閑話 栞さんの初デート *栞さん視点です
投稿が遅れてすいませんでした。これからは少しだけ閑話が続きますので、あとがきがありません。ご容赦いただきたく存じます。
今日は、私の人生初のデートです。相手は大輝くん、緊張しますけど、いつも通りで大丈夫です。いつも通り、いつも通り…
「あ、ごめんなさい、待たせちゃいました?」
待ち合わせ時間の10分程前に着いたのですが、既に大輝くんは駅についていて、私のことを待っていました。
「いえ、全然待ってませんよ。それに、来るのが早すぎた俺が悪いんですし…」
大輝くんは悪くない。そう口にしようとしたけど、わざわざ大輝くんが気を使ってくれているのです。ここは素直に肯定しておいた方が良いと思います。
「良かったです。それでは、行きましょうか」
私は、切符を買ってそう言った。
「とりあえず、昼食にしましょうか」
そこから40分ほど。電車を降りた私達は、適当なご飯屋さんに入って、昼食を済ませることにしました。
「すいませーん、これ二つください」
二人で何を食べるか決めると、大輝くんが頼んでくれました。頼んだものが来るまで、どうしましょうか。何か話したいのですが、こちらから話す話題も勇気もありません。
「美味しいですね!」
「そうですね」
そうこうしているうちにご飯が運ばれてきたので、とりあえず食べることにしました。とっても美味しくて、ついついがっついちゃいます。
(でも…)
さっきから、ものすごく視線を感じます。視線の主は大輝くんです。別に嫌なわけではないのですが、やはり気になります。あ…でも、私も大輝くんのことをまじまじと見ちゃうので、お互い様でしょうか。それじゃあ仕方ないですね。
「いいよ、俺が出すから」
ご飯を食べ終え、お会計をしようと財布を手に持つと、大輝くんから制止の声がかかりました。
「でも…」
―それじゃあお礼になりません。そう言おうとすると、先に大輝くんが言葉を発します。
「いつもご飯ご馳走になってるから、そのお礼です」
「まあ、それなら…」
そう言われると何も言い返せません。なんだか、悪いような気がします。でも、嬉しいです。大輝くんがそう言ってくれたことが。ダメだとわかっていても、嬉しいんです。
「おおー」
水族館へ着くとあまりの大きさに、ついついそんな声が出ていました。ただ、それは私だけではなかった様で、大輝くんも「おお、凄いな」と感嘆の声を漏らしていました。
「それでは、早速入館券を買いに行きましょうか」
水族館から視点を下ろした私は、大輝くんに向かってそう言って、入館券売り場の方へと歩いて行きました。
入館券売り場に着くと、大輝くんが財布を出そうとしていたので、私はそれを咄嗟に手で静止していました。
「どうしたんですか?」
「今日は私が誘ったので、私が払いますよ」
当たり前のことだと思います。私がお礼をしたくて、私が誘ったのですから。
「いや、デートしてもらってるだけで嬉しいし、充分お礼になってるから」
ただ、それでは納得してくれなかったらしく、大輝くんも引き下がる。でも…ここで払って貰ったら駄目です。お礼になんてなりません。
「でも、ご飯代も出してもらいましたし、ここは私が…」
「いや、本当にあれは俺がお礼したかっただけだし、好きで、好きだから、あげただけだから!」
「ぅ…」
私がすかさず反論をすると、まさかの言葉が突然飛んできたので少しだけ狼狽えちゃいました。多分、いや絶対、大輝くんは私のことが好きなのではなく、好き勝手にあげた、と言いたいのだろうなと思います。
…でも、そうだとわかっていても止まない胸のドキドキはなんなのでしょうか。大輝くんの声を聞くたびに心臓が跳ね上がり、顔が熱を持つのを感じます。
「いや…これはですね…俺が好きにあげたっていう意味で、神崎さんがうさぎを好きだからあげただけというか…いえ、だけってわけではなく、普段のお礼といいますか…」
「…ふふ、そんなこと、わかってますって」
そう必至に弁解する大輝くんを見ていると、不思議と自然に笑みがこぼれてきました。大輝くんがこちらを見てきて、自然と目を逸らしてしまった。…そして、目を逸らしたから思い出せたことがありました。
(ここは、 他の人たちもいるんでした)
それを思い出して再認識すると、さっきまでのやりとりが、巻き戻された様に頭の中で繰り返される。私の顔が恥ずかしさから熱を持つのを感じます。ついつい癖で顔を下にやってしまいました。
「す、すいません。高校生の2つください!」
私が居た堪れない気持ちになっていると、大輝くんがそう言って入口の方へ早足で歩いて行きました。私も、それを追う様に駆け足で大輝くんの方へ向かいました。