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ゆめみる少年と前を向く少女  作者: 遅めの果物
高校生活スタート!
3/36

栞さんの家の中!?

(やばい…緊張する…)


 やはりというべきか、何というべきか。女子の…しかも美少女の家に上がることなど想像すらしていなかった俺は、緊張をほぐすことなどできるはずもなく、神崎の家の前で体をもじもじとさせていた。


(周りから見たら不審者なんだろうな…)


 こんなことを考えられるだけマシだと思うが、やはり緊張からインターホンを押す勇気がなかなか湧いてこない。


(でも待たせたりするのも悪いし…)


 そんな俺の心の中での葛藤は、あっさりと膜を閉じることになる。


「どうぞ、上がって下さい」

「ひ、ひゃい!」


 俺が来たことが分かったのか、神崎がドアを開けて声をかけてきた。予想していなかった展開に、俺は情けのない声で返事をした。


(やばい…可愛い…)


 今気づいたことだが、俺を出迎えに来た神崎はエプロンを着けていた。エプロンを着て、髪を後ろで括っている神崎は、いつものクールな印象は消えて、可愛らしく、家庭感のある女子へと変わっていた。


「お…お邪魔…します」


 俺は緊張してカチカチの体で靴を端に揃え、神崎の家に上がった。


「じゃあ、ご飯を作ってきますので、そこに座って待っていてくださいね」


(なあなあで家に入ったのはいいものの、どうしよう)


 …俺は、神崎の家の中でそんなことに迷わされていた。

 部屋中甘い匂いはするし、可愛らしいうさぎのぬいぐるみは置かれてるし、年頃の女の子って感じの部屋だし、どこに目を向けても、心臓が跳ねるのが伝わってくる。緊張と羞恥でしんでしまいそうになる。

 ふと、壁に掛けられているコルクボードに目を向けると、いっぱいの写真が貼られていた。


「神崎も、女子なんだなあ…」


 なんて感慨に浸ったのも束の間。


「でも、意外とプリクラとかはないんだな」


 意外と子供の頃の写真が多いな。ほら、あれ…と…か?

 って、あれ俺じゃね!?てか、子供の頃の写真のほとんどに俺が写ってるし…

 そこから目を背けるように違う方向をみると、そこには昔俺があげた手紙が―――

 なんでこんなのあるんだよ!顔が熱を持つのを感じる。だめだ…羞恥でしにそうです。助けてください。早く戻ってきて下さい、神崎―――




「前沢さん、ご飯できましたよ…って大丈夫ですか!?」


 恥ずかしさでオーバーヒートした俺をみて、神崎が言う。


「ぇ…あぁ…だいじょぶです…ちょっと、しにかけてただけなんで…」


 その問いに羞恥で疲弊しきった俺がそう答える。


「だ、大丈夫じゃないじゃないですか!?」

「い、いや、ほんとにだいじょぶなんで…ほんとに…」

「それならいいんですけど…」

「元気いっぱいなんで、気にしてやらないでください」

「…それじゃあ、ご飯運んできますね」


 少し納得のいかないような顔をした神崎が、そう言って、台所に足を運んで行った。よかった…ご飯が来たらまだ気を紛らわせられる…


「はい、どうぞ。お味噌汁と、白ご飯と、ほうれん草のお浸しに焼き魚です」


 と、神崎が料理を運んでくる。本当は運ぶのぐらいしたかったのだが、緊張と恥ずかしさから声が出なかった。


(でも…)


「すごいな、全部俺の好みだ…」

「はい、昔教えてくれた好物、覚えていますので」


 ………しばらくの沈黙で、自分の顔がカァッと赤く染まり、熱を持つのを感じる。


「ゃめて…ください、ほんと…しんじゃうんで…」

「?何か言いましたか?」

「いや…なんでも…ないです」

「それではさっそくですが、冷めちゃいますので、食べましょうか」

「そ…そう…ですね…」

「「いただきます」」


 二人で声を揃えてから、箸を持つ。緊張するな…。神崎はなんでもできると聞いていたので味が不安なわけではないが、同年代の女子と二人きりでご飯を食べるというロマン。コミュ障かつ女子耐性の低い俺が緊張しないわけがないのだ。…まあ、味が気にならないといえば嘘になるが。


「…うまい」

「よかったです」


 結論から言うと、ものすごく美味しかった。俺みたいに調味料で味を濃くしたりするわけではなく、素材の味を活かした和食の良さが存分に発揮されている。これほど美味しく、家庭感のある料理を食べたのは初めてだ。そこから俺は、緊張なんて忘れて、無言でご飯を口に掻き込んだ。




「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

「すっごく美味しかったです…ありがとうございます」

「い、いえ、こちらこそ…そもそも、私がお礼をしたくて家に招いたわけですし…」


 神崎はそう言い、嬉しそうにご飯一粒も残っていないお茶碗を眺めていた。


「こんな最後までキレイに食べてもらえたら、やる気が出ますね」

「美味しいものは一つでも残したら勿体ないですから」

「うぅ…そ…それじゃあ改めまして、鍵を拾ってくださってありがとうございました。かわりになるかは分かりませんが、ご飯を腕いっぱい振舞わせてもらいました。喜んでもらえたようで良かったです」

「い、いや、こちらこそ、ご飯ありがとう。鍵を拾ったのは偶然なのに、こんな美味しいものを食べさせてもらっちゃって…」

「その偶然がありがたかったんですよ、それに、拾ったのが前沢さんじゃなかったら何をされていたかわかったもんじゃありませんし。届けてくれてるっていうだけでも嬉しいんですよ。ご飯だけじゃ釣り合いが取れないぐらい重要なことなんです。あ、良かったら今日泊まっていきますか?明日の朝ごはんも振る舞えますし」


(………え?)


 な、なんてことを言いだすんだ…。自分の顔がオーバーヒートしそうなくらいに熱くなっていく。普通、男なんてそう簡単に家に入れないのに、泊まっていきますか?なんて…俺のメンタルが持ちません…だめです…


「い…いえ…結構…です。ご飯だけで充分ありがたかったんで…そ、それに、そんなことしたら俺の色々な部分がしんじゃいますし…」


 主に心臓とか、羞恥心とか、メンタルとか。


「そ、そうですか…では、このお礼はまたの機会にと言うことで」

「は…はい…もうそれでいいです…」


 本当はこれだけで貰いすぎなぐらいお礼はしてもらっているのだが、神崎はそのことに気付いていないらしい。さっきのことでオーバーヒートしそうなぐらいに顔が熱くなっているので、余計なことは言わないようにしたが、もうお礼は貰いましたよ。ぐらい言っておいた方が良かっただろうか。ふと、時計に目を向けると、針は8時を過ぎようとしていた。


「あ…明日も学校があるんで、そろそろ帰りますね…」

「あ、…そうですね、今日は本当にありがとうございました。また、お礼させていただきます」


 じゃあ。と言葉を残し隣にある我が家に帰った俺は、顔を赤くしたまま、風呂に入り、着替えてから、ベッドに入って枕に顔をうずくめた。


「だめだ…恥ずかしすぎるよ…」

ご視聴、ありがとうございました。少しでも面白いと感じてくれた方は、感想やポイントをください!作者のモチベにつながります!


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