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あばよ! ですわ!

クロードは忙しい中で色々していました。そう色々。


 貴族では情報戦が基本だし。

 うちの領地は高級食材と素材の宝庫だから、あんまり商売にはガツガツしていない。

 この前、アビスボア(高級黒魔猪)の角煮はとても好評だったわ。スタミナ満点! コラーゲンたっぷり! ちょっと体が大きくて角が長い以外は普通の猪なのよね。

 ローゼス様は「それ……騎士たちが一生に一度は倒してみたい魔物」と泣きながら食べていた。

 大袈裟な。泣くほどおいしかったのかしら?


「婿入りする家なので、少々調べましたが二重戸籍なんですよ。ルビアナとタチアナ、そしてそのセシリアは。

 マルベリーとしての戸籍の正統性も疑わしく、他領地も関わっている為に調査に時間が掛かりました。

 ルビアナはダニエルと結婚する前にすでにモーリッツ男爵と結婚をしています。そしてモーリッツ男爵と婚姻関係が続いており、ダニエルと重婚している形となっています。

 タチアナは十中八九、時期的にモーリッツ男爵の娘。セシリアが生まれた当時は、複数の男性と関係を持っていたようですので定かではありませんが……

 それはまあ、領主であり当主としての権利を悪用したダニエルにも責任はありますが、のうのうと血の繋がらないタチアナとセシリアを養って溺愛しているあたり本当の胤が誰かも知らないのでしょう」


 二重戸籍で、しかも偽造戸籍。ルビアナの虚偽が大きな原因だろうけど……

 ということは、マルベリーとしての戸籍はハナから嘘だったってことか。へー。

 本当の戸籍はモーリッツ男爵のところ、マルベリー家としてのものは偽造戸籍の婚姻と嫡子認定ですものね。

 ハルステッドの戸籍は領主や集落を取りまとめる長の申請により作成される。

 ただ、平民の戸籍は貴族程きっちり管理されていないのよね。

 もしルビアナがモーリッツ家とのことを黙っていて、うちの糞親父が未整備戸籍だと思って作って貴族の妻として召し上げたのならそういうことが起きる。

 養女にするにもクロード様の口ぶりから、糞親父は既にマルベリー伯爵当主としての権限を振るうのは難しそう。


「う、嘘よ! 私は貴族よ! 平民じゃないわ! 伯爵家の娘よ!」


 真っ青のセシリアは必死に否定する。

 いや、クロード様もいってるけどうちの糞親父入り婿だし。

 だけれど、クロードは聞き分けのない駄犬を見るような目でため息をついた。


「貴女はエチェカリーナ様の娘ではない以上、マルベリー伯爵家を名乗る資格はありません。

 奇跡が起こってぎりぎりダニエルの実家である子爵の姓は名乗れるかもしれませんが、今までの狼藉を水に流す条件は貴族籍の剥奪。

 貴族を名乗ればベアトリーゼが必死に取り成した恩赦が取り消され、制裁を食らいますよ。

 恐らく、モーリッツ男爵も失踪したルビアナも、ぎりぎり娘かもしれないタチアナも、どこの胤とも知れない貴女も庇い養う気はないでしょう。

 私だって、散々妻となる婚約者を蔑ろにしていた泥棒達と住む気などありません」


「お父様がいるわ! お父様はまだマルベリー伯爵だもの!」


「ええ、ですがそれはベアトリーゼが成人するまでです。さっきも言ったでしょう。

 ベアトリーゼはもう十八になっていますので、ダニエルは爵位を彼女かその伴侶に譲らなければなりません。

 それまでの期限付きの爵位なのですから。

 もう少し仕事が減れば、もっと早く私が爵位を継いで追い出したのですが……

 貴女がたの埃が多すぎて、こんなにも時間が経ってしまった」


 きちんと身辺整理をしてから、新居に入りたいですからねとのたまうクロード様はまさに仕事のできる男。とっても頼り甲斐があってセクシー。

 うっとりと見上げていると、困ったように笑って私の頭をポンポンするクロード様。


「だからって! お異母姉様の私への虐めはなくならないわ!」


 まだ諦めないのか、セシリア。

 つーか異母でもなく赤の他人らしいから姉ってもう言わないで欲しいわ。

 クロード様の手をこれ以上煩わすなら、居直んなさいな。殴り合いも辞さなくてよ。


「虐め、ですか。貴女の方がよほどベアトリーゼを虐めていると思いますが?」


「そんなことしてない! クロードお義兄様もあんまりですわ!」


 大きな目を潤ませ、胸を寄せるようにしながら涙を拭うセシリア。

 毛皮の隙間から見える谷間。白いドレスに押し込まれ、みっちみちに詰まった乳房が窮屈そうに揺れる。

 サイズあってないのでは?

 しかし、そんな仕草にもクロード様は鼻白んだように失笑する。

 ハイハイ、理解理解。合点承知の助。セシリア。アンタそうやって今まで男を騙して、転がり込んで連泊していたのね?

 つーか仮にもクロード様を義兄呼ばわりするつもりなら色仕掛けやめろや。

 やるか? お? お? そのご自慢のお顔に拳をめり込ませてやらぁ。

 シャドウボクシングをしていると、クロード様の頭ポンポンをしてくださったので大人しくした。

 いっけなーい! 殺意殺意! うっかり闘志がバーニング!


「スタールビーのブローチ」


「……?」


「白いワンピースドレス」


「なに?」


「本棚の、たくさんの絵本」


「何よ、何を言っているの!?」


 それは、私にはわかった。

 体が震えた。それは、悲しみを思い出したのか、クロード様の優しさに震えたのか分からない。

 でも、クロード様にはそれは言っていないはず。


「貴女が捨てたり壊したりした、エチェカリーナ様の遺品ですよ。

 使用人たちから聞きました。幼い頃、事あるごとにベアトリーゼの部屋に押し入り、エカチェリーナ様との思い出の品を奪い取っていたそうではないですか」


「知らないわ! 私は知らない! そんな酷いことをしていないわ!」


「自覚がないのですか。それとも記憶にない程に些細過ぎて覚えてすらいないのですか。それは素晴らしい記憶力ですね。

 貴女にはベアトリーゼの大事な物も『その程度』のものだったのでしょう。

 一級品のスタールビーのブローチはどこかに無くして、ガラクタのブローチを押し付けたそうですね。

 白いワンピースは、エチェカリーナ様のドレスを仕立て直した大事な品だったのにそれに悪趣味なリボンで装飾して、下手な針仕事で血まみれの襤褸切れにした。

 幼い思い出がたっぷりとある絵本は勝手に捨てた挙句、本棚に下らない三文小説を詰めたとお聞きしました。

 ベアトリーゼは、貴女に『悪意はない』からと我慢して差し上げたのですよ。

 セシリアは妹だから、ベアトリーゼは姉だから、ダニエルたちは貴女の味方ばかりしているから。

 それに対しての謝罪、今からでも遅くないのでは?

 ベアトリーゼは次期伯爵夫人として、周囲に頭を下げていたというのに」


 無自覚な傍若無人。履き違えた善意と博愛。

 キラキラオールスターズは、ドン引きしているよ。既にセシリアから精神的にも物理的にも離れている。

 スタールビーの一級品って滅茶苦茶高いんだよ。一級品は嫁入り道具になることや、先祖代々受け継ぐことだってある。縁起物のパワーストーンでもあるから。

 使用人に探させて、質屋とかに入れられていないかも調べてもらった。出てこなかったけど。

 淡々とセシリアの過去の所業を突きつけるクロード様、超クールで惚れ直しちゃう。


「ああ、あと――貴女、何度か私が贈ったベアトリーゼへのプレゼントを勝手に開けてネコババしていたでしょう?

 流石に誕生日や祝い事の物は盗らなかったようですが、私が地方や外国で見つけて贈ったものばかり狙った確信犯」


「知らない! 知らない知らない知らない!」


「貴女のそのエメラルドのティアラ、サファイアのイヤリング、黄金ミンクのケープ……それは全て私からベアトリーゼに贈ったものですが?」


「違うわ! これは私が男性から貰ったのよ! 婚約者がいない私を可哀想だって!」


「その白いドレスに、ダイヤのついた靴。サイズが合っていないのでは?」


 よく見れば、セシリアの白いドレスは少し皺が多い。

 ふわっと広がったスカート部分はともかく上半身はきつそうだ。ミンクのケープで隠しているけれど、胸なんてもうぱっつぱつだ。

 ぶるぶる震えたセシリアは叫ぶ。


「だって、地味なベアトリーゼより可愛くて綺麗な私の方が似合うもの! 綺麗なものは綺麗な人が身に付けるべきでしょう!?」


 周りはドン引きだ。

 私は可哀想なのと自分で言いながら、異母姉、というかもしかしたら他人かもしれない人からものを盗んでいた。しかも、婚約者からの物を。


「それは、ウェディングドレスに浮かれて失神しそうなベアトリーゼの予行練習のためのドレスや靴や宝石です。

 泥棒に貸し出していい代物じゃない――衛兵、この娘を拘束してください。

 まだ余罪は十分あるでしょう。貴族ではないのですから、情けは無用です」


 クロード様が軽く手で合図すると、待機していたらしい兵が一斉にやってきた。

 セシリア親衛隊キラキラオールスターズは、セシリアのあまりの糞女っぷりに忘我状態だ。

 いや、私もここまで糞だとは知らなかったですが。


 連行されながら「私は伯爵令嬢なの! 貴族なのよ!」と叫んでいるセシリア。

 か弱い美少女が、怒りに我を忘れて鬼女のような顔で叫んでいる。

 それを軽く眼鏡を直しながら、無機質な視線を向けているクロード様。その知的眼鏡ムーブもエクセレントなクロード様が、こちらを見た。


「引きましたか? 容赦のない男だと」


「いえ、クロード様がやっていなければ私がやっていました」


「そうですか?」


「はい、助走付けて殴っていました! パーじゃなくてグーで!」


 セシリアの癖にクロード様と会話をするなんて生意気だ。

 クロード様をよその女に渡すかと、腕を取ってギュッと抱き着く。

 息巻いている私に、きょとんとするクロード様が口を押さえてくつくつと笑いだす。


「貴女は、本当に昔から変わりませんね」


「はい、クロード様が大好きです!」




読んでいただきありがとうございました。


後で登場人物を追記します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ざまあきました! スタールビーどうしちゃったんでしょうね? 是非どこかから見つかってほしいものです(箪笥の裏とか、以前義妹(?)がお付き合いしていた相手の家の人からとかとか) [気になる点…
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