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封じ込められた龍神

 カフェの定休日、ティーポットを磨く当番が澪と蓮に回ってきた。いつも髪を後ろでひとつにまとめ、パティシエ帽子を被っている澪も、今日は髪の毛を下ろしている。ジーンズにGUESSの黒いTシャツが、モデル体型の彼女にはよく似合う。

 蓮と昨夜LINEで連絡をとり、待ち合わせはアマ・デトワールの入り口前に、午後13時に集合となっていた。真夏のうだる様な暑さが体力を奪う。日傘をさして蓮を待つ澪は腕時計を見た。「12時57分か」

 澪が鞄からスマホを取り出した時、蓮が澪の前に現れた。「ごめん、待った?」「ううん、ちょっとだけ。でも、大丈夫。とりあえずお店の中に入ろう!暑過ぎて外にいられないよ」澪はスマホを鞄に入れると、お店の鍵を取り出した。鍵穴に鍵を差し込むとカチッと言う音と共に扉が開く。

冷房が効いてない定休日の店内は暑い。澪を先頭に蓮も店内に入る、「お邪魔します」と蓮が言った。フローリングの床は歩く度、コツコツと乾いた音がする。蓮の前を歩いていた澪が足を止めた。

「私、冷房入れてくるから、蓮は店内の電気をつけてきて!」「OK!」店内に明かりがついて、冷房の冷たい空気が店内に循環し始めると、フロアに戻って来た澪が

ソファにポスッと音をたてて座った。「これで一安心、蓮もそんなところに立ってないで座ったら?」蓮に座る様に促すと、蓮は澪が座るソファーの隣の席に遠慮がちに座った。「作業に入ろうと思ったけど、喉乾いてない?麦茶でいいなら出すけど、いる?」と澪が言った。「ありがとう、喉乾いてたんだ。麦茶もらうよ」「じゃあ、持って来るから、ちょっと待っててね」


 澪は従業員用の冷蔵庫を開けて、麦茶が入ったガラスのボトルを取り出すと、グラスに麦茶を注ぎ入れた。手でグラスを持って「はい、どうぞ」と蓮に差し出す。「いただきます」蓮は喉が渇いていたので、麦茶を一気に飲み干した。

 汗が引いて落ち着いた頃、「そろそろ、作業に入ろうか?」と澪が切り出し、金属とガラス出来たアンティーク戸棚の扉を開くと、オーナーがこれでもかと集めた、高価なティーポットとカップの数々が目に入った。

 「これ、全部合計したら総額はいくらになるかな」蓮が骨董品のティーポットとカップを見ながら、指をさした。「うーん、どうかな?オーナーから直接金額を聞いたことはないけど、私と蓮が一生かかっても、支払えない金額にはなると思う。落として割らない様にしようね」澪と蓮は、ティーポットとカップを棚から一番近いテーブルの上に少しずつ移動させ、絹の布でゆっくり丁寧に磨き始めた。最初は、落として割らない様に、緊張気味に骨董品を扱っていた二人も、作業に慣れると私語が出る。

 澪が「あのね、聞いてもいい?蓮って、仕事は何してるの?」と話しかけた。蓮は磨いているティーポットから目を離さないまま、「俺の仕事?建築の設計図を作るのが仕事だよ」「へぇ、じゃあ建築士なの?」「うん、そうだね建築士だね」「凄い!」「そうかな?」「うん、凄いと思う!私は設計図なんて書けないし」「そう言う澪は、パティシエとして成功しているじゃないか。俺はそっちの方が凄いと思うけどな」「そう?でも畑は違うけど、作るって所だけは蓮と私は共通してるね」「作るか、そうだね。そこは共通しているかもな」ティーポットを磨き終えて、テーブルの上に置いた蓮が顔を上げた。それから二人は時々、私語を交えながらティーポットとカップを割らずに磨き上げ、磨き終割った骨董品の数々を丁寧に戸棚に戻した。

 「これで全部かな?磨き残しはないよね」澪は戸棚の中を一通り見渡してから、扉を閉めると鍵をかけた。午後15時を過ぎた店内の時計からオルゴールの音でメロディーが流れる。「とりあえず、ミッションは無事に終わったね。約束通り、紅茶と美味しいスイーツを特別室で出すから、二階に上がって」と澪が蓮に言った。「うん、ありがとう。でも、今日はちょっと胃の調子がイマイチ良くなくて・・・できれば、サッパリしたスイーツなんてない?」蓮は申し訳なさそうに澪に言った。「そっか、今日は暑いから生クリームたっぷりは重たいもんね。それなら昨日作ったレモンのゼリーがあるから、それでいい?」「あぁ、それでいいよ十分」「わかった。紅茶と一緒に持って行くから、蓮は適当に寛いでね」澪は戸棚からティーセットを1組選ぶと、工房へ持って行った。


 蓮がソファーに座ってスマホを見ていると、ティーポットとカップをトレーに乗せた澪が、二階に上がってきた。ボンボニエールフランスの薔薇とリボンの柄が美しい、ティーポットとカップが気分を高揚させる。「お待たせ!持って来たよ」澪はテーブルの上にトレーを置いた。「こうして見ると、貴族のお茶会みたいじゃない?」澪がとても嬉しそうだ。しかし、トレーの上にはティーポットとカップだけしかない。澪はペロッと軽く舌を出して、「レモンのゼリー持って来るの忘れてた!取りに行って来る!」と、工房へスイーツを取りに行った。

 改めてティーポットとカップをじっくり見る。骨董品のことはサッパリよくわからないし、知識はないけれど、目の前のティーセットは豪華絢爛だった。「これは、貴族というより、王族のお茶会だな」と蓮が思った時、何処からか人の声ではない声が頭の中に響いた。聞こえると言うより、頭の中に響くと言った方が、しっくりくるような感じだ。

 「ダシテ・・・ココカラダシテ!」今の声はなんだ?怖気が全身を襲う。怖い!もしかして幽霊?幽霊なのか?俺、ホラーはダメだよ!Youtubuでゲーム実況してた時、ホラーゲームやって、精神的に病みそうだったもん。澪、早く戻って来てくれ!蓮は心の中で強く願いながら、この部屋から逃げたいと思った。

 ドキドキしながら澪が戻って来るのを待つと、澪がレモンゼリーにシャーベットを添えたお皿を2つ、持って戻って来た。「レモンゼリーだけだと寂しいから、シャーベットを添えてみたんだけど・・・これなら食べられそう?」と澪が言うと、蓮は顔を強張らせたまま、ウンウンと首を縦に振って頷いた。様子が変なことに気が付いた澪が蓮に「なぁに蓮、どうしちゃったの?なにかあったの?」と言った。「な、なんでもないよ!気にしないで」蓮は震え声で返事をした。ここの店って、幽霊出るのか?なんて言えるわけがない。

「変な蓮、まぁいいや。冷たい内に食べちゃおう」「そ、そうだね。食べよう!」蓮がゼリーを食べようとした時、澪はまだゼリーを食べずにいた。「どうした澪、食べないのか?」「私、パティシエだから、食べた人の反応を見たいし感想を聞きたいの。職業病みたいなものね」と、澪が言った。「そう?じゃあ、お先に」蓮はゼリーを一口、スプーンですくうと口の中に入れた。


 爽やかなレモンの酸味と、程よい甘さのゼリーはとてもサッパリしていて、美味しかった。ゼリーの硬さもちょうどいい。「これ、美味しい!サッパリしてて、プルプルしてるし、いくらでも食べられそうだね」「ほんと?昨日、作っておいてよかった!」澪も満足そうだ。レモンゼリーと一緒に、お皿の上に添えられたラズベリーのシャーベット、ウエハースも美味しかった。

 微かにシャンパンの香りがする上品な紅茶は、蓮の恐怖心を一掃した。「さっきの怪奇現象はどうでもいいや。きっともうないだろうし、早く忘れてしまおう」と蓮は思った。

 スイーツを食べ終えて、お茶を飲みながら雑談をしていると澪が突然、ハッとした顔をして周りを見渡している。「澪?」「蓮、何処からかわからないけど、ダシテ・・・ココカラダシテ・・・って声が聞こえたの!」と澪が真顔で言った。その途端、蓮の顔がみるみると青ざめる。その様子を澪は見過ごさなかった。「蓮、何か知ってるでしょ?」澪が疑う様に、大きな瞳で蓮を見つめている。

 怪奇現象は終わってなかった!蓮は何も言えず、話をどうやって切り出そうか、迷っていた。澪が「隠してないで、答えて」と蓮を問い詰める。もう駄目だ、これ以上黙ってはいられない。蓮は言いにくそうに「実はさっき、澪が聞いた声を僕も聞いた。ここのカフェって・・・ゆ、幽霊とかいるのか?」と言った。

 澪は腕を組みながら「幽霊がいるなんて、スタッフから聞いたことない。それに、声が聞こえるなんて今までなかったけど?先週の定休日に出勤した、涼介さん(佐伯)とだいきゅんからは、変わった事があったなんて聞いてないし・・・」と少し口を尖らせて顰めっ面をした。その間に「ダシテ・・・ココカラダシテ・・・」という声が、さっきよりも鮮明に聞こえると、二人は同時に「アーッ」と悲鳴を上げた。

 人は良くも悪くも慣れる生き物だ。何回か同じ声は聞こえるものの、正体が出ないとなると冷静になる。この声は何処から聞こえるのか?二人は声の正体を探し始めた。椅子でもソファーでもテーブルでもない。よく耳を澄ませて聞いていると、ある物に二人の視線が集中した。そう、これだティーポットだ!

 澪が蓮の腕を指で突いて「ねぇ蓮、ティーポットに声をかけてみてよ!」と言った。「なんで俺が声をかけないといけないの?澪が声をかければいいだろ!」「こういう時は、男が率先してやるものでしょ!」「あ〜お前、そう言うこと言うわけ?」「こんな時だから、リードを取って欲しいものなの!」「こう言う時って・・・男だって、怖い時は怖いんだぞ!」お互いにティーポットに声をかけるのが怖くて、蓮と澪は口喧嘩をした。澪は「蓮って、ほんとビビリじゃん!なによ意気地なし!今までどうしてたの?女の子がピンチになった時、ちゃんと守ってあげたの?」つい、口調を荒げてしまった。


 その途端、蓮は下を向いて「俺、高校生の時以来、彼女なんていなかったから女の子を守るとか、なかったよ」と哀感を帯びた声で呟いた。言った言葉は取り戻せない、「どうしよう・・・蓮を傷つけちゃった」澪が当惑しているとティーポットの蓋が、カタカタと音を立てて動き出した。

 「アノ・・・ケンカハダメネ」ティーポットの中から声がした。澪は、思いきって「貴方は誰なの?なんでポットから声がするの?」と話かけた。「ワタシはリュウジン。ワケガアリ、ポットノナカニ、トジコメラレタノデス」「リュウジンって、龍神のこと?私にどうして欲しいの?」「ワタシニ、ナマエヲツケテホシイデス」「名前?貴方に名前を付けたら、ポットから出られるの?」「ソウデス!ココカラデラレル」「私と蓮に祟りとか、呪いをかけたりしないと約束できるなら、名前を考えてあげてもいいけど」「タタリ?ソンナコトシマセン、カミサマニ、シカラレテシマイマス」「神様?神様って、あの、天国にいる神様のこと!?」「ソウ、ソウ」「嘘!そんな胡散臭い。今は21世紀。まだまだとは言っても、科学の時代なのに?神様とか・・・」澪はポットの中の不思議な生き物に興味を持ちつつ、とても警戒した。そう言えば、蓮はどうしたかな?


 澪が蓮を見ると、蓮もポットの中のドラゴンと澪のやりとりを聞いて、ポットに最大の興味を示している様だ。今このタイミングで蓮に謝れば、許して貰えるかもしれないと思った澪は、「蓮、さっきは言い過ぎた。本当にごめんなさい」頭を下げて謝った。「いや、俺も悪かった。ごめん!」蓮も澪に謝った。

 頭を上げると、お互いに目が合って二人の口元が綻んだ。あ、そうだったティーポット!澪が「名前を考えるから、ちょっと待っててくれる?」と話かけると、ティーポットの中の龍神は「ハヤク、オネガイシマス」と言った。

 蓮が「奇妙だけど、封じ込められた龍神の名前を考えるか」言うと、澪が「私、この現実ができれば夢だと思いたい」と言った。「気持ちはわかるけど、まぁそう言うなって!奴(龍神)の名前、決めちゃおうぜ」「そうね、「ティーポットドラゴン」では、ひねりも何もないし・・・」「澪、ネーミングのヒントになる本とか、ない?」「う〜ん、どうだろう?探してみる」カフェにある従業員休憩室の本棚から、澪がネーミングのヒントになりそうな本を探し始めた。「僕も一緒に探すよ」蓮も澪と一緒に、ヒントになりそうな本を漁ってみた。

 本棚には、澪が持参したスイーツのレシピ本。聡太が持って来たメンズ雑誌。黒瀬が持って来た筋トレの本。佐伯が持って来た、コーヒー豆の産地や知識が記載された専門書、そして、何故か一冊だけあった創作ネーミング辞典。不思議に思った蓮が「創作ネーミング辞典なんて、何で佐伯さんが持ってるの?」と、澪に尋ねた。澪は辞典を手に取ると、パラパラと捲りながら「これね、涼介さん(佐伯)は以前、小説家を目指していたことがあったの。でも、執筆途中で心が折れちゃったらしくて・・・小説家の道は、あっさり諦めたって言ってた。でも涼介さん、辞典を処分しないで残してたんだね」感慨深く澪は言った。

「佐伯さんが小説家を目指してたなんて僕、聞いたことなかったな。人って意外だね」「うん、そうなの。涼介さん、根気がある方じゃないから、作家よりバリスタになって良かったんじゃないかな。この辞典せっかくだから、ネーミングのヒントに使わせてもらおうよ」「そうだね。いい名前が決まるといいね」二人は創作ネーミング辞典を見ながら、事情は知らないがティーポットに囚われた龍神の為に「名前」を考えた。創作ネーミング辞典は基本、横文字だ。「困ったな、なかなか決まらないものだね」蓮が創作ネーミング辞典を見ながら澪に言うと、澪は両肘で頬杖を着きながら口を尖らせていた。綺麗な顔をしているのに、その表情が面白くて蓮はつい、フッと吹き出してしまった。


 「なんで笑うの?こっちは真剣に考えてるのに」ムスッとした顔をしながら、澪が軽く蓮を睨んだ後、思い出した様に「あっそうだ!なにも横文字に拘らなくても良くない?私の名前は澪、貴方は蓮、どっちも名前は偶然だけど一文字。それなら・・・」「それなら、奴(龍神)も名前を一文字にしちゃえってことか?」「そう、その通り!龍神がどんな姿で何色なのか、閉じ込められた龍神に聞いてみよう」「それはいい考えかもな。よし、じゃあ奴(龍神)に聞いてみるか!」蓮と澪は、二階のフロアに待たせているティーポットの中の龍神に、どんな姿で何色をしているのか聞いてみることにした。階段を上がり、二階に行ってテーブルの上のティーポットに近づく、「ドラゴンさん、いる?」澪はティーポットに話しかけた。程なくして「イマスヨ」とドラゴンが返事をした。「おーい龍神、どんな姿で何色をしているのか聞いてもいいか?」蓮がティーポットに話かけると、龍神は「ワタシハ、ミノタケ1キロメートルノリュウタイデ、イロハ、タケノヨウナイロ」と答えた。身の丈1キロメートルの龍体で竹の様な色・・・う〜ん。二人は腕を組んで考える。


 突然「閃いた!」と澪が言った。「龍神さんは「すい」と言う名前でどう?緑色の竹のことを、翠竹すいちくって言うじゃない?そこから一文字とってすいにしてみたの」「翠かぁ。なかなかいい名前だ!」蓮も納得した。

「翠って名前はどう?嫌?」澪はティーポットに話しかけた。「スイ・・・イイナマエデスネ。ソレデハ、フタリドウジニ、ワタシノナマエヲヨンデクダサイ、コレデ、ココカラデラレマス」ティーポットの中の囚われた龍神は、二人同時で名前を呼んでくれる様にお願いした。

 龍神がどんな姿なのかを想像すると、二人はとてもドキドキした。澪は「二人同時に名前を呼べって・・・掛け声は、なんて言ったらいいと思う?」と蓮に聞いた。「そうだなぁ。こんなのはどう?」蓮はメモ紙に、何か文字を書き始めた。「はい、これ」蓮が差し出したメモ用紙を見ると、こんなセリフが書かれていた。「ティーポットに囚われし、翠竹色の龍神「翠」!今こそ我らの前に、清々しく現れ出よ!」。

 「蓮、こんなセリフよく思いついたね」「なんで?」「B級ファンタジー映画のセリフみたい」「じゃあ、お前(澪)他にいいセリフあるのかよ」「え、それはちょっと!恥ずかしくて思いつかないかな」「じゃあ、もうなんでもいいじゃないか、奴(龍神)にポットから早く出てもらおうぜ!」「このベタなセリフを、一緒に言えばいいんでしょ。恥ずかしくて吹き出しちゃいそうだけど、頑張る」「一回で決めるぞ!」二人は、テーブルの上のポットの前に立って横並びすると、息をスーッと吸った。せーの!「ティーポットに囚われし、翠竹色の龍神「翠」よ!今こそ我らの前に、清々しく現れ出よ!」

 二人がセリフを言い終わると、外の天気が急激に悪くなり、雷鳴が轟いて土砂降りの雨が降り出した。「わぁ怖いっ、怖いって!」二人は思わず抱きついた。しかし、ハッと我に返って、抱きつくのをやめた。「ごめん!つい・・・」「いいの、気にしないで。私も思わず蓮に抱きついちゃったから」澪と蓮がモジモジしていると、「あの〜もうそろそろ、いいですか?」と遠慮がちに言う声がした。

 ほんのり赤ら顔の二人がティーポットを見ると、ポットの上に10センチ位のチョロチョロと動く生き物がいた。ジーッとよく目を凝らして見た蓮が思わず、「ちっさ!タ、タツノオトシゴ?」と言った。「違います!タツノオトシゴじゃないですよ。これでも私は龍神です!」タツノオトシゴと言われたのが余程腹に立ったのか、翠は腹を立てた。

 「いやいや、翠は身の丈1キロメートルの、いにしえに言い伝えられた龍神じゃなかったっけ?どう見てもタツノ・・・なんでもない」蓮が眼鏡の淵に指を当てながら話すと、「体のサイズは最小1センチから、最大1キロメートルまで、伸縮自在に変えられるんです!」と翠は言った。それを聞いた二人は、えっ、そうなの?と顔を見合わせた。

 「ねぇ、翠がなんでティーポットに閉じ込められていたのか、教えてくれる?」澪が翠に言うと、翠は頷いて「勿論、お話し致しましょう」と言った。翠は小さな龍体りゅうたいを、ユラユラと揺らしながら澪の側まで飛んで来ると、クルクル回って旋回した。「ねぇ、翠」「なんでしょうか?」「やっぱり蓮が言う通り、タツノオトシゴに見えるんだけど?」「それでは、もう少し大きくなったほうがいいですか?」「え?う〜んそうねぇ、ほどほどにしてくれない?大き過ぎると恐いし」澪は翠に注文を入れた。「では、このくらいの大きさでは?」と言った翠が、パッと姿を変えると、先ほどの小さなタツノオトシゴとは似ても似つかない、翠竹色が見事な身の丈三メートルの、全身がキラキラと光る綺麗な鱗で覆われた龍が現れた。驚く二人に向かって、翠は得意そうに「これでどうだ!」とドヤ顔をした。

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