第二部 58
あたふたしている間に美里は、
「それじゃ、まず、玉城さん」
呼びかけた。玉城も状況をよく飲み込めていなかったらしく、ひたすら貴史の顔を見上げていたが、美里に無言で頷いた。
「それとみんな、少し黙ってもらえる? 水口くんもちょっとだけ我慢して」
同時にこずえが思いっきり水口の頭をはたいた。
「ほーらこっち来いって。もう最後まであんたは手を焼かせるんだからあ。彰子ちゃんちょっと手伝って」
急に笑いが湧く。空気が抜けたようだった。こずえは貴史と美里ふたりに頷いてから、
「ほら、あんたたちも一緒だよ、ひさびさのロングホームルームだからね、せっかくだから言いたいこと言おうよ。まずは順番だよ順番」
立ち上がって呼びかけた。お見事としか言いようがない。アイロンかけたみたいに教室はぴんと平たく静まった。
「ほら、怜巳ちゃん。立村のアホなことは私たちもよっくわかってるから。誰も止めないよ。菱本先生も、ここは美里と羽飛に免じてほら、あの、治外法権でいこうよ。ただ約束だけどみんな、今日この教室でしゃべったことはぜーんぶ内緒だから!」
──なんだよあいつ、あっというまかよ。
貴史が言葉を出せない間にもこずえは明るく声を響かせて続けた。
「てなわけで、あとは羽飛、よろしくね、ピース!」
「あ、ああ」
つられてピースサインを返してしまった。不覚だ。まったく。
「古川、羽飛、お前もか。。今、古川や清坂が言った通り、今この場でとことん言い合った後は水に流すことが本当にできるか? それ、守れるか? 清坂、そこまで信じられるか? それとお前ら本当に、絶対に、立村を傷つけないと約束できるか?」
貴史はじっと全員の顔を見渡した。できるのか?できるわけなさそうだ。
どう考えても男女とも無理だろう。
信用するしないの問題ではなく、自分自身が、無理だ。堪えられるわけがない。
──できねえよ、んなこと。やるのかよ、そんな立村欠席裁判みたいなことできるかよ。俺はあいつをつるし上げないって約束で玉城と話したんだろが。
玉城はじっと貴史を見上げていた。苦しそうに唇を噛んでいた。
「なあ玉城、別の方法でできねえのか? 俺もさすがにあいつのことが絡んできたら」
「わかってる。羽飛をだましちゃったよね。でも、その話をしないとどうしても本当のこと伝えられないんだ。ごめん」
小声だけど、教室中に広がる。こずえがアイロンかけた布に霧吹きかけたみたいに。
次に美里へ呼びかけた。
「清坂さんにも話したいことあるから、それも覚悟してる」
美里は目を逸らさなかった。無表情で答えた。
「貴史あんたは黙ってて。これは女子中心の話だから逃げる気ないよ。さっき言ったでしょ。全部受けるつもり。ただ何度も言うようだけどひとついだけ約束して」
一呼吸置き、さっき伝えた言葉を繰り返した。
「立村くんに今の段階では、絶対に言わないで」
──美里、まじ、本気だ。
教壇から見下ろし、美里は玉城の答えを待っていた。肩越しに覗くが、美里の顔はのっぺらぼう。紙そのものにしか見えなかった。
「わかった。言わない。絶対に」
「それならそうしましょう」
美里は事務的に答えると、再度菱本先生に向かった。貴史の肩に手を置いた。
「先生、お願いします。今、玉城さんが約束したこと、ここにいるみんなが証人です。もし破ったら、その時は私も許さないけど、そんな人じゃないでしょ。この三年D組の人たちは!」
くいと今度はクラスメイト全員を見渡した。貴史の背中をまた押し、正面に向ける。
「じゃあ、みんな、今はとにかく黙ってて。玉城さんが、立村くんに言いたいことを全部聞いていて。必要に応じて私も答えるし」
両手をばしんと教卓に置いた。たたきつけるわけではなかったが音はした。首だけ菱本先生に向けて、最後の確認をした。
「先生、いいですね」
しばらく菱本先生は黙っていた。立ち上がったまま全員の顔を追いつつ、
「本当に大丈夫なのか? お前らしようとしているのはつるし上げだぞ。立村が知ったらお前ら本当に」
言いかけた菱本先生を即、美里がさえぎった。首を一度だけ振った。
「友達として、私は立村くんを守ります。どんな結果になっても。ただ玉城さんが話したいことを片付けない限り、絶対に私たちは前に進めません。立村くんが今この場にいたら絶対に話せないことだってきっとあるはずです。先生、私たち三年D組のメンバーを信じてください、お願いします!」
圧された。完全に美里の能面パワーにやられた。
いつも泣いたり笑ったり表情のころころ変わる美里が、すべての心のゆれを封じて対している。こんなことはめったになかった。貴史の知る限り、一度も見たことがなかった。
怖い、その言葉すら甘く感じる。
──美里、お前そこまで。
もう一度教室の隅から隅までクラスメイトを眺め直してみた。そこにはみな、美里の覚悟を受け入れそうな真摯な眼差しが宿っているように見えた。男子も女子も、迫力に飲まれたのかそれとも、思考停止しているだけなのか。
席の奥、南雲に視線が止まった。
もう足を組んでいなかった。
──立村は俺の親友だ。美里だけに任せるわけにはいかねえ。
腹が据わった。貴史は菱本先生に呼びかけた。
「先生、やっぱ俺も美里と同じ考えなんだ。俺に司会任せてくれるって言ったよな。だったら絶対に俺も立村を奈落に落とすことはしないから、ここから先は俺に全部仕切らせてくれよ。もちろんやばくなったら俺が全部責任取る。あの母ちゃんにも謝りに行く。けど、やっぱり玉城をはじめ、杉浦のこととかも含めて話し合わないと美里の言う通り、先に進めないってよっくわかった。だから、頼む、頼みます!」
頭を九十度近く、がくっと下げた。
静まった後、拍手が起こった。たちたちと、席の奥から。
「菱本先生、いいんじゃないですか」
拍手しながら立ち上がったのは南雲だった。
「俺も、今回に関しては賛成です。立村がいないからこそ、何でも言いたい放題できるってのは確かにみなさんあると思いまっせ。本当に約束ができれば、ですけどね」
ここで言葉を切った。南雲は髪の毛を振り、腰に手をやりいつものきざなポーズを決めた。さすがにひゅーひゅー言う奴は女子にもいない。
「ただ、一応俺も規律委員の端くれとして言わせていただきますと」
突然表情をくそまじめに切り替えた。ネクタイを直すようなしぐさをして、
「冷静に問題点を挙げていって解決することは賛成なんですけど、その後どっかの委員会のように弾劾裁判ごっこなんてそれだけはやめてほしいわけなんですよ。それをしっかり、目の前のおふたりが仕切ってくれるんだったら、俺は今、やっていいと思います。それと、もしここでおきたことをどこかの誰かにばらしまくるような奴がもしいたら、俺はそれなりの手続きをとってもう一度ロングホームルーム要求しますんで。この件は卒業してからも有効ってことでどうですか。ありがたいことに俺、高校に進学できそうだしできればまた規律委員の座狙ってますんで、もし何かしでかした奴がいたらその時は堂々と締め上げさせていただきます。そういうことでいかかですか、先生?」
いやみたっぷりに、援護射撃。
──あの野郎!
思わず隣の美里を押しやって教卓を投げつけてやりたい衝動に駆られた。そのくらいの腕力、たぶんある。すぐに腕を押さえられた。
「あんた、くだらないことでエキサイトするんじゃないの!」
美里に制されている。全く教卓の裏というのは面倒だ。菱本先生が南雲に尋ね返しているのを聞くしかなかった。
「南雲、お前もか?」
「今言った通りです。以上」
にやりと笑い返した南雲を見ながら菱本先生は大きくため息を吐いた。
「そうか、お前ら本当に覚悟あるのか。人をずたずたにするかもしれないんだぞ」
「さっきの拍手が答えだと、俺は思ってます。な、そうだろ、みなさん」
手を打って南雲が煽る。ふたたび拍手が沸いた。広げた布を何度も波打たせたような穏やかな響きだった。
「わかった。お前たちを信じる。三年D組を信じる」
菱本先生は静かに告げ、脱力したかのようにパイプ椅子に座り直した。
「じゃあ、準備OKね。玉城さんよろしく」
「玉城、ほら」
存在感なしなのもむかつく。一声だけでも入れる。玉城は美里をちらと見て、すぐ貴史に力強く頷いた。小声で、
「羽飛、約束破ってごめん」
謝ったあと、語りを開始した。
「加奈子ちゃんが男子たちに無視っぽいことされているって気づいた時、そういえばって思ったのが立村のことなんだ。そういえば立村は一年の三学期あたりに加奈子ちゃんを妙に追いかけまわしているって噂あって。私もこういったらなんだけど、なんとなくそんな感じあるかなとは思ってた。もちろんそんな人のことなんてどうだっていいし、人の好みっていろいろあるってわかってたけど、でも加奈子ちゃんがすっかり落ち込んでしまうくらい追っかけるってなんか違うよね? 私もだけど、他の子たちも、他のクラスの子たちもなんとなくその雰囲気感じてたの」
「だからあれはガセだと」
くちばし挟もうとする男子のひとりを手で制し、美里が続けさせた。礼ひとつ言わない玉城。夢中なのだろう。
「加奈子ちゃん、最初は何も言わなかった。ほんとにひとりで黙ってた。加奈子ちゃんからは何にも言わなかったんだよ。それでいろいろ調べてたら、他のクラスの子たちから、立村が一年の秋くらいに加奈子ちゃんのことをつけまわしていて、いろいろとちょっかい出しているって話がごろごろ出てきたんだ。私、ほんとびっくりしたよ。あのいるかいないかわからないような立村がなぜ、加奈子ちゃんのいるところに遠くから追っかけていくなんてって。知らないかもしれないけど」
──止められねえんだよなあこれが。
貴史からしたらそのことがすべて大嘘だと承知している。ただ玉城の憤りも事実なのだから止められない。
「はっきり言っちゃうけど、あんなことされたらふつうの女子はみんな怖がると思う。私も、そんなこと絶対されないってわかってても、追っかけられたら怖いもん。けどクラスメイトだし、三年間変わらないし、絶対そんなこと言えないよね? 相談できないよね? しかも相手は評議委員なんだよ? 普通悩むよね?」
「何度も言うけどありゃ嘘だろ」
またしつこく口を挟む奴がいる。誰かと思ったら東堂だった。南雲に今度は制されている。
「そうだよね、男子みんな立村の味方だもんね。男子ってそうだよね! 私、なんで立村があんなに男子たちから人望あるんだろってすっごく不思議だったんだ。あとで殴ってもいいよ。けど本当なんだよ。女子からしたら変だよ。絶対におかしいよ。ふつう女子の嫌がることをして、嫌われたらそれであきらめるよね? あきらめないでなんで何ヶ月も加奈子ちゃんを苦しめたんだろうって。そんな奴がなぜクラスの評議委員で、それだけじゃなくって評議委員長なんだろうって。私、どうしてもわからなかったんだ」
そこまで一気に言い切った後、玉城は目をぬぐった。
「私、男子たちから顰蹙買ってること承知してたけど、調べれば調べるほど立村がなんでかばわれているのかわからなくていらいらしてたんだ。気がついたら加奈子ちゃんが傷ついたことなんて忘れられたかのように立村は評議委員長に指名されてるし、いつのまにか加奈子ちゃんは男子たちに無視されてるし。なんでなのこれって、ふつうだったら言いたくなるよね? 私、間違ったこと言ってる? 私って変?」
「だから何度も言うけど、誤解もいいとこなの」
三度目の正直、貴史も入った。
「東堂、黙れよ、さっき俺が言ったこと聞いてねえのかよ。しゃべらせろって」
不承不承東堂は黙った。恐らく貴史よりも後ろで肩をもみもみしてきた南雲の言うことを聞いたのだろう。玉城も貴史に頷き小さく礼をし、さらに続けた。
「もちろん男子たちが正しい情報もらってないからだってことは頭でわかってる。けど、加奈子ちゃんがいじめられていいってことには絶対ならないよ。ううん、いじめられてないのかもしれないけど、加奈子ちゃんが男子たちにさらっと無視されてることを認めていいってことには絶対にならないよ。加奈子ちゃん、今まで私たちにそんなこと一言も言わなかったし、今だってきっとびっくりしてるよね? 私たちが変なこと言い出したって思ってるよね? でも、ここできっちりと加奈子ちゃんがいじめられてきたんだってことはっきり認めないと、さっき清坂さんたちが言ってた通り、私たち、先に進めないよね?」
みな、静まった。物音ひとつなし。
玉城は美里に呼びかけた。
「清坂さんに聞きたいの。なんで清坂さん、立村をあんなにかばってるの? 私、ずっと気になってたんだけど、どうして加奈子ちゃんにあんな冷たい態度取るの? それも私聞きたかったんだ。なんで、男子たちの流したデマを信じて加奈子ちゃんを無視したの? 私、女子の中で清坂さんだけがなんで加奈子ちゃんを嫌うのかわからなかったんだ。いじめてはなかったけど、でも、その態度」
額を両手でオールバックにするようにして、また顔を上げた。
「男子たちと同じに見えて、どうしてもやだったんだ。その理由、聞かせてほしいんだ」
隣で美里が息を呑むのを感じた。貴史のブレザー裾にその手が触れている。玉城が畳み掛ける。
「わかっていていじめたの、それとも、勘違いしていじめたの、どっちなの?」
「いじめてなんかないけど、そう思われたのだったら、そうかもしれない」
美里はそれだけまず答えた。納得したのか玉城の言葉はよどみなく続けられた。
「みんなも気づいていたかもしれないけど、清坂さんと加奈子ちゃん、仲良くなかったよね? 男子たちは知らない人がいたかもしれないけど、女子たちの間では有名だったもん。加奈子ちゃんはそのこと、何も言わなかったけど、清坂さんの態度、あまりもひどかったと私、思ってた。清坂さん、加奈子ちゃんと最初仲良かったのに突然冷たくなったのがなんでだか最初わからなかったんだけど、よくよく調べてみると立村が加奈子ちゃんのことを追いかけ始めた時期とちょうど重なってるんだよ。それにあと、ここのみんな知ってることだから言っちゃうけど、六月ってそういえば」
また美里を涙ぐんだ目で見据えた。
「清坂さん、その頃からだよね、立村と付き合い始めたの。タイミングぴったり合ってるんだよ。加奈子ちゃんがいじめられるようになったのも、ちょうどこのあたりからだよ。私覚えてるもん。立村が清坂さんと付き合ってるって、教室で宣言したの見てたよ」
誰も声を挙げない。しっかり玉城に言い含められているのか、展開が速すぎてわけがわからないだけなのか。貴史にはまだ判断しかねた。はっきりしているのは、玉城の言動が完全に杉浦かわいさあまりの勘違いからきているということと、友を想う気持ちだけは間違っていても本物だという二点のみだった。
──話をひっくり返すことは余裕でできそうだよな。こりゃ。
貴史なりに考えてはいた。玉城には本当にかわいそうだと思うがしかたない、ここは貴史の知る限り立村の濡れ衣を晴らしてやるしかないしそれであっさり片付きそうな気がした。玉城の言う通り、立村が杉浦に誤解を招くような行動をしてしまったのは事実だ。ただ目的が色恋沙汰ではないことは明白。他の男子たちが杉浦の嘘情報にかちんと来てそれ以来慇懃無礼な態度を取るようになったのはむしろ当然とも思える。杉浦加奈子の自業自得だ。ただ、やりすぎでいじめのように思われてしまったのだったら、それは謝る必要があるだろう。貴史だけではなく、美里も含めてだが。
──けどなあ。立村の過去をここでばらしてもいいもんか? 迷うよな。
この辺は時間があれば美里と打ち合わせたかった。しかし教壇の上ではたとえ隣り合っていてもほとんど意思の疎通が図れない。近すぎて遠くなるのが教壇。複雑だ。
──もし、品山の番長との対決を俺がばらしたらたぶんあいつ、俺を一生許さねえだろうな。杉浦との一件を片付けるんだったらしゃべらねえとまずいだろうし、けどそんなことしたら藪へびになっちまうかもしれないしなあ。どうする、美里。
ある程度、生徒会がらみの大騒ぎで明るみにはされている立村の過去だが、クラスの連中が全員その事実を耳にしているとは思えない。小学時代大喧嘩して怪我させてそれからどうしたこうした程度であれば、もうみな承知していることだ。ただ立村がその後で、過去を隠したいあまり貴史に「裏・班ノート」なる物を作ってクラスの連中をだまそうとしていたとか、それを見抜いた杉浦が立村を脅迫したとか、その理由が杉浦の彼氏だったとか、ややこしい人間関係までばらして果たしていいんだろうか?
抱えている事情が三年間で膨れ上がりすぎて、もう手に負えない。
玉城も美里に矛先を向けているけれども、このままだとまずは「男子連中が立村の杉浦宛横恋慕を見るに見かねてかばい、美里とくっつけようと応援し、敵役となった杉浦を無視するよう仕掛けた」という話に落ち着いてしまいそうだ。ある程度は正しいのだが根本的に間違っている。消しゴムでごしごしやりたいがどう持っていこう?
──ま、杉浦を無視したまま卒業させたくねえっていう菱本さんの気持ちもわからねえわけじゃねえけど、この流れだと喧嘩両成敗もむずかしいんじゃあねえ? どう考えたって悪いのは杉浦だろ?
杉浦が机につっぷしたまま泣きじゃくるのがかすかに聞こえてきた。
女子をいじめるのは貴史の流儀じゃないが、しょうがない。
「玉城、言いたいこと、とりあえずこれだけか」
できるだけ静かに話しかけ、頷くのを待った。
「話整理すると、俺たち男子連中プラス美里が、杉浦を誤解して無視こいてしまったってことを言いたいんだろ? その原因が、立村の杉浦に対する横恋慕で、見かねた俺たちがあいつをかばって、そのとばっちりでってお前、思ってるんだろ?」
玉城はしゃがみこみ、両手で顔を覆い泣きじゃくった。想像してない展開だった。
「……そうだよ」
「わかったわかった、お前よくがんばった、もういい、席着けよ」
貴史が壇上から降りて同じ高さにしゃがみこみ声をかけると、覆いかぶさるように菱本先生が近づいてきた。さすが担任、割り込むタイミングは絶妙だ。
「そうだ、玉城、言いたいこと言ってすっきりしただろ。ここから先はお前も話を聞く番だぞ。もちろん文句あるならちゃんと時間は用意するから、まずは席にもどれ」
奈良岡彰子が駆け寄ってきて「怜巳ちゃん、ほら、座ろうね」と背中をさすりながら席まで連れていった。三年連続保健委員の仕事完璧だ。この意味なきチームワーク。玉城が席について再びしゃくりあげるのを美里がひとり、壇上で静かに見据えていた。まだ玉城の激しい問いに答えてはいなかった。まだ涙で溶ける気配もなかった。
──美里? どう答えるつもりなんだあいつ。
教壇から降りたまま貴史は美里の立ち姿をまじまじと見つめた。
「私が一年の秋から杉浦さん……加奈子ちゃんを無視したのはほんとうです。その点は謝ります」
美里の口から発せられたのは貴史の予想していない言葉だった。
「今から、その理由をすべて話します。その後で言いたいことあったら、全部ぶつけてください。ただ、何度も言うようですけど」
氷のまま美里は言い放った。
「これから話すことは、他のクラスの人にも、それから、立村くんにも永遠に言わないでください。その時は、私もしかるべき方法でちゃんと対決しますから」