4話
「やぁ、『バッドクラック』」
振り替えると、僕をさらった二人組の男の方が立っていた。
おかしい。僕がさっき部屋のなかを覗き込んだとき、
中には誰もいなかった。
死角になるような場所も存在していない。
これも、連中の使う『科学』とやらの力なのだろうか。
「どうしたんだい?『バッドクラック』。
中には入りなよ。」
男は始めてあった時に比べ、
いくらか声のトーンがあがり、笑顔を浮かべている。
無理矢理作った、仮面のような笑顔を。
「いきなり拐ってすまなかったね。
まさか薄荷だと思ってた奴がなんの関係もない一般人だったなんて」
「あなたが…スケープゴートですか?」
「俺かい?俺は違うよ。」
男はそういって否定する。
しかし、辺りに(少なくとも部屋のなかに)人影はない。
「じゃあ…貴方が、薄荷、ですか?」
ほんの少しの興味からの質問だったが、それを深く後悔する。
部屋の空気が変わったのがわかる。
重くなったというか、鋭くなった。
同時に男の表情も曇る。
少しでも動けば切り捨てる、とアピールされているかのように。
しかしその空気もすぐに和らぎ、
顔に貼り付けられたような笑みを取り戻し、
またも男は否定する。
「おいおい、冗談はよしてくれ。
俺は『薄荷』じゃなくて、『ストライプ』さ。」
次から次へ名前が出てきて覚えられそうにないが、
男は、『ストライプ』は分かりやすく、ストライプの着ている服は縞柄のスーツだった。
狙ってるんだろうか…
「『スケープゴート』はこの間一緒にいた女の方。」
一緒にいた女。
さっきスピーカーを通して話した人だろう。
顔に感情がない女と、
貼り付けられた笑顔しかしない男。
良いペアのような気もするが、絶対に合わない気もする。
凹があって凸があるように、正反対の組み合わせの方が合うことも多いのだ。
関係ないことを考えていると、『ストライプ』に
自分の座っているソファの向かいにに座るように促された。
ソファの前の机には、
高級そうな茶菓子、
紅茶の入ったポット、
そして山のような書類が積まれている。
ここは応接室か、もしくは作業部屋のような物なのだろう。
しばらく物色するように部屋を見回していると、
部屋の入り口の方から物音がする。
『スケープゴート』が来たのだろう。
振り返って姿を確認する間も無く、
スタスタと歩き、『ストライプ』の横に座る。
座るのとほぼ同時に、机に置いてある茶菓子を食べ始めた。
それを合図とするかのように、
『ストライプ』は話し始める。
「まず、君を拐った事、
「それに対して謝らせてほしい。
俺たちもまともな情報は渡されてなくてね。
『あの時間帯』に『あの周辺の場所』で『一定の方角』に向かって進んでるはずの奴を拐ってこいとしか聞かされてなかったんだ。
虫の良すぎる話だとは思うが、許してほしい。」
「僕は別に」
「次はこれから君に何をしてもらうかだ。」
矢継ぎ早に言うので、相づちを打つことも返事をすることも儘ならない。
『スケープゴート』はずっと茶菓子を貪っている。
「いいかい、『バッドクラック』。
これから君には、非科学否定連合軍の
兵士として戦ってもらう。」
三度目の、意味がわからないだった。