2話
「貴方には今から不死身になってもらいます」
意味がわからなかった。
いきなり連れ去られた事も、
指を切り落とされた事も
まだ飲み込めていないのに、不死身になれといわれたって…
もしかして、富士見という名字になれという
斬新なプロポーズだったりしないだろうか。
まぁ指を切り落とした相手なんて間違いなく断るが。
そんな一抹の希望、希望というより悪あがきといったほうがしっくり来るようなことを考えるが
どうやら思い違いではないらしい。
「貴方にはこれから改造手術を行わせていただきます。
安心してください。
抵抗しなければ痛みは最小限です済みます。」
「いや、いやいやいや。
不死身って言ったって、そんなことが出きるわけないじゃないですか。
そもそも、ここは何処なんですか?
貴方は誰なんですか?
光を弱めてくれませんか?」
「べらべらとよくしゃべる奴だな。」
突然、話を遮り別の男が話しかけてくる。
この声には聞き覚えがあった。
確か、僕を連れ去った二人組の男の方の声だ。
「いいか、俺達はお前を殺そうと思えばいつでも殺せることを覚えておけ」
僕は今から不死身になるのではないのだろうか。
不死身なのに殺されるなんて、本末転倒も良いところだが…
「余計なことを考えてんじゃねえぞ。」
心を見透かされたのだろうか
「選べ。お前は手術を受け入れて不死身になるのか?
それとも抵抗して大人しく死ぬか?」
相変わらず低く威圧感のある声だ。
もう少し声が高い方が愛嬌が出て言いと思う。
ともかく、死ぬのはさすがに嫌なので、提案を受け入れるしかなさそうだ。
死ぬのをいやがって死ななくなるなんて、少し笑ってしまうような話だが。
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手術自体は思いの外早く終わった。
物の数分だっただろう。
しかしその数分は今まで生きてきたなかで最も苦痛に満ちていた。
目を開けられないほど(といっても光はまだ強かったので目を開けてもなにも見えないが)の吐き気、思考が纏まらなくなるほどの、指を切られた痛みなんて比べ物にならない痛み。
なによりも、少しずつ身体中の感覚が無くなっていく喪失感。
なんとかそれを乗り切り、手術を終え、
再び起き上がれるようになるのには、
実に四日を要した。
しかしながら、やっと顔にあて続けられた光もなくなり、
寝かされていたベッドの横に備え付けてあった鏡で
自分の姿を確認する事ができた。
意外なことに、あんな苦痛を乗り越えたと言うのに
外見はほとんど代わり映えはしていない。
強いて言えば切り落とされた指が修復されていたくらいだろうか。
なんとも拍子抜けだ。
そう考えていると、部屋の角に設置されているスピーカーから音声が流れる。
「起きましたか。試験体『バッドクラック』。
気分はどうですか?」
この声にも聞き覚えがある。
僕をさらった二人組の女の方だ。
『バッドクラック』とは僕のことだろうか。
大層な名前をつけてくれたものだ。
「最悪ですよ。
改造手術って言ってたから
手から炎出せるようになったりするのかと
期待してたんですけどね。」
「そこまで話せるなら大丈夫でしょう。
それにしても回復が速すぎる…
これも不死身化の効果でしょうか…?」
「あのー、そろそろここが何処かを教えてほしいんですけど…」
できれば御飯もください、と付け加える。
「そうですね…
言っても宜しいでしょうか?
…はい、わかりました。」
どうやら隣にいる上司?に許可を取ったようだ。
一呼吸おいて、女性は答える。
「ここは、非科学否定連合軍、
通称非連の総本部です。」
またもや、意味がわからなかった。