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ゆめみる少年と前を向く少女  作者: 遅めの果物
クラスメイトと夏休み!
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栞さんとの"最後"のデート

「お久しぶりです。前沢さん」


 そんな、妙に懐かしいような声が聞こえてきたのは、夏休み最後の、木曜日のことであった。


「お久しぶりです。神崎……さん」


 何故だか、ぎこちない返事をしてしまう。

 神崎と会うのが久しぶりだからだろうか?それとも、神崎が前沢()()と呼んできたからだろうか?

 理由ははっきりとしないが、お互いの距離感が掴めていないような気がする。


「それでは、いきましょうか」


 今日は木曜日、恒例のデートの日だ。

 前回のデートから一週間しか経っていないのに、妙に久しく感じる。

 デート自体は久しいと感じたのだが、神崎とのやり取りは懐かしくとも感じた。

 そして、いつものデートよりも、少しばかり憂鬱であった。


「ああ」


 俺はそんな淡白な返事をすると、少し落ち着いてきた夏の暑さに対して、少し大げさに襟元をバタつかせてみせた。

 その動作により神崎から、鼻腔を蕩かす、柑橘系のさっぱりとした香りが漂ってきた。

 気持ちの良い香りながらもすぐに消えてしまったそれは、どこか寂しい香りにも思えた。




「ここに来ると、すごく懐かしい気持ちになりますね」


 俺たちは最後のデートということで、前にも来たことのある遊園地に向かって、駅から歩いているところだ。

 前に来た時はお互いの親もいたのだが、幼稚園に通っている頃のことだったので当たり前だろう。

 だからだろうか、久しぶりの遊園地はひどく懐かしく、そして、とても新鮮でもあった。


「懐かしいな、あの頃はジェットコースターにも乗れなかったから観覧車で家を探したりしてたな」

「メリーゴーランドにも乗りましたね。……ほんと、懐かしいです」


 そう言って神崎は、感慨に浸っているような吐息を吐き出した。

 それは、懐旧だけによるものではなく、後悔の念も含まれているような、そんな吐息であった。

 何か悔やんでいることがあるのか、それとも、他の何かが気にかかっているのかは分からない。だが、何か言葉を返しておいた方が良いと、何故だかそう思った。


「まあ、今度はジェットコースターにも乗れるし、前みたいなはしゃぎ方はもうできないが、いろんな乗り物に乗ってみれば良いんじゃないか?」


 俺がそう言うと神崎は、はっとしたような顔をして口を開いた。

 

「そうですね、そうしましょうか。……昔に戻ることは、もう、出来ないですしね」


 歩いている二人に、向かい風が吹いた。

 八月も終わろうとしているが、まだまだ風には熱気が含まれており、風が吹いたあとは辺りにむわっとした、居心地の悪い空気が残った。

 神崎が言ったことは俺とさして変わらないはずなのだが、その言葉にはどこか重みが乗っているような気がした。

 先程と同様に返事をしようとしたが、今度は言葉を紡ぐことは出来なかった。

 妙に空いてしまった間をどうにか埋めるため、手に持っていた缶のジュースをちびちびと煽る。

 無言で歩いていると、遊園地の入り口が見えてきた。

 いつの間にかジュースは残り僅かになっており、それほどの距離を歩いたわけでもないのに、少しの疲労感が襲ってきた。

 缶の残りをぐっと飲み干して疲労感を内にしまい、少し缶を持つ手に力を入れた。


「あ、見えてきましたよ」


 先程までの気まずい空気とは一変、神崎が楽しそうな声色でそう言った。


「ほんとだな。じゃ、チケット買ってくるから」

「駄目です」


 俺が財布を出そうとすると、神崎が、俺の手元に手を伸ばしきっぱりと言い切る。

 いつものような遠慮がちな声ではなく、冷たい、拒絶の声であった。

 俺が何かを言う前に、いや、俺に何かを言わせる隙を作るまいと、神崎が言葉を繋げる。


「……駄目、なんです……!お礼をしなくちゃ、いけないのに……。お詫びをしなくちゃ、いけないのに……!」


 そう言う神崎の顔は俯いていて、見えなかった。

 だが、泣いているような、そんな気がした。

 覚悟を決めたような強い言い方で、でも、か細く、今にも消えてしまいそうな声だった。

 まるで、迷子が親を探しているような、そんな声だった。

 俺はそれに対して、何も言うことができなかった。

 自然と缶を持つ手に力が入り、財布を出そうとしていた手はくたびれたようにだらっとし、動かすことさえできなかった。

 そうこうしているうちに神崎が顔を上げた。

 神崎の目は少し潤んでおり、俺にその事を悟らさない為か顔には強がりの笑顔が張り付けられている。

 そんな神崎を見ていると、俺も胸が苦しくなってきた。

 俺の目にも涙が溜まりかけているが、俺まで泣いてしまったら収集がつかなくなる事は目に見えている。

 だから、俺は表情では平静を装った。

 恐らく、今喋ったら声が震えるだろう。

 でも、何か言わないと、何も進まない。

 でも、何も出てこない。

 自分の不甲斐なさに苛ついて手に力が篭る。

 冷たかった缶もいつの間にか体温で温くなっており、少し手に汗が滲んできた。


「……何か、あったのか?」


 震える声で、言葉を振り絞った。


「いえ、何も。ただ、お礼をしたかっただけなんです」


 冷静さを取り戻したのか、普段の声と変わらない調子で神崎がそう言った。

 そこには、確かな拒絶が含まれていた。

 神崎は、そのまま無言でチケット売り場へと歩いて行った。

 俺はその後を追った。

 何かを語りかけるでもなく、走って追いかけるでもなく、ただ潤んだ視界で神崎の背を見つめながら、とぼとぼとした足取りで、歩いていた。

投稿するの遅れました…すいません。ここ書きたかったところだけど難しい……


なんか僕の知ってる作品と違うような文章になっちゃいました。何故でしょうか?

よければ、今の文章か前の文章かどっちが好きか感想やTwitterにて教えてください。参考にさせていただきます。

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