8話
「ぎっ!あああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
指を切り落とされるのも2度目だが、前回と違い四本同時だ。
四倍とまではいかなくとも痛みは前の比にならなかった。
「そうわめくな。君は不死身だ。指を治すことくらい、出きるだろう?」
冗談じゃない。
言い換えそうにも痛みで頭は纏まらず、
ただじっと堪えることしか選択肢がない。
「おいおい、嘘だろう?速くしてくれよ。いい加減に悲鳴も頭に響いてきたから、さっ!」
『ストライプ』は大きく声をあげると同時に、僕の唯一残った親指をあらぬ方向へねじ曲げた。
切り落とされたのとは違う、鈍い痛み。
これは正直、耐えられない。
僕はそのまま、気を失った。
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目を覚ますと、痛みは消え、指もすべて治っている…
夢だったのだろうか、そんな考えが頭をよぎった。
しかしそんな希望的観測を嘲笑うかのように、
目を覚ましたのは気を失うまでと同じ内装の部屋だ。
そのうえ、切り落とされた指はすこし色が変わっており、
あらぬ方向へねじ曲げられた親指に至っては
曲げるとすこし違和感を覚える始末だ。
痛みこそないものの、明らかに稼働範囲が狭まっている。
「夢じゃない…」
そんな分かりきっていたことをわざわざ口に出さないと平常心じゃいられないくらい、僕は憔悴しきっていた。
何故こんなことになったのか。
僕はただ家に帰っていただけじゃないか。
天を仰ぎ(といっても天井があるのだが)、いくら嘆こうが状況は一向に変わらない。
ふと顔をあげると、ドアが目にはいる、
目にはいるといっても最初からそこにあり、隠れて居たわけではないのだが。
とにかく今の今まで意識の外に置いていたのだ。
もしかしたら開くんじゃないだろうか。
いや…
「今まで何一つ僕の思いどおりになってないんだ。
きっと鍵もかかっているだろう。」
それは非希望的、いうなれば絶望的観測だった。
だからといって試さない訳にもいかない。
限りなく0に近かろうが、0ではないことは確かなのだ。
開くかもしれないし、開かないかもしれない。
なんであれ試せば分かることなのだ。
部屋からでなければ何もできない。することもない。
しかし、僕のこの考えは予想もしない方法で進展した。
ドアはいとも容易く開いいた。
正確にいうなら開いてはおらず
ドアノブを捻ることが出来た、が正しいのだが。
しかしドアは開けない。
やはり鍵がかかっていたとか、そもそも開けるように出来ていなかったとかまともな理由ではなく。
ドア付近の壁が薄氷のように砕け
それこそいとも容易くこちら側に倒れて僕は下敷きされ、人生2度目(一度目は言うまでもなく不死身化のときだ。)の死にそうな程の苦痛を味わうことになる。
「お?なんだ?人がいたのか?」
部屋の前、いまは崩れ去ったドアの前から声が聞こえる。
とても張りのいい、活気に満ちた声だ。
どうやらこの人が部屋の壁をぶち破り僕を下敷きにした張本人らしい。
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫に見えるんですか…?
ならあなたの方が大丈夫じゃないです。
今すぐ眼科か精神科にいってください。」
「ぎゃははは!いうじゃねえか!そこまでいうんなら大丈夫だな!」
怒りと痛みでほんのすこし語彙の毒が強まったが、
相手は全く気にしておらず明朗快活な声で笑っている。
器が広いというより、器に穴が開いている感じだ。
「まあ気にすんなって。いま助けるからよ」
そういうと、片手で、ほとんど力を入れる仕草もなしに壁を持ち上げた。
「よいしょっと。ほれ。立てるか?」
「大丈夫ですけど…」
顔をあげるとそこにいたのは、僕と同じくらいの少女だった。
顔は整っているが、異常なまでに挑発的な目。
目を引く白い髪は肩ほどまで延びており、
なんというか見た目と中身のギャップが凄い人だ。
「ほら、やっぱり大丈夫なんじゃねえか。
あんまり人をからかうもんじゃないぜ。」
しっかりと根に持っていた。器小さいな。
「わるかったな。こんなところに人がいるなんておもわなくてよ…」
俯きがちに話し始める。
申し訳なく思っているならば僕も許そう。
そこまで心の狭い人間ではない。
「まぁ、なんだ。こんな外れの部屋にいるお前がわるいよな。」
「…は?」