学園生活ですわ!
ローゼスは訓練された弟になりました。
私も今年で十六です!
今すぐにでもクロード様に御婿に来ていただきたいけれど、うちの糞親父がぎゃーすか五月蝿い。
あ、そっかー。クロード様が来たらアンタ追い出されるだろうしね。
仕事できないし。
今更になって危機感でも持ったの? 遅くなくって?
「ベアトリーゼ、お前はあの男に我が家を乗っ取られていいというのか!?
ルビアナやセシリアが可哀想だと思わないのか!」
「思わないです。穀潰しはタチアナで十分だし、出て行けばいいと思う」
この糞親父、なんかコソコソしていると思ったら屋敷の中で出戻り娘を匿って居やがった。
ダニエル・マルベリー。お前は詰めが甘いのですよ。
私がクロード様しか見えていないと思っているのかしら?
クロード様に有害なモノはすべて磨り潰す覚悟はできているのです。
タチアナは盗んでいった金品が尽きると、マルセルに愛想も尽かして戻ってきたみたい。今は吟遊詩人崩れや芸術家もどきのパトロンごっこという名の散財をしている。
有閑マダムを気取るなら自分で稼いだ金にしやがれ。
一銭もないだろうけどな!
「お前は血も涙もない娘だな! 姉に対しての情はないのか!」
「あら、わたくしってそんなに冷血でしたの? ではその言葉に従って、ケッテンベル公爵家にタチアナが戻っていることをお伝えしたほうが良いですわね」
「ぎゃー! やめろ! ケッテンベル公爵にまた睨まれる!」
また、じゃなくてまだ睨まれているのよ。
喉元の熱さを過ぎれば何でも忘れるのかしら。
公爵にいうのはやめろというので不承不承頷き、次期公爵のフリード様と奥様のサマンサ様、そして愛するクロード様に公爵への口止めも要求されたのも含めてお手紙でお伝えしました。
追伸に『タチアナからマルセルの居場所を吐かせるまで、ちょっと待っていてくださいまし』とお願いするのも忘れない。
マルセルのくっきりした端正なお顔はタチアナのお気に入り。自分に余裕ができたら、また火が上がるかもしれません。ほら、焼け木杭には火が付き易いと言いますし?
制裁対象は取りこぼしがない方がいいと思うでしょう?
ちなみに、この年齢になってもセシリアの婚約者は決まってない。
高位貴族や優良物件は遅くとも十四までには決まるのが殆ど。女性はもう少し早いくらい。
このままでは行き遅れ決定?
修道院か後妻かはしりませんけど、クロード様をお迎えするときには何が何でもたたき出しますわ!
最近では「お異母姉様ばかり狡いわ! なんでお異母姉様が伯爵家夫人になるの!?」と喚いています。いまさら過ぎでは?
だって、貴女の悲劇のヒロインごっこのせいでまともなお友達いないじゃない。
最初は親身に聞いていても、だんだんと食傷気味になるのよね。話の内容がワンパターンすぎて。
突き詰めれば『お異母姉様ばかり良い思いをしていて狡い』だもの。
婚約者もいなければ、一人で伯爵家を切り盛りするほどの能力もない。使用人たちには遠巻きに見られ、嫌われているのにどうやってこの家を相続するのよ?
権利も実力もないのに欲望だけがいっぱいじゃない。
貴族御用達の学園に入学したら、ひと悶着発生。
どうやら、セシリアは未だにローゼスを諦めていなかったみたい。
ローゼスは三男坊だから、どこかに婿入りするか文官か武官で身を立てるのが一般的。
婿入りはせず騎士候として身を立てると宣言したのは去年のこと。
別にクロード様に迷惑をかけなけりゃどーでもいいのですわ。
新レシピの実験台にするには、ローゼスより丁度いいのはいないのであまり遠くに行かれても困るのですが。
しかし、その度に子豚ちゃんになるローゼスをチャンバラごっこだけで痩せさせるのは飽きたわ。
剣を振り回すのは結構だけど、自分から誘っておいていっつも途中から真っ青にブルブル震えるチワワちゃんになるのが解せないの。
あれで将来を有望視されているっていうのだから、世の中分かんないわね。
「義姉さん、セシリア何とかしてくれよ!」
「あら、ローゼス。ごめんなさいね、あのすっとこどっこいはイケメン大好きだから、一月我慢すれば目移りしてイケメンハントをし始めるわ。
だからちょっと問題起こさないで静かにしていて?」
ローゼスが胡乱げに私を見ます。こりゃ相当つきまとわれたかしら?
それにしても、ローゼスったらそんなにセシリアがお嫌いなの? まあ、私とクロード様にはそれなりに従順なので良しとしましょう。
「一か月? ほんとだな?」
「早ければ一週間で近辺から消えるわ」
「マジかよ」
紅顔の美少年から、貴公子然としたイケメンへと成長したローゼスはセシリアのストライクゾーン真っただ中。
でも、三男坊だからきっと金のある同レベルのイケメンが居たら間違いなくそっちに流れる。
今年は他の公爵家からもご子息が入学しているし、第四王子もいらっしゃると聞きます。
私のアドバイスを大人しく聞いた将来の弟、ローゼス。
ここ十年ですっかり躾がなってきた。
そして私の読み通り、戸籍上の愚妹はローゼスではなく速攻別のプリンス系男子たちに狙いを変えた。
「ねーえーさーんー! 今日は父様もフリード兄様もクロード兄様もいないんだよ! 稽古つけてくれよぉー」
「今日は明日クロード様にお召し上がりいただくカレーを煮込むから無理。
私じゃなくて、もっと強い殿方に頼んだら?」
祖父母は強化魔法の達人で、王国にその人ありと言われる人たちだけど私はちょっと妄想癖の強いレディなだけよ? 多少、お遊び程度には使えるけどお師匠などいないし。
料理をするにあたり、強化魔法を覚えたけれど。
美味しいお肉を仕留めたり、お魚を釣ったり、大量の野菜を剥いたり切ったりするためにも根性で習得しましたの。
これこそ、愛のなせるワ・ザ! ですの!
「義姉さん。俺の中でクロード兄様とのデートを邪魔されたからって、邪法使いの魔法使いが呼んだ魔物をフライパンで殴り殺すのは十分強いに分類されると思う」
「殺してないわよ! 再生する気が失せるまで叩いて叩いて叩き続けて、クロード様の素晴らしさを延々と説き伏せただけよ! あの根性無し、なぁにが大悪魔よ! 『頼むから死なせてくれ』よ! 私の聖書『クロード様に捧げる愛の賛歌№7』で挫折して! まだ第三章五節までしかいってなかったのよ! №79まであったのに!
あれは悪魔が勝手に消滅しただけよ! 自主的にいなくなっただけ!」
「それは更に怖い」
「何故? 私のクロード様への愛の前に敗北しただけよ? ちょっと途中で反応薄くなったり、相槌が適当になったら聖水ぶっかけてぶっ飛ばしたけど。
平和的な、愛の勝利なのよ……! やはりクロード様は素晴らしいの! ラブパワーは世界を平和にするのよ!」
「俺は義姉さんが味方なのは嬉しいけれど、自分の婚約者じゃなくて心底よかったと思っている」
「ローゼスは十分素敵よ? ただクロード様の足元にも及ばないだけで」
「義姉さん、どうかそのままの貴女でいてください」
褒められているのに、なぜかローゼスから怯えの色を感じるのはなぜか。
なんでそんなに必死なの。私は浮気する気なんて微塵もない。泥棒猫相手にキャットファイトはいつでも受けて立つけど、最近は不戦勝ばかり。
まあ、クロード様をディスる輩も減ったので良しとしましょう。
クロード様は相変わらずお優しくて、紳士で、それでもやっぱりお忙しいの。
でも、お茶会はちゃんと都合を付けてくださるし、お誕生日やお祝いの品を忘れたことがないの。
糞親父は忘れるがな。
読んでいただきありがとうございました!
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