公爵子息の秘密(ローゼス視点)②
ローゼスはケッテンベル三兄弟の中では一番ある意味素直。
ある日の午後、珍しく家にいるクロードを見つけたローゼスは自分から近付いていった。
冷たい雰囲気のする兄を、弟であったが苦手にしていたローゼス。自分に厳しい人で、他人にも厳しいことを言うがその裏には相手を思う心があることを知っている。
ただ、声や表情がどうも冷たく見えるため誤解が多い人だと知ったのは、後になってからだった。
「ねえ、クロード兄様。ベアトリーゼって何者?」
「おや、流石に気付きましたか。彼の伝説に残る、勇者の末裔ですよ。マルベリー……といっても、エチェカリーナ様亡き今、その正統な後継者はベアトリーゼのみでありタチアナとセシリアは違います。
先祖代々恋愛体質らしく、ああなるそうです」
「そーいうレベル!? ワイバーンを乗馬鞭で真っ二つにするし! デスイーグルはピーナッツで上空飛んでいたの仕留めるし! この前、茶会でクロード兄様の悪口言ってたやつの秘孔を突いてトイレに駆け込ませるし!」
「ポプキンズ夫妻の武勇伝に比べればまだ可愛らしい方です。あの方は、カルパッチョを作るために、戦争中の隣国の海に潜り、海王龍を仕留めたそうです」
「ねえ、それって人間!?」
「勇者は魔王の進軍にキスを邪魔された腹癒せに、鉄パイプで四天王の脳をカチ割ったらしいですよ」
「嘘だろ!」
「はい、嘘です」
ほっとするローゼス。この兄は真顔で嘘を吐くのでわからなかった。
というより、冗談を初めて聞いたかもしれない。
「正解は釘バットです。国立博物館で、年に数回だけお目見えする『聖棍エクスカリバット』は流石に知っていましたか……」
大して変わらない事実に、却って打ちのめされるのだった。
後日、お詫びになのかベアトリーゼが美味しいベーグルサンドを持ってきてくれた。
育ち盛りのローゼスは美味しくいただいた。
そのあとも、度々ローゼスにバスケットいっぱいのベーグルサンドを持ってくるようになったベアトリーゼ。
一種類ではなく、一つ一つ味が違う。感想を伝えると、それを一生懸命メモに認めて次々に改良していくベアトリーゼ。
あんまり毎度用意してくれるもので、ローゼスは太った。いくら成長期でも、バスケットにみっちり詰まっているベーグルを食べれば太った。
そうすると、今まで散々寄ってきた女子が手のひらを返したように来なくなった。
びっくりしたが、もともとモテたい願望が薄かったので気にしなかった。特にベアトリーゼの異母妹のセシリアはすぐに離れていった。
ベアトリーゼは離れなかった――というか、只管研鑽を重ねていた。
紅顔の美少年たるローゼスが子豚ちゃんになろうが、ハンプシャーになろうが、チャーシューになろうが気にしない。
ローゼス相手に改良を重ねてベーグルサンドを極めようとしていた。
全ては、クロードの為に。
その影でローゼスが豚野郎やフォアグラ野郎になろうが、一切気にしていなかった。
「俺をこんなに太らせたんだから、責任もってダイエットに付きあえよ!」
むっちむちの我儘ボディになったローゼスがブヒブヒ訴えると、流石にちょっと罪悪感を覚えたらしいベアトリーゼは頷いた。
ローゼスの協力があったからこそ、ベーグルサンドはクロードの舌を唸らせた。
肉を切らせて骨を断つ。
外見を捨てて、ローゼスはベアトリーゼとの稽古を勝ち取った。
ローゼスの作戦勝ちだった。
普段いくらいっても「自分、フツーの令嬢ですので」というスタンスのベアトリーゼは、剣術の稽古を頼んでも断られてしまう。だが、実験台という餌付けで太らせたのだからダイエットに付きあえと言われたのなら手伝ってくれた。
ローゼスは必死に踏み込んでの打ち合いだったが、ベアトリーゼは一歩も動かず、軽くいなしていた。
そこで感じたのは、圧倒的なポテンシャルの差だ。
ベアトリーゼはあらゆる武術の天才だった。今まで、持て囃されていた自分がいかにちっぽけで愚かかとこれでもかと見せつけられた。
ローゼスがヒュゴオオオとあり得ない呼吸になるほど必死に食らいついても、ベアトリーゼは髪を弄りながらぼけーっと手に持った小枝を振り回している。ローゼスの木剣は一撃すら入らない。
その時にクロードの気配など感じれば、即座にローゼスをコテンパンにする。そして、愛するクロードの前にはせ参じるのだ。
ローゼスには見せない、とびきりの笑みで。
(……?)
また、なんかもやっとした。
普段は謙遜しがちで大人しいベアトリーゼは、クロードの前ではどこまでも可愛いただ一人の女の子だった。
ベアトリーゼのことで会話の増えたクロードとローゼス。
ちょっと苦手だった兄は、意外と面倒見が良かった。そして、多忙なクロードの代わりにベアトリーゼとの時間を過ごしてくれているローゼスに感謝をしているようだった。
兄のクロードのことは好きだ。意外と不器用で、優しい人だ。
ベアトリーゼのことも好きだ。とんでもなく強くて、その強さに憧れた。
二人とも大好きなのに、時々寂しく感じるのは何故だろう。
「その感情の名を私は教えることができるけど、それはお前が気付くべきだと思う。
そして、それを一生気付かない方がいいと思うけど、それを避けることは難しいだろう。少なくとも、お前が学園を卒業するころには嫌でも気づくよ」
長兄のフリードが苦笑しながらそういった。
謎かけのような言葉は、いつまでもしこりのように残った。
その後も兄とも未来の兄嫁との関係は良好だった。
少しずつ、もやもやは大きくなっている気がした。
でも、二人が嬉しそうだとローゼスはそのもやもやに蓋をした。
兄と友人を取られたという、子供じみた考えなのだろう。
クロードは多忙な人だし、ベアトリーゼは貴重な女友達で師匠だった。
自慢の兄と義姉である。
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