殿方の心は胃袋から掴むのですわ!
ベアトリーゼのバチクソな怪力は、強化魔法が得意だからです。
感情が高ぶるとイカレた出力で発動する。
本能でクロードの前では調節している。
うっかりへし折ってしまった木は弁償すると言いましたが、なぜかブルブルしているサマンサ様により不問となりました。
ご当主のマーカス様に奥様が何かの御病気かと心配になって聞いたら、いたって健康だそうです。クロード様も仰っていたけれど、よく震えていらっしゃるけど大丈夫かしら?
午後のお茶会は、残念ながら途中で中止になりました。
なんでも、王太子の御婚約者様であらせられるアルテナ様の馬車が賊に襲われたそうです。
ひゃー、怖い世の中! なんでも、狙ったのはアルテナ様と婚約者の座を最後まで争っていた侯爵家だそうです。
暗躍していたのがかなりの大貴族だったので大事件。宮廷勢力への影響も大きく、それから全然クロード様はお家に帰ってこないの。
寂しいですわ。
家に帰るとルビアナとセシリアがぴーちくぱーちく五月蝿くて、クロード様に捧げる愛の賛歌の執筆が鈍くなります。
「うるせえですわ、お義母様もセシリアも!
文句言う暇がありましたら、セシリアの新しい婚約者でもお探しになったら? このまえクレイマン伯爵家もバルザック子爵家との縁談もお断りしたそうじゃないですか。
優良物件から消えていくのですから、若さを取るか格を取るかとっとと選び遊ばせ!」
執事たちが愚痴っておりましてよ、すっとこどっこいがぁ!
タチアナの金銭と宝石の持ち逃げによる悪評により、セシリアの婚約者はなかなか決まらない様子。
セシリアは私と同じ公爵家クラスじゃないと嫌なんだって。へー、ふーん。
でも、唯一接点できそうなケッテンベルから出禁くらってなかったけ? ローゼス様もセシリア苦手っぽいし。
じゃあ適当に後妻に入っとけ! 年寄りやおっさんは嫌? えり好みできる立場かくそが!
アルテナ様の暗殺未遂事件の決着には半年を要しました。
王太子が積極的に指揮を執り、内部の膿を出すのに多大な時間を要したのです。
そう半年。
これでも早い方だとフリードお義兄様は言っておりました。
王太子の側近であるクロード様はずっと王宮に泊まり込み、激務に身を投じているのです。
決着しても! 後始末が待っているのです! お陰で、月に一度はあったお茶会はお流れに流れていますわ。海にまで流れそうな勢いで。
たまに会っても小一時間で終了! 延長サービスは一切なし!
私がクロード様欠乏症になる!
逢えぬなら、逢いに行けばいいのです! 私はめげない、逃げない、諦めなーい!
お忙しいクロード様がちょっとでも栄養のある美味しいものを口にして、英気を養えるようにわたくしは一肌脱ぎます!
多忙のあまりに疎遠気味になったのをどこか嬉しそうに「可哀想なお異母姉様、クロード様に蔑ろにされて!」とウキウキ慰めに来る。いらっとする! いらん心配じゃ、ボケ!
私は! 今! クロード様の差し入れの作るに忙しいんじゃボケ!!!
貴族令嬢が厨房に入るな? うるせえですわ! 石炭職人はお黙り遊ばせ!
試食? テメーらはその辺の草でも食ってろ!
フリードお義兄様のお話だと、クロード様は最近、ベーグルがお好きだそうなの。
だからお気に入りのベーカリーからベーグルを取り寄せさせて、チーズやレタスを挟んだものや、ローストビーフサンド、ザワークラフトとベーコンをサンド、オニオンとスモークサーモンのサンド等をご用意してみました
ローゼス様にご協力していただいて『もうベーグルは食べたくない。頼むから慈悲をくれ』と泣いて駄々をこねるまで食わせに食わせて十六キロ太らせてしまいました!
ムチムチしすぎて出荷できそうなくらい。ハムやベーコンが似合いそう。
今の姿なら、セシリアにも纏わりつかれないんじゃなくて?
仕方ないのでダイエットで剣のお稽古を一緒にします。
私も、試食でちょっと太ったかも……絞ります! 全力で体をシェイプアップですわ!
さっそく、クロード様の働いている場所に差し入れです!
婚約して早二年……十二歳という立派なレディになりました。
もちろん将来のデビュタントのエスコートはクロード様一択!
糞親父? はっ!(嘲笑)
バスケットいっぱいにベーグルサンドを詰めて、いざ出発ですわ。
お話によれば、クロード様は文官が多く在籍している西棟で、日夜職務に当たっているそうです。
働く男性って素敵! クロード様はもっと素敵!
丁度騎士団の演習があるらしく、私と同じように王宮にいるご令嬢がちらほら。
望遠鏡を持って、鍛錬所を覗いておりますわ。
はいはい、青春青春。アイドルコンサートの様なものですわ。
髪型……ボンネットに隠れているけど多分ヨシ! お化粧、実はちょっとしてきた! ヨシ! ドレス、クロード様の水色の瞳をイメージしたシルクドレス! ヨシ!
気合を入れなおし、いざ西棟へ!
門番さんがいて、私を見るとなんか生ぬるい目。
「お嬢さん、騎士隊の演習をみるならこっちじゃなくてあっちの方がいいですよ」
「いえ、その、えっと、違って……すみません、こちらにクロード様。クロード・ケッテンベル様はいらっしゃいますか?」
は、恥ずかしい……っ! そう、私は本来とどちらかというと内気……っ
おどおどとボンネットを結ぶリボンをちょといじってしまう。小さな声でもじもじと言うと怪訝そうな顔をする門番さんたち。
「そりゃ、クロード様はいるが。お嬢さんは?」
「ここここここにゃくしゃでしゅ!」
「コネクション?」
「コニャックショー?」
「こんやくちゃです!」
噛んだ~! カミカミだー!
だが、ちゃんと『婚約者』というのは通じたらしくぽかんとする門番さんたち。
そりゃあ、クロード様のような素敵なジェントルに私のようなお子様は不釣り合いかもしれませんが! 正真正銘婚約者なのです!
真っ赤になってドキドキしながら待っていると、どえらい神妙な顔をした門番さんたち。
「あれ、ケッテンベルのとこの婚約者ってナイスバディな美女じゃなかったっけ?」
「これはどう見てもロリ事案じゃ?」
「これは通報したほうがいいのか?」
「いや、年齢差は六歳じゃなかった? つまりは合法ロリ?」
「姉のタチアナとは破談となり、妹の私がなったんです!」
「年の差は?」
「じゅ、十二ですぅ!」
「「圧倒的犯罪の香り……っ!」」
ドン引きの門番二人の空気に、クロード様へのディスりの気配を察知☆
顔だけ出ているプレートメイルの胸倉をわしづかみ、屈ませてドスの利いた声で諭す。
「私がクロード様に惚れたんじゃ。クロード様悪くない。クロード様になんばしよったらブチ転がすぞ」
「ひえぇ……っ」
「ひょっ」
なんか二人とも気絶しちゃった。
まだお昼には早いし、問題起こしたらクロード様の邪魔しちゃう! 人を呼んで、門番さんたちをチェンジしてもらう。お天気がいいから、熱中症かしら?
次の門番さんたちは怖がらせない様にして、クロード様に取り次いでもらった。
でも、クロード様は会議中でいらっしゃるみたい。
一時間くらいかかるから荷物を預かると言われたけれど、お弁当は口実。私はクロード様に会いたいの! なので、一時間待ってまた来ると面会の予約だけした。
その間、とくに興味ないけど騎士団の演習を眺めることにした。
騎士団の通る通路周辺に若い十~二十代くらいのご令嬢が鈴なりになっている。
おさかんじゃのう。
私はクロード様以外にはパッションが動かないから、キラキラシャラシャラしたイケメンオールスターが闊歩しても全然おもろないわ。
近くのベンチで、膝にバスケットを持って眺めている。
騎士ってアイドルなんだっけと思われるくらいキャーキャー歓声が上がっている。
(騎士姿のクロード様……)
ふと、妄想が疼く。
あり寄りのアリ。じゅる、と思わず涎が出そうになった。
クロード様ならきっちりカッチリ着こなすでしょう。
でも何故でしょうか。騎士なのに、剣じゃなくて鞭を持っていた。
願望がにじみ出てしまいましたわ、オホホホホ……
……どさくさに紛れてとか、乗馬にお誘いしてクロード様WITH鞭のコラボは可能かしら?
読んでいただきありがとうございました!
ベアトリーゼはクロード第一主義になってから、家での不遇は気にしていません。
暇さえあればクロードへの愛を認めている。
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