旅と言われても、これは自分の心の平穏と前世である大魔法使いの名誉のための旅である。




何故、急に旅を始めたかというときちんとした理由がある。


「大魔法使いの書が見付かったらしい」


そんな噂がまことしやかに囁かれている。

こんなん滅するために事実確認するしかないやんけ。

そう思い、噂を頼りに西へ東へ。

途中で邪悪なドラゴンとやらが悪さをしていると聞き、倒しにいってみたら元々は人間が悪いことが判明して仲裁した。ドラゴンとは友達になった。

途中でオークの中からオークキングが誕生し指揮系統が発達し、むやみやたらに人間の街を襲うようになったので退治し街を助けた。

作物が育たなくなったと聞いたら地の精霊に原因を聞き、その地の大地の神の像が破損したとのことで大地の神がヘソを曲げたらしく、大地の神と話をし像を直すことでことを納めるように助力した。

そんなことをしていたら今世でも大魔法使いと持て囃された。

やめてくれ。黒歴史を滅しに行きたいだけなんだ。全部ついででやったことで大したことはしてないんだ。やめてくれ。自分を主体にした中二病みたいな讃える歌を作るのはやめてくれ。

確かに全身黒だった。けど白いシャツは汚れるし、緑やピンクや青のシャツを着る勇気がなかっただけなんだ。

単に服のセンスがないだけなんだ。

やめてくれ。

かっこいい服の着方を教えてください本当に。




そんなこんなで旅をしていると、今世の大魔法使いとして噂になってしまった。

あちこちの国で専属の魔法使いにならないかとスカウトされたがそれどころではない。

大魔法使いの書を探しているからムリですと酒の席で馬鹿正直に答えたら今世の大魔法使いすら求める品として市場価値が高まってしまった。

やらかしたーーー!!!

違うんです!自分で自分の黒歴史を滅したいだけなんです!!

しかし前世があることも大魔法使いの書の真実を言う勇気すらない自分は黙して語らずを貫き通し、各地をあとにした。




果たして、大魔法使いの書は見付かった。

それはまったくの偶然で、たまたま通りかかった街と街を繋ぐ萎びれ他の村のカフェテリアで人が読んでいたのである。

「うわーーーーー!!!」

大声を出してしまったが黒歴史と遭遇した人間なんて理性が失くなるものだろう。

きっとそうに違いない。

あの装丁、間違いない!だいぶ痛んでいるが、丁寧に扱われてきたのか損傷は少なそうだ。中身、IQ3の恋人へのラブラブポエムなのに…。引き継いでくれた人達ありがとう。

この黒歴史は丁寧に燃やし尽くします。

そんな恥ずかしさしかない本を、見知らぬ、けど、なんとなく懐かしい人物が熱心に読み込んでいた。

1ページ、1ページ、丁寧に文字を指先でなぞって読んでいた。

自分の大声に読んでいた人間がこちらを見る。

「この本、恥ずかしいポエムしか書いてないけど興味ある?」

「あります。あります。大いにあります。もしよろしければ、譲っていただけないでしょうか?」

近付いて、懐かしさが確信に変わる。

本人に読まれたなんて恥ずか死ぬ。

嘘。せっかく会えたんだから一生一緒に生きていたい。

偶然とは一番恐ろしい事象かもしれない。


「こんなことを言った覚えも、言われた覚えもないな」

「じゃあ、これから言わせてください」


ポエムでも、本心だったんだ。

今でも本心なのでポエム量産マシーンにだってなれる。いや、そんなことになったらさすがに恥ずか死ぬ。

いや、生きたい。

今度は二人で長生きして、恋人が死んで自棄になって書いたこんなポエムの戯れ言も言ってみたい。

「今度は長生きしてください。じゃないと今度こそ世界を大々的に呪って全員死なせてしまいそうです」

「相変わらず愛が重い!」

そう言いながら笑ってくれるところが好きだなぁ、と思うし、もう少し世界を平穏にするために今世もう遅いけれど来世は目立たないよう裏から頑張ろうと思った。




またポエム作成して魔道書とか後世で言われたらいたたまれない!!!

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