愚妹の後始末は大変ですわ!
セシリアは香ばしいご成長を遂げた。
私の思惑通り、セシリアはせっせと婚活をしている。
略奪愛も辞さないらしく、婚約者のいる相手にすら声をかけている。
流石あのルビアナの娘だな。婿養子なのに愛人作っていた盆暗の娘だわ。
糞親父とは顔は似てないけど、中身の図々しさはそっくり。
クロード様が正式にマルベリー伯爵家の一員になる前に出ていってくれれば、私も万々歳。
利害は一致しているので、婚活自体は邪魔はしないですよ。
印象は良くない異母妹ですが、別にクロード様に露骨な悪意は向けてこないですし放置しています。
余りに不作法が過ぎれば締めますが、本当に懲りないのよね。まあまだ子供なのでしょう。
母の遺品を散々壊したり無くしたりしたのは許しませんが。
色々ありすぎなセシリアの婚活は歓迎するが、他所のお家にご迷惑をおかけするのは後々クロード様に被害が飛ぶかもしれない。
なので、婚活するにしてもお相手がいる方はお止めなさいと注意した。
「酷いです! お異母姉様は婚約者がいるからって、私を見下して! 私が幸せになるのがそんなにそんなに許せないのですか!?
私が異母妹だから!? だからそんな酷いことが言えるのですか!?」
大きな青い瞳に真珠のような涙を湛え、ウルウルしたかと思うと大声で泣き出した。
思わずイラっとする。
てめーのそーいう態度がクロード様にご迷惑になんだよ!
テメーのその泣けばなんでもオトコや周りが許してくれるっていう腐った他力本願が腹立つんだよ。
テメーが勉強もせず教養も学ばずお菓子とドレスを買い漁る感覚で男を漁るから、その男のお相手からクレームが殺到してんだよ。
それ相手してんの誰だか知ってる? 私とクロード様なんだよ! 親父が話にならないから、私と、クロード様と! 場合によってはケッテンベル公爵にまで飛び火してんだよ!
ああ!? テメーの涙に賠償金貨何枚の価値があるんだ?
テメーの涙にほいほい騙されて男が慰めて、その婚約者にありもしない被害者目線の訴えを起こしてどこまでうちの家に泥を塗ったら気が済むんだよ!
日替わりランチ気分で男を変えるなら、最初から狙いを絞って食らいつけ!
娼婦の方が慎みあるんだよ! あれはお金を得る為のお仕事だからな! 労働なんだよ、ガチな接待とヨイショと肉体労働なんだよ!
お前は男にチヤホヤされるのが目的になりつつあるんだよ!
そーいうのはビッチっつーんだよ!
……などと思いますけれど、そんな言葉で罵ったら悪評が立ちます。
なんとかぐっと飲みこみますが、まだぴーちくぱーちく不平不満を垂れ流すセシリアにため息が漏れる。
「ごめん、セシリア。もう貴女の尻拭いに疲れた。
貴女が婚約者のいる方に節度を疑う距離で接するのは本当にやめて。
マルベリーを使って伯爵令嬢を名乗れなくなってしまうわよ?」
「酷いわ! お異母姉様!」
「じゃあ自分で謝りに行って。もう私知らないから。ファブニル公爵家と、ダルダニャン公爵家と、コノート侯爵家と、シルバニア侯爵家と、デリデン辺境伯家と、ガスタニア伯爵家と、マルイルク伯爵家と、ロンバット伯爵家と、クライスト伯爵家と、ミリダウ子爵家とボルドール子爵家と、アブシア男爵家と」
「し、知らないわ! どこの家よ!?」
あ。これはいくつかは覚えがあるな。顔色が変わった。
途中で遮られたが、ここはきっちり言わせてもらう。何なら、後で謝罪一覧を贈りつけてやります!
「セシリアが匂わせ発言やデートして貢がせた家と、その婚約者の家。破談になったところもある」
「酷いですぅ、異母姉様。セシリアは知らない……」
うるんうるんの目で品を作って「よよよ」と言わんばかりに気弱ぶったセシリア。
酷い、知らないは通らないわよ。金をはたいて探偵雇ったり、舎弟どもを走らせ、うちの部下に特別ボーナスを握らせて調べさせたわ。
転々と寄生先を変えるもんだから、追跡するのが面倒だったわ。
顔だけ見れば本当に今も天使だもの。泣き顔でコロッと騙される男の多いこと。
「あ、デート基準はキス以上をした人だけだから。ただのお出かけやショッピングや、手を繋いだ程度はノーカンにしておいてあげているのは慈悲よ。貴方が引っかけた男の家や、婚約者の家が被害に耐えかねて訴えてきてからの謝罪行脚は面倒だから、ここ数か月ずっとセシリアに人を付けていたの」
ぶっちゃけ、貴族は同じ馬車に男女が二人きりで入った時点でアウトだ。密室系はアウト。
それを入れたらもう両手足で足りなくなる。
セシリアのせいで破談になった場合、浮気男の被害女性が有利になるように情報を回して違約金や賠償金をふんだくるお手伝いをすれば、色々やりやすいのよね。
婚約続行にしても、首根っこを掴む材料になるし。
金と情報は天下の回りものだわ。
愛と情熱があればどうにでもなるという非現実的なヒロイズムを持ったセシリアには理解できていないようだけれど……
「酷いわ、異母姉様! 私を疑っていたの!?」
「ううん、疑ってないわよ」
「じゃあなぜ?! どうして信じてくれなかったの!?」
おうおう、エゴヒロイズム全開だな。セシリアよ。だがもう遅い。
タチアナに続き、貴様の男癖の悪さは既にケッテンベル――つまりはクロード様の御実家にご迷惑をかけたのだ。
貴様のお涙頂戴は私には効かぬ! そして貴様には媚びぬ! 靡かぬ! 容赦はせぬ!
だが怒りは出さず、貴族らしく刃を微笑に変えて打ち返す。
「信じていたもの、セシリアが複数の男性と関係を持っていたのを」
「そんな……! 酷い! お異母姉様なんて知らない!」
旗色が悪くなったのか、真珠のような涙を散らしながらセシリアは去っていった。
どんなに趣向を変えてもお得意の泣き落としは効かないからな!
クロード様に出会う前ならぎりぎり効いたが、今のアンタのお涙頂戴一人演劇に騙されるのは糞親父くらいだ!
ちなみにタチアナとルビアナは自分に都合が悪いと途端に判定がシビアになる。
「待って、セシリア! アンタがビッチだろうが非処女だろうがどーでもいいからクロード様をはじめご迷惑をかけた方々に平伏して誠心誠意謝罪しなさいよ、ゴルァ! お前のパツキン頭を全部剃髪して尼寺にぶち込むぞ! 逃げんな! 授業でろや、この万年赤点女が! 去年みたいに私のノートを盗んだらマジしばくぞ!」
あら嫌だわ。内なるパッションがでてしまった!
だけど、なぜか周囲からパチパチと拍手を頂きました。
その後、私と顔を合わせるのが嫌なのか外泊の増えたセシリア。でも請求書は家に来るから生きてはいるのでしょう。
舎弟とローゼスに「あの糞アマを見つけたら報告しろ」と厳命しておいた。何故か返事は「イエッス、マム!!!」だった。軍隊か。
セシリアは小賢しく逃げるので、恥を忍んで友人やかつてセシリアがご迷惑をかけた方にも平伏して「あの小娘がいたら教えて欲しい」とお願い申し上げた。
クロード様にご迷惑をお掛けしたらどうしよう……
ボロボロと泣いていると、同情してくれたのか美味しいお菓子とお茶を頂いた。
読んでいただきありがとうございました!
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