え?これって王妃教育の一環じゃなかったんですか?~令嬢は虐められていた事に気付かない
初投稿です。拙いですが宜しくお願いします。
なんとコメディーの月間ランキング2位に入りました。
夢のようです。
応援して下さった皆様、本当にありがとうございました。
「この報告は事実なのか?・・・」
ブラゼル王国の王太子、アインハルト・ブラゼルは自身の執務室で憮然として呟いた。
「影からの報告なので間違いないかと・・・」
そう答えたのは、宰相子息であるメイヤーで、こちらも憮然としている。
「信じられない・・・」
「あのルーシュがまさか・・・」
続けて魔法師団長の子息マイルスと騎士団長の子息ライリーも唖然とした表情を浮かべた。
「決断の時だ」
アインハルトが悲壮な決意を込めて宣言した。
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ブラゼル王国の王都、ブラゼリアにある魔法学園リリアスでは卒業パーティーが華やかに開催されていた。
学園長の祝辞が終わり、楽隊が演奏を奏で、これからファーストダンスが始まろうとした時だった。
「ルーシュ・バーネット! 貴様のアリス・オコネルに対する悪逆無道は到底看過出来ぬ! よってこの場にて婚約破棄を申し渡す! 申し開きがあれば申してみよ!」
突然、壇上に上がったアインハルトの朗々とした声が響き渡り、それまでの弛緩した雰囲気が一気に緊張感を孕んだものとなり、会場はシーンと静まりかえった。
会場中が何事かと壇上のアインハルトとその取巻き三人と、更にその後ろに控えた女子生徒に注目する。
ピンクゴールドの髪、翡翠のような瞳、全体的に小振りで、まるで小動物のような庇護欲をそそらせる印象を与える少女、アリス・オコネル男爵令嬢である。
ここ最近、身分もわきまえず、アインハルトにまとわりついていて、他の貴族子女から白い目で見られている。
「私ですか?」
そんな中、なんとも間の抜けた声が響く。
コテンと首をかしげたのは、燃えるような赤い髪、猫のようにつり上がった碧眼、スラリとした長身の、少女から大人の女へと成長しつつある美女、ルーシュ・バーネット伯爵令嬢その人である。
王太子の婚約者として、10歳の頃から王妃教育に励んでいる。
学業は常に学年首席。魔法は最上級魔法を軽々と使いこなすという才媛である。
「惚ける気か!」
「惚けるもなにも何の事だか」
アインハルトが激昂するも、ルーシュは本当に心当りがないというようにまた首をかしげる。
「いいだろう、今から貴様の悪行を全て晒してやる。まず一つ、アリスの教科書をビリビリに引き裂いて使い物にならなくしたこと、次に廊下ですれ違う際、わざとぶつかって転ばせたこと、更に噴水前に呼び出し突飛ばして噴水に落としたこと、まだあるぞ、階段の踊り場で待ち伏せし突き落としたこと、挙げ句の果てに破落戸をけしかけて害そうとまでしたな。これらは悪質な犯罪行為だ! 牢屋行きは免れないと思え!」
「えっ? そうなんですか?」
「当たり前だろう!」
「えっでも、これらは全て王妃教育の一環だと」
「どこの国にそんな王妃教育があるかぁ!」
「でもでもイザベラ様がそう仰いましたし」
「・・・は?・・・」
アインハルトは一瞬呆けて呟いた。
「ですから、将来王妃になるのなら、これくらいの試練を乗り越えられなくてどうすると仰れまして、公爵令嬢である私が自ら体に叩き込んであげるわと全ての試練を私に課しました」
「は?全て?」
「はい、全て」
ルーシュは当たり前のように言った。
「全ての試練を突破した私に、イザベラ様はこう仰いました、最近殿下につきまとっている令嬢がいる、あの娘は側妃を狙っているようだから、将来王妃になるあなたが教育してあげなさいと」
その言葉を聞いた途端、イザベラとその取巻き達は顔面蒼白になって座り込んだ。
「まず、教科書は使い物にならなくなっても困らないように内容を全て覚えておけと、幸い私は一度読んだら忘れませんので楽勝でしたわ」
「うわぁそれ凄いね・・・」
「残念ながらアリス様は無理だったようですが」
アリスは呆然としている。
「次に廊下の件ですが、イザベラ様の取巻きでいらっしゃる、ライザ様、エリス様、オルガ様方が、常に死角から体当たりを狙ってきましたので探知魔法は欠かせませんでしたわ」
「うわぁ、なんてサバイバルな毎日・・・」
「こちらも残念ながらアリス様は私一人の突進もかわせませんでしたが」
アリスは思い出したのか体を震わせている。
「次に大雨で激流と化した川に突き落とされた件ですが」
「ちょっと待ってぇ! 噴水じゃなかったの?」
アインハルトが絶叫する。
「いえ、私の時は川でしたが」
ルーシュは何事もなかったように答える。
「それって殺人だよね?嫌がらせとっくに越えてるよね?」
「ええ、私もそう思いましたので、アリス様の時は噴水にしました。その・・・死んじゃうと思ったので・・・」
「それが普通だよね? ってか、よくルーシュは無事だったね!」
「私、浮遊魔法が使えますので楽勝でしたわ」
「あぁそうなんだ・・・」
アインハルトは段々疲れてきた。
アリスはといえば顔面蒼白になり今にも失神しそうだ。
「次に校舎の屋上から突き落とされた件ですが」
「うん、もうわかった! 浮遊魔法で無事だったんだね!」
「いえ、風魔法でクッション作ったんですが」
「どっちでもいいわ!」
「それとアリス様ですが屋上からだとさすがに・・・」
「うん、死んじゃうね! 皆まで言わなくていいよ! だから一階の踊り場からにしたんだね!」
アインハルトは投げやりになってきた。
「あと何だっけ、あぁ破落戸をけしかけたか」
「はい、ただ私の時はS級冒険者が相手でしたが」
「・・・一応聞いておこうかな、なんで生きてんの?」
「防御魔法を重ね掛けして、最上級攻撃魔法で一発で仕止めました」
「うん、なんていうか、お疲れ様・・・」
アインハルトはなんかもうどーでも良くなってきた。
「それでアリス様の時ですが」
「あぁそれは言わなくていいよ。アリスがルーシュから嫌がらせを受けてるって訴えがあったから、俺達がマークしてた。そんでアリスに絡んできた破落戸を撃退したから今回の件が発覚したようなもんだから」
「そうでしたか」
「ふぅ・・・」
アインハルトは大きなため息をついたあと言った。
「ライリー、取り敢えずこのイザベラと取巻き達を拘束しろ」
「はっ!」
ライリーが近衛騎士を引き連れて、呆然自失状態のイザベラ達を拘束していく。
それをポカンと見送っているルーシュに向けて、アインハルトは
「ルーシュ、王妃教育をやり直そうか・・・」
と呟いたのだった。




