9話
「…は?」
うまく聞こえなかった。
きっと、『君も私も悪かったよね』みたいな事を言ったのだろう。
だとしてもすこし押し付けがましい気がするが。
「いやぁ、だからさ。私がいつもサボりに使ってる部屋にいる、お前が悪いよな。」
聞き間違えではなかった。
なんてやつだ。信じられない。
器が小さいだけでなく、器の中身を投げ掛けてきやがった
「いや、いやいや、いやいやいやいや。
今のは完璧にあなたの不手際でしょう!?
それに、あなたはいつもこのドアを破壊して入ってるんですか!?」
「んなわけねぇだろアホかお前。」
またしても!
「今日だけだよ…いや今日だけじゃねぇか。何回かだけだ。」
二回以上でも十分異常だ。どんな腕力してるんだ。
「あ?腕力な訳ねぇだろ。お前はアタシをなんだと思ってんだよ」
「いきなりドアを破壊してその上僕に全責任を投げ掛けてきた人です」
「そんなに誉めるなって!」
「なっ…!」
いや、かっとなるな。落ち着こう。
相手のペースに飲み込まれるな。
「とにかく、私はこの部屋を使わせてもらうかな!」
「好きにしてくださいよ…」
とにかくこれ以上関わりたくない。
さっさと切り上げて何処かにいこう。
…どこに?
「あっ!あれかな?うん!いたいた!おーい!」
突然、部屋の外、廊下の奥の方から声が聞こえてきた。
「『バッドクラック』さん!お迎えに参りました!」
まだ遠くの方から声が聞こえるが、目の前の頭真っ白女よりも柔らかい、すこし幼い印象の女性の声だ。
段々と近づいてきた声は、幾らか前の部屋で止まった。
頭真っ白女に困惑しているようだ。
「あれ…?なんでここにいるんでしょうか…?」
「あ?しったこっちゃねえよ。」
「ですよねぇ…今頃任務の筈ですもんねぇ…」
そうはならないだろう。
「貴女がここにいるんなら、任務には誰が行ってるんでしょうねぇ」
「あー…確か…『鳥兜』の奴が行ってる筈だな。」
「そうですかぁ…同じ部隊だからってあんまり仕事押し付けちゃだめですよぉ。この間も、仕事を押し付けられすぎて忙しいって愚痴言ってましたから。」
「へいへい、後で謝っておくよ。」
完全に僕が蚊帳の外だ。僕を迎えに来たのではないのだろうか。
「あっ!そうでしたそうでした!大変失礼しました!」
部屋の前まで歩いてきて、くるりと立ち止まり
「ただ今お迎えに上がりました!非科学否定連合雑務部の『ボディプロセス』です!この度は御入隊、おめでとうございます!」
なにがめでたいものか。突然さらわれ指を切り落とされたあげくドアの下敷きにされたんだ。
「そうですか…でも!一応はおめでたいことです!あ、それと、後輩とはいえ形式上はあなたのほうが上司になります!お気軽に話しかけてくださいね!」
そんなことは心配していない。
そもそもなんで迎えに来たんだ。
「あっ、そうでしたそうでした!これまた失礼しました!」
『ボディプロセス』はチラリと頭真っ白女の方を向くと、こちらに向き直し
「今から貴女にはこの『薄荷』さんと任務にでてもらいます!」
「…は?」