春
春、いつもと変わらない春。
僕はいつもと変わらない帰り道を歩いている。
僕の人生は退屈だ。
風が吹く度に満開に咲く桜の花びらがヒラヒラと舞う。
まるで踊りを踊るかのように。
そして地面に落ちる。
その花びらを踏みながら歩く。
歩く、歩く、歩く。
そして家に着く。
これの繰り返し。
僕の心の穴を空きっぱなしになっている。
いつか埋まるかもしれない。
もう埋まらないかもしれない。
そんな事は僕には分からない。
学校は嫌いでも好きでもない。
勉強をすることは嫌いではない。
むしろ好きな方かもしれない。
しかし、友達というものは好きではない。
もちろん友達はいない。
しかし、小学生の時はいた。
1人、たった1人の理解者。
その友達もいなくなった。
その時辺りからか、僕の心は空っぽになった。
世界が全て同じに見えた。
春、夏、秋、冬、変わるのは風景。
ただそれだけ。
でも、その風景を美しいと思わない。
ただその日は違った。
急に夜桜が見に行きたくなった。
見に行っても何も感じないのに、それでも見に行きたかった。
午後12時頃、近くの公園に着く。
流石に花見をしている人はいなかった。
近くにあった自動販売機で缶コーヒーを買う。
僕はベンチに腰掛け、夜桜を眺める。
片手に持った、缶コーヒーを飲みながら眺める。
普通の人が見たら綺麗と思うかもしれない。
しかし、僕には全く綺麗とも汚いとも感じない。
そこに桜があり、月明かりに照らされているという証明にしかならない。
僕が満足し帰ろうとした時、公園の端に女の子がいるのに気づいた。
歳は自分と同じくらい、髪はショートカットだった。
その情報しかない。
僕が見ているのに気づいたのかこちらを見て、ニコッと笑う。
その瞬間時が止まった感覚になる。
初めての感覚だった。
いや、正確には2度目かもしれない。
ブワーッと少し強めの風が吹く。
僕は瞬きをする。
その時自分が瞬きすら忘れていたのに気づく。
僕はまた少女の方を見る。
しかしそこには少女の姿はなく、桜がヒラヒラと舞っているだけだった。
僕は家に帰る。
いきと同じ道をひたすら歩く。
歩く、歩く、歩く。
そして止まる。
ふと空を見上げると星が広がっていた。
さっきの公園では気づけなかった景色。
あの少女が僕に気づかせてくれた景色。
おとめ座。
その時初めて景色を美しいと思った。
それと同時に、あのおとめ座の様に美しい少女が頭に浮かぶ。
僕は決してあの少女を忘れないだろう。
春、僕が少女と出会った春。




