栞さんとの"最後"のデート(2)
チケット売り場につくと、ちょうど窓口からチケットを買ってきたであろう神崎が、こちらの方へと歩いてきた。
「前沢さん、どうぞ♪」
「あ……ありがとう」
入園チケットを手渡してきた神崎は、先程までの様子が嘘かのように元気で。
俺はその顔を直視できなかった。
「わあ、すっごい懐かしいですね!」
神崎が嬉しそうな声を出す。
周りを見ると、10年ほど前の色あせた記憶に、色塗りがされていくかのような奇妙な感覚を覚えさせる、懐かしい景色が広がっていた。
「でも、見たことないのも何個かあるな」
前回来た時になかったであろうアトラクションや、新しくなったアトラクションなどを見ながら、考えていたことに付け足すように、ポツリと声に出す。
「本当ですね。…あんなのとかも昔は無かったですもんね」
神崎の指差す方向には、『高さ50メートル越え!!』と書かれている回転ブランコがそびえ立っていた。
「本当だ、高いなぁ…」
「あ、あっちとかにも見たことないのがありますよ!」
神崎がまた別の方向を指差している。
そんな神崎を見ていたら、何故か先程の、今にも泣いてしまいそうな神崎の顔を思い出す。
神崎は、これ以上ないぐらいに優しい人だ。ほとんど何もしていないのにお礼だなんだと言ってお返しをしてくれ、俺なんかとデートしている時にも気を遣って話題を作ってくれたりする。
それほどまでに優しい。
だが、優しさは時に空回り、刺にも毒にもなりうるのだ。
「どうしたんですか?」
深く、それでいてどうでもいい思考に潜っていた俺の意識が、神崎の声で引っ張られるように戻ってくる。
「いや、別になんでも……そろそろ何か乗るか?」
せっかく遊園地に来たのだ。アトラクションに乗らなくては損というものだろう。
「そうですね。…何か乗りたいものはありますか?」
神崎が聞いてくる。特に乗りたいものなどないのだが……。
「新しくできたみたいだし、あれとかどうだ?」
俺は先程見ていた回転ブランコを指差し、そう提案をした。だが、神崎の反応は、想像とは全く違ったものだった。
「あ…あれですか……。ち、挑戦してみましょうか……」
神崎にしては歯切れの悪い、そんな返事が返ってきた。
その返事を聞いた時、俺はあることを思い出した。
「あー……そういえば絶叫系に乗れないんだったな……」
いつもの冷静な……最近はそのイメージがあるかすら危ういが、少なくともなんでもできる神崎にしては、意外で珍しい弱点?だろう。
「どうする?あっちのメリーゴーランド乗るか?」
このままだと我慢してまで嫌なものに乗りそうだったので、違うアトラクションを提案してみる。
「だ、大丈夫です。元々、絶叫系に挑戦する予定でしたし」
「無理はしちゃだめだぞ」
「無理じゃないですよ!最悪、目を閉じて素数でも数えますから」
そうまでして絶叫系に乗る必要はあるのか……?
まあ、本人がこれだけ言っているのなら大丈夫だろう。
「じゃあ乗ってみるか。乗り物チケット売り場は……」
「大丈夫です、フリーパスです」
「えっ…」
後で絶対にお金は返そう。
そう決めた俺は回転ブランコの方向へと足を向け、スキップのような足取りで向かう神崎を、追いかけるように歩いた。
「や、やっぱり怖いですね……」
俺の隣に座った神崎が、不安の声を上げる。
「大丈夫か?無理そうなら一緒に降りるか?」
「いえ、大丈夫です!ここまで来たんです、これくらいの苦手、克服して見せます!」
妙に意気込んだ返事をしてくれる。
本人が大丈夫ならいいんだろうが……本当に大丈夫なのか?これ。
「わっ!?」
そんなことを考えていると、座席の高度が上昇し始め、それと同時に神崎から驚きの声が上がる。
先程までの威勢は何処へやら、みるみると顔から元気がなくなり、手はがっしりと横のチェーンを握っている。
「怖いです怖いです怖いです……」
神崎は小動物のように縮こまりながら、呪詛のように同じ言葉を繰り返す。
だからやめておいたら良かったのに。なんてのは、今更言っても仕方がないことだ。
だから俺は、かわりに神崎にこう話しかける。
「回転ブランコは上っている時にスリルを感じるんじゃなくて……」
『回転している間にスリルを感じるんだぞ』と、そう言い切る前に回転ブランコが回り始める。
その瞬間に俺の見た景色は、目を丸くさせて驚くような神崎の顔と……
「わあぁああぁああぁぁ〜!!」
という、可愛らしい叫び声だった。
お久しぶりです。
……なんてもんじゃないよね、いつぶりだよ!って話ですよ。
モチベーションのベクトルが小説を書く方向ではなく読む方向へ傾いていたのもあり、正直エタエタのエタでした。もうモチベーションは湧かないかも、なんて思ってました。
でも、急にモチベーションが湧いたので書いてみました。
何故モチベーションが湧いたかって?
無職転生アニメ化??? 違う。
リゼロアニメ2期??? 違う。
絆され書籍化??? Yes!!!
ということですね、はい。
最近はほとんどなろうにログインしてなかったので、また小説を漁ろうかなー。と思います。