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第四部 99

 ──しっかしまあ、修羅場だわな。

 美里にはもちろん話さなかった。評議連中の引きつった顔や暗黙の了解で地獄の底まで持っていく必要のある内容という判断からだった。怖すぎる。いけ好かない南雲といろいろ因縁のある奈良岡をめぐる恋愛劇の終焉、もうこんな恐ろしい展開が待ち受けているんだったら、女子と付き合うよりもずっと、

 ──鈴蘭優ちゃん一筋で行こう。

 結局そこに行きつく。


 何はともあれ卒業式およびお楽しみ会の準備は着々と進んでいる。

 次の日も卒業式の予行練習や、ほとんど自習と化した授業の中で貴史は美里と組みつつ、


 ・卒業式後のパーティーは二クラス合同で行う。場所は三年D組。言いだしっぺが提供する。

 ・スナック菓子と飲み物程度が学校の許可した飲食物だが、場合によっては誰か手作りクッキーを用意してもらうのもいい。個人的には奈良岡印のホームメイドものを希望。

 ・ただ飲み食いするのもあれなので、何かかくし芸があってもいい。


 こずえや水口、金沢、その他もろもろに声をかけてアイデアを集めていた。金沢はまだ記念クラス画集の最終チェックが終わっていないので話を右から左に流している様子だったが、他の連中はそれなりに考えているようで、

「かくし芸かあ、だれか『かっぽれ』とか『どじょうすくい』とかやれねえかな」

「手品とかヨーヨーとかはどうだ?」

「持ち込みできる楽器使える奴いないか?」

 様々な案が出てきた。貴史もあまり気づかなかったのだが、三年D組の連中は自分で宣伝こそしないものの何気なく特技を隠し持っているらしい。フルートやギター、ハーモニカなどといった定番ものから始まって趣味のマジック、ヨーヨー使い。あまり学校の授業には役立たないし披露する機会もなかったのでだんまりしていたが、この機会にオンステージやってもらうのも悪くはないような気がする。

「ま、面子がしけてるけどな。二クラスしかいねえし。うちとB組だけ」

「いいじゃんそれで。じゃあさ羽飛、芸人さんたちに声かけておこうか? やっぱり楽器ものだと準備もいるだろうし。早めに話しとくよ」

 話のわかるこずえがすぐに胸を叩いた。

「よっしゃ。これで盛り上がるぞ! んで、司会はどうする?」

「そうだよねえ」

 隣りの美里が首をかしげた。

「そこ、考えてたんだけど、ふつうだったら私と立村くんなんだろうけど」

 すぐみな、理解したように俯く。そうなのだ。当然教室に立村の姿はない。あればこんな話できるわけがない。

「やっぱり、貴史と一緒だよね」

「しゃあねえだろ。今更どうすんだ」

「わかってるんだけどね。あの人出る気あるんだろかって」

 難しい問題ではある。今のところ立村にさりげなくこずえ経由で誘いをかけてもらってはいる。一度は貴史も「お前、来る気ねえの」と声をかけたこともある。しかし立村の態度は曖昧というよりも、否定に近い「考えておく」だった。まずこのままだと無理だろうと思う。

「じゃあ羽飛と組むってことで話、進めときなよ。それと彰子ちゃん、クッキーの準備はいかが?」

 昨日の修羅場主人公とは思えない笑顔で、ふっくらお嬢さまの奈良岡彰子はガッツポーズをしてみせた。

「もちろん! 二クラス分だったらたくさん粉と卵と、とにかくクッキーの材料必要だよね。今日帰りにまとめて用意しとくよ。こずえちゃん、美里ちゃん、手伝いに来てね」

「もっちろーん!」

 ふたりの女子が声を合わせて拳を振り上げた。


 相変わらずのやり取りのあと、貴史と美里は一緒に帰り道を急いだ。

 別にいちゃつくわけではなく細かな打ち合わせがとにかく多いのだ。

 もちろん、獅子舞もどきの練習も含まれてはいるのだが。

 ──あと三日もねえのに大丈夫かよ、まあいっか。 

 空の景色はかすかに和らいでいて、冬の風もマフラーの隙間から迫ってくる気配はない。日も少しずつ伸びてきていて道端の雪も溶けつつある。砂利道の石はころころ足に転がってくる。

「貴史、あそこ見なよ」

 美里が指を差す方向を貴史が見やると、木々に花らしきもののつぼみが見える。

「もう桜か? はええなあ」

「違うよ。たぶんあれ、梅」

「区別つかねえ」

 ピンク色の花であればすべてが梅と思い込むのも何かとは思うのだが、男子ゆえに風雅には欠けている。責めるなと言いたい。

「けど、桜もね、ソメイヨシノはまだまだ先だけど早咲きの桜は少しずつ咲いてる。うちの学校でも見かけたよ。たぶん卒業式あたり、咲くんじゃないかな」

「ソメイヨシノが咲くのってテレビでやってたが大抵五月だろ」

 青潟の春は遅い。

「そうだね。このあたりはね。でも、一本でも二本でも桜が咲いているならいいじゃない? あんたには梅でも十分かもしれないしね」

「いわゆる桃の節句ってのもあるがどうなんだよ。もうとっくの昔にひな祭り終わってるがな」

 あまり花に興味のない貴史としては、適当にうっちゃるしかない。美里は花咲きかけの幹に近づいて、じっと見上げると、

「早咲きの桜みたい。まさかこんな寒いのに桜なんて早すぎると思ったけど」

 ──わけわからねえ。

 貴史のつぶやきなど意に介さず、うっとりつぶやいた。続けて、

「立村くんには、声かけたんだよね」

 再度確認を求められた。もちろん答える。嘘ではない。

「曖昧に逃げられたからなあ。あいつ、多分その気ないだろう」

「そうだよね。わかってる」

 手を伸ばし、桜……なのかなんなのかわからない枝に美里は手をかけた。つぼみに触れはしなかった。目線をその枝に向けたまま、

「じゃあ、卒業式まで三人で話すこと、できそうにないね」

「だろな。あれだけ避けられてちゃあしゃあねえ」

 貴史の本心を美里がどこまで見抜いているのかはわからないが、

「私たちがどれだけ立村くんのこと、心配してたかってことも、きっと気づいてくれないよね。私たちのこと、もしかしたら嫌っちゃったかもしれないよね」

「いやあ、嫌いはしねえだろうけど、うざいとは思ってるだろうなあ」

 交ぜっ返すと美里はため息を付き、枝から手を話した。


 ──このままかもしれねえなあ。

 あと三日で卒業式。いくら青潟大学系列の付属校といっても、高校に進学すれば少しずつ距離も広がる。ましてや立村は英語科だ。先輩たちの話を聞く限り、英語科に限り持ち上がりとなりクラス替えで同じくなることはない。今は多少の寂しさがあるかもしれないが、自然と「中学時代の同級生」というスタンスで落ち着いていくのだろうとも思う。

 それはそれで仕方ないことなのかもしれない。

 三年間同じクラスで喜怒哀楽を経験し、時には停学すれすれの悪さもやらかしたり、殴り合いしでかしたり、いろいろあったけれど、立村にとっては貴史の思っている程の未練などないのだろう。遠くから様子を伺ってはいるけれども、立村はクラスを避けるようにしてE組に潜り込んだりしている。理由は明確で、英語答辞の練習とごまかしているけれどもできる限り同じクラスの奴らと顔を合わせたくないという意図が見え見えだ。

 こちらも無視してやればそれですむのかもしれない。しかし。

 ──せめてな、きっちり話、付ける機会あればな。


「貴史、ひとつ提案していい?」

 美里は桜の枝に背を向け、ちらと振り返りながら貴史と肩を並べた。

「なんだよ、いきなり。また妙なこと思いついたんじゃねえだろな」

「立村くんに、手紙、書かない?」

 思い切りずっこけそうになる。土が少しぬめっている。

「手紙かよ、誰がだよ」

「あんたと私」

「俺がか?」

 自慢じゃないが手紙なんてものは年賀状をいやいや書かされるだけで勘弁してほしいものだった。美里は続けた。

「このままだとたぶん、私たちと立村くんとはこれっきりになっちゃうよね。友だちでもたぶん、いられなくなると思う。クラスのお楽しみ会にも顔を出さないとなると、たぶんクラスでも浮いちゃう。もともと立村くんは女子受け悪いし、菱本先生と顔を合わせるのも嫌がってるからしょうがないよ。でもね、高校があるじゃなあい? 私たちはおんなじ高校に進学できるじゃあない?」

「まあそうだな」

「でしょでしょ? 私ね、もう、いざこざかかえたまんま卒業しちゃうの嫌なの。うやむやで終わるかもしれないし、それっきりといえばそうかもしれないけど、もうおんなじことしたくないの」

「はあ?」

 とぼけた答えをしてしまったが、「おんなじこと」にひっかかる。

「美里、卒業経験は俺の知る限り幼稚園と小学校しかねえと思うんだが、おんなじことお前してたか?」

 言葉を飲み込むようにし、美里は立ち止まった。目を伏せ、手袋をはめた指を何度も折った。空を見上げ、

「あった、後悔してることある。あんたもよっく知ってること」

「なんだそりゃ」


 周囲には誰もいなかった。声が大きくても聞かれない。聞いているのはつぼみの木々のみ。

「小学校のこと、覚えてるでしょ」

「そりゃまあ四年前のことだし。忘れたら別の意味でまじいだろ」

「ふざけないで聞いてよ。立村くんのことなんだから」

「小学校と立村とどう関係あるんだ?」

 ぽんぽんと、テンポよく美里は貴史に語りかけた。口ほど怒ってはいないようだった。

「あんた、木村と連絡とってる?」

 いきなり話が飛んだ。小学校時代同じクラスでサッカー部のエースストライカーとして大人気だった木村のことだろう。つい最近も一緒につるんでゲーセンに行った。頷いた。

「あっそか。じゃあ小学校時代の友だちがみんなどうしてるか知ってるよね」

「当たり前だろ。お前がどうだか知らんが」

「連絡なんて全然取ってないよ。あんなに仲良かった詩子ちゃんとだって、絶縁状態」

「あれま、おっとしだったかあいつの日舞の発表会行っただろが」

「あれで終わり。もう完全に私のほうから縁切ったの」

 ──やっぱりそんな面倒な展開になってたのかよ。

 気づかない振りをしてはいたのだが、やはりそうかと得心する。木村もゲーセンで、「頼むから清坂と藤野を仲直りさせてくれよなあ」と他力本願な頼みごとをしてきたので気にはなっていた。もちろんシャットアウトしたことは言うまでもない。

「そんな気はしてたがな。そこまで言うなら理由も白状しろ」

「一緒にいて、楽しく思えなくなっちゃったから。何様って感じでしょ」

「まあそうだ」

「でも、私にとってはすっごく大きいことだったんだ。小学校の頃はそりゃ、詩子ちゃん私の親友だと思ってた。あの、五年の時の、あのことが起きて、あんたに言われた通りのことして、それで私が完全に笑いものにされた時」

「美里お前意外とねちっこいと違うか」

「黙って聞いてよ。あんたのこと恨んでないから安心しな」

 さらっと美里は答えて続けた。

「詩子ちゃん、すっごく私のこと心配して寄り添ってくれたよ。クラスの女子たちに私のこと、お馬鹿さんだとか赤ちゃんだとかいろいろせせら笑われたり同情する振りして陰口叩かれたりした時だって、一緒にいてくれた。感謝しきれないよね」

 ──ああそうか。そんなことあったな。

 小学校五年の秋、美里がさまざまな事情が絡み合い教室でトイレに行きそびれてその、なにとなったことがあった。事情は貴史も始まりから終わりまですべて把握しているし、真実をクラスの連中に告白するよう促したのも自分だった。それのほうが、曖昧にごまかしているよりも美里や関係者のためによい方向に進むんじゃないかという、自分なりの判断だった。

「相当恨み真髄だとは思うんだが、俺が悪いならもっかい謝っとく。すまん」

「だから、貴史は悪くないよ。話そらさないでよ。本題ここなんだから」

 美里はわざとらしく笑った。貴史を慰めるように。

「私があそこで、しちゃった時あんたがかばってくれたからばれなかった。けどあのままだとすっきりしないから本当のことを全部話した。それは間違ってないと思う。今でもあんたが言ったことは正しいと思うし私も、立村くんみたいに過去のことを引きずらなくてもすんだし。誰かにあのことを今の段階であてこすられたりばらされたりしても、今の私なら、あなたトイレ行けなくて大ピンチになったことないのって言って反撃できるしね」

「あのなあ、もう少しデリカシーってもんを」

「あんたに言われたくないよ。とにかく、あんたがクラスのみんなに、私が教室で図工の時間中おもらししたってことを白状したことは後悔してない。ただ、あのあとのみんなの反応だけは、想像できなかったし、その件だけはとってもしんどかったってことはあるの」

 空気が冷えた。美里が同じようなことを口にした日のことを思い出す。確か去年の秋だった。評議委員長改選に伴うよしなにまつわる出来事だった。

「あんたもきっと予想できてなかったと思うししょうがないよそれって。それに貴史はそのあとも私をかばってくれたもんね。詩子ちゃんも他の女子から軽蔑された私を全力で守ってくれた。本当に大好きだったんだよ、詩子ちゃんのこと。詩子ちゃんが私と一緒に青大附中受けると言い出した時も、最初は嬉しかったんだ。けどね」

 美里は首を振った。

「青大附中の受験勉強のために塾行ったりいろんな友だちと話をしていくうちに、何かが違うって思うようになったんだ。どうしてだろうね。あんたとはそんなことなかったのに、詩子ちゃんの見ている視点と私の見ているとこが全然変わっちゃったんだ。あんなに懸命に私のこと大好きでいてくれる詩子ちゃんの世界とが違うって、思えちゃったんだよ。卒業式前にあの沢口の奴から、父母の人たちも並んでいる前で、『清坂、三時間も体育館にいるんだからトイレに行ってこい。また、五年五時間目の図工の時間みたいに椅子の下に水たまり作るぞ』とか大声で言われたりしてその時詩子ちゃんがすぐに『それ清坂さん以外の人も同じ立場ですよね。あやまってください』とか言ってかばってくれて。そんないい子なのに、どうしても離れてしまったのはなんでだろうね。私もわかんない」

 ここまで一気に言い切って、貴史を見つめた。

「これは私のことだからね、立村くんの立場とは違うと思う。けど、もしあの頃に戻れるんだったら私、詩子ちゃんときっちり話し合いをしたよ。違和感あった段階で、詩子ちゃんと一緒に私の部屋にこもって、こうこうこういうわけなんだけどどう思う?とか全部洗いざらい話したと思うんだ。詩子ちゃんも、仲良しだった小学時代だったらきっと本音でぶつかってきてくれたと思うし、お互い納得できればやり直せたと思う。卒業式までに、それ、なんでしないでなあなあにしちゃったんだろう」

「すぐ青大附中のオリエンテーション始まっちまったからなあ」

「それあるね。すぐ青大附中の友だちたくさんできたし、こずえをはじめとするたくさんの友だちと遊んでるほうが楽しかったし。だからかもね。何が違うんだろうってことがだんだんわかってきたんだ。詩子ちゃんだと話していても物足りない理由ってのが、なんとなくわかってきたんだ」

「歯ごたえか」

 思いついた言葉を貴史はぶつけてみた。美里も頷いた。

「ビンゴ! そうだよ、それそれ。小学校時代の友だちとたまに会って話をしても、やはり違うって感じちゃう。詩子ちゃんに日本舞踊の発表会で会って話しても、違うと思っちゃう。あんなに仲良しでいられた友だちなのに、環境変わっただけでこんなに離れちゃうなんて、思ってなかったんだ。今でも悲しいよそれ」

「率直な疑問なんだけどなあ、木村経由で藤野が美里と仲良くしたがってるって情報は上がってきてるぞ。あ、一応言っとくとあいつらはまだ付き合ってねえが、木村自身は藤野をなんとしても射止めるべく狙ってる」

「そうなんだ、一途だね木村くん」

 美里は笑い、貴史の隣りに寄り添い直した。

「私ね、もう詩子ちゃんと顔を合わせて語り合っても、たぶん戻れないと思うんだ。勘なんだけどね。学校が違うとかそういう問題じゃないの。もしもう一度友だちに戻ったとしても、小学校時代のように一途に親友にはなれない。なるとしたらいっぱい、本当に山盛り語り合わなくちゃいけないんじゃないかって思うし、そこまで語り合うだけのエネルギーも私にはなくなっちゃってる」

 女子の見切りの早さなのか、とも思う。貴史からしたら美里の方から藤野詩子ともう一度友だちになろうと手を伸ばせば丸く収まるんじゃないかという気がしてならない。美里もそこまでひきずっているのならさっさと握手して終わらせろとも思う。ただ、そこまでしたいという気も本当はないんじゃないか。むしろそうしなかったからこそ、後悔のかさぶただけが残りひりひりしている状態にも見える。


「昔話はこれでおしまい。貴史、ここからが私の言いたいことだから早く頭切り替えな」

 後頭部をぽこんと叩かれた。

「今のは私の失敗談。失敗は成功の父とかいうでしょ」

「なぜそういう方向に話が飛ぶ」

「今、私たちが置かれてるのって、三年前の私と同じなの。立村くんをめぐっていろいろごたごたあったけど、これから先卒業してあの頃と同じつながりを持ってられるかってこと」

 ふうっと貴史は息を着いた。確かに、そうだ。

「けどまあ同じ学校だし大丈夫じゃねえ?」

「私も最初はそう思ったよ。でも、時間が経つにつれて私たち三人の間でも、熱みたいなものがだんだん覚めてしまってなあなあになっちゃって、自然消滅になるような気、しなくない?」

「まあ、だがそれこそ自然な成り行き」

「貴史、さっき私が話したこと全然聞いてないでしょ! 私が言いたいのは、それって嬉しい? 立村くんと縁が切れてラッキーと思う? 立村くんと友だちでいられなくなって寂しくなあい?」

「まあ、面白くはないわな」

「そうだよね、貴史、あんたもそうだけど私もおんなじ。付き合う付き合わないは別として、廊下ですれ違っておしゃべりしたりたまにどこかの公園行って遊んだりとか、そういう普通の付き合いしたいよね」

 言われてみればそうだ。

「私も卒業してから改めてさしで話そうかって、あんたの案に賛成してたんだけど、たぶんそのあとからだと互いに忙しくなって流されてしまって気がつけば終わってたっていう、私と詩子ちゃんと同じパターンになりそうな気がするの。わかるよね」

「ああ、確かに」

「だからこそ、今、できることを考えたら、一番いいのは手紙かなって」

 美里がやっと結論にたどり着いた。

「立村くんは直接顔を合わせたがらないだろうし、さしでの話はまだ逃げられると思う。私も無理強いしたくないし。でも手紙だったら、向こうの都合で読んでもらえるし、それでスルーされたらそれはそれで仕方ないよ。でも、最後の最後だし想いを詰め込んだ手紙一通くらい書いたっていいじゃない? あとは立村くんがどう思うかに任せて」

「美里、お前さ」

 ひとつ、尋ねた。美里の熱い想いを冷ますつもりではなく、

「藤野にもそうしとけばよかったって思ってるんか」

 美里は答えず、三歩歩いたところで頷いた。


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