前沢家+栞さん!?
「ただいま、母さん」
俺は家に着くと同時に、疲れた声でそう言った。
「おかえり」
「たっだいまー!」
「美咲もおかえり。楽しかった?」
「楽しかったよ!にぃが服も買ってくれたし、アイスも買ってくれたし!」
「それは良かったわね。で、大輝は?」
「とにかく疲れた……休みたい……」
結局、美咲が抱きついて来ようとするのをやめなかったので、それを押さえたり引き剥がしたりしていると、ほとんど体を動かしていない俺の体力と疲労に限界が来ていた。
「あら、そう……で、詳しくデートのお話聞かせてくれる?」
「あ、あぁ…美咲とショッピングモールまで行ってきて、連れまわされてたんだ。それで……」
「あら?そっちじゃないわよ。私が聞きたいのは、初デートの方よ」
俺の顔が固まる。美咲に挑発されてついつい言ってしまったが、神崎とデートに行ったことは秘密にしなくては。
「い、いや…それは…」
「あれ?行ったんじゃないの?もしかして、行ってなかった?」
「いや、行ったことには行ったんだが……」
「じゃあ言ってくれてもいいじゃない」
何を言い返そうか考えていると、そこから母さんの追い討ちが入った。
「もしかしてだけど、美咲にご褒美あげて、お母さんにはご褒美なしなんて、そんなことはないわよね?」
「い、いや…それは……」
「じゃあ、初デートのお話、聞かせてねっ♩」
母さんの有無を言わさぬ気迫に飲まれ、名前は出さずにデートの全貌を明かした。すると……
「あははははっ、初デートでお姫様抱っこって、ほんとに大輝は何やってるの。あははははっ!」
と、腹を抱えて笑いだした。
……たしかに、文や言葉にしてみれば酷いものだと思う。彼女でもない女性とデートして、帰りはお姫様抱っこで帰った。なんて、どんなデートだよっ!ってなるのが当然だ。ただ、それにしても……
「母さん笑いすぎだろっ!?不可抗力だったんだってば!」
「あはは、それにしても、お姫様抱っこって……お母さんでもされたことないのに、あははははっ!」
こうなった母さんは俺には止められない。
(誰か、助けてくれっ……!)
と、願うと、俺の願いが届いたのか、ガチャリ、と家の鍵が開く音がする。
「ただいまー、お母さん、いるかー?」
「あはははは……って、あら。お父さんが帰ってきたみたい。もうちょっとからかってたかったんだけど、今日はもうやめておきましょうか」
やっぱりからかってたのかよ!と、心の中でツッコミを入れておく。
「父さん、おかえり」
「ただいまー……って大輝!?帰ってきてたのか!?」
「うん。ってか、母さんから聞いてないの?」
「いや……俺は何も聞いてないが……」
俺と父さんが、二人して母さんの方を向く。
「いやー、黙っておいた方が面白いかなー……って」
「いや、確かに驚いたが、言っておいてくれよ……言ってあいてくれたら何か買って帰ってきたのに」
父さんが「はぁ…」と、ため息を漏らす。
「まぁ、大輝が帰ってきたんだったら落ち込んでばかりじゃいられないなっ!お母さん、今日は奮発しようか!」
「分かってますよ。もう作ってあります。それじゃ、少し待っていてね」
と、母さんが言葉を残し、家から出て行った。
「……え?何しに行ったんだ?飯は作ってあるって言ってたじゃん」
と、俺の口をついて出た疑問に、
「……さあ?何しに行ったんだろうな」
父さんが同調する。が、そんな疑問もつかの間、もう一度家のドアが開く音がする。
「みんなー、来たわよー!」
そう元気よく言葉を放つ母。その後ろから、母のものではない声が聞こえてくる。
「……お邪魔します……」
な、なんで…ここに来てんだよ……
「おや、栞ちゃんじゃあないか!どうぞどうぞ、座って!」
と、父が言う通り、そこには神崎がいた。
「な、なんで神崎がここに来てんの……?そっちの家族は……?」
「いえ、もともと今日は家に家族がいないのは分かっていたので……そもそも、大輝さんのお母さんに誘われたので、帰ってきたんですよね……」
なるほど。全て合点がいった。神崎と俺が同じ日に帰ることになった理由も、神崎がここにいる理由も。……電車から降りた時、あれほどからかってきた理由も。……それに対し俺は。
「全て母さんの目論見通りってかあぁ!?ふっざけんな何自分の息子おもちゃにして遊んでんだぁ!!挙げ句の果てには神崎を巻き込んでまで俺をおちょくりたいかぁ!?」
……と、今までのために溜め込んでいたもの共々、母さんに不満をぶちまけていたのだった。
はい。大輝くんは実家だといつもこんなテンションでみんなにいじられていたようです。そりゃあ一人暮らしもしたくなりますよね……と。
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