栞さんと初デート?(5)
「楽しかったですね!」
水族館からの帰り、駅に向かっていると神崎がそんな言葉を掛けてくる。
「ああ、楽しかったな」
本当に人生でこんな体験ができると思っていなかった俺は、本心からの言葉を神崎に返す。高校に入ってからは楽しい日々が続いていたが、彼女なんかは作れるわけも無く…デートなんかもできるはずがないと思い込んでいた。
(まあ、彼女ができたわけでもなければ、相手が俺に好意を持っているわけでもないんだがな)
そうだとしてもやはり嬉しいし、何より楽しかった。
「イルカさんのショーとか凄く可愛かったですね」
「かけてくる水の量は驚いたけどな」
「ペンギンさんもいっぱい居ましたし」
「あのボスみたいな奴も可愛かったな」
「シャチさんにベルーガさんも凄く大きくて可愛かったです」
「シャチは大きかったなー、ベルーガ…?あ、シロイルカのことか。あれも可愛かったな」
「あー、あと…」
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そんな風に今日の思い出を話し合っていると、いつのまにか駅に着いていた。
今は駅のホームにいる。ちなみに、神崎に切符を買おうとしたら「大丈夫です、こんなものまで買ってもらっちゃったら、もう帰れませんから」と言ってきた。どういう過程で帰れなくなるのかは知らないが、そこまで言われるのだったら買わないほうが良いだろう。
「私は、前沢さんが敬語じゃなくなったのが一番嬉しいですよ」
突然、神崎がそんなことを言ってくる。
「…あ、すいません」
たしかに、思い返してみれば友達のように気軽に話していた。
「いいですよ、かしこまらなくて。私は普通の前沢さんが好きです」
平然と、当たり前かのようにそんなことを言ってくる。
(そんなこと言ってると、勘違いされるぞ…)
俺はそんなことはないが、本当に好きなのか?と勘違いしてしまう奴もいるだろう。
「あ…でも、私からも一つ」
「なんだ?」
「これからよろしくお願いします、大輝さんっ」
そう、悪戯っ子のような小さな笑みを浮かべて、俺にそんなことを言ってくる。
(今のは…急すぎるって…)
俺の顔が熱くなる。言葉も上手く出ずに、早くなった心臓の鼓動だけが聞こえてくる。神崎の方を見ると、恥ずかしかったのか顔を赤くし、俯いている。
…そこから、顔を赤くさせて下を向く二人の絵が、電車が来るまで続いた。
(…それにしても、本当に楽しかったよなぁ…)
俺は電車に乗りながら、そんなことを考えていた。
最初、デートに誘われた時は夢かと錯覚するぐらいの衝撃を受けた。まあ、今日一日が夢ということはないだろうが。
シロイルカやシャチを見て、ペンギンのコーナーで写真を撮って、イルカショーで水を掛けられ…水族館を出た後、展望台にも行ったな。
そこから見えた海の青い景色と、公園の緑の景色が絶景だった。神崎がコインを入れるタイプの望遠鏡を見て、目を輝かせていたので、100円を入れてやると遠慮しながらも覗き、そこからは子供のようにはしゃいでいた。
(ほんと、濃い一日だったな)
…そんなことを考えていると、肩に何かが乗るような感触があった。
(なんだ?これ)
そう思い肩の上を見る…と同時に、少しだけ顔をのけぞらせる。俺の肩には神崎の頭が乗っていて…まあ、神崎が寝ていたのだ。
(うっ…)
可愛い…なんて思いながら、俺は神崎の事を見ていた。今日は色々な事があったので疲れているのだろう。幸い、降りる駅までは後30分ほどある。少しでも寝かせてやろう…と考え、そっとしておいた。
「おーい、神崎、起きろー」
後二駅で降りるので、俺は小声で神崎に声をかける。…だが、神崎からの反応はない。
「おーい、おーい」
何度声をかけようとも、少し体を揺らしても、神崎が起きる気配はない。
(どうしたらいいんだよ…)
とは言っても、俺が取れる方法など一つしかない。周りからの目が怖いし、何より俺の心臓が持つかどうか。緊張と羞恥でどうにかならなかったら良いのだが。
そうこうしているうちに降りる駅に着いたので、考えている事を実行に移す。
(…失礼します)
俺は、神崎の背中と足の部分に手を入れて抱き抱えた。その瞬間、周りから刺すような視線を感じたが、出来るだけ無視してホームへ向かった。
(これ、予想してた何倍も恥ずかしいな)
だからといって降ろすわけにはいかないので、羞恥に耐えながらも歩き続けた。
「これ、どうすれば良いんだ…?」
マンションに着いた俺は、そう口にしていた。
(勝手に神崎の部屋に入るわけにもいかないし…俺の部屋に入れるのもな…)
「大丈夫です、起きてます」
神崎が、急にむくりと体を上げて、そう言ってくる。
「なんだ、起きてたのか。なんでここまで寝たふりしてたの?」
「最初は本当に寝ちゃいましたけど…起きてあの格好をしてたら寝たふりするしかないじゃないですか」
…まあ、考えてみればそうか。少し言いたいこともなくはないが、それは心の中に抑えておく。
「ご迷惑をお掛けして…」
「いいよ、迷惑なんかじゃないから。今日も楽しかったし」
恥ずかしかったが、迷惑はしていない。
「あ、そうでした。本当に私とのデートがお礼になっているんですか?」
突然、神崎がそんな事を聞いてくる。
「ああ、そうだけど」
何度も言うが、当たり前だ。
「…それじゃあ、これから毎週、デートしましょう!」
神崎は、顔を赤くし、微笑みながらそんな事を言ってきた。
その後、俺は家に帰り、今日の方への認識を改めた。
(そうだ、これは夢なんだ)
…と。
「やって参りました、質問コーナー!」
「なんだ、なくなったんだと思ってたよ」
「今回はー、そのことについての質問だよー」
「お?なんだ?」
「質問、なんで水族館回はあとがきがなかったんですか?」
「それは…水族館回は、一度の回として一気に邪魔がなく見て欲しかったから。だそうだ!」
「うわー、取ってつけたような理由だねー」
「正直、サボりだと思われても仕方ない。って言ってたな!」
「なあ、これってやっぱり俺いらな…」
「また次回の質問をお待ちしております!」
「じゃあねー」
「えぇ…」
というわけで、水族館回、ついに終わりました。…とは言ってもおまけの回があるのですがね
なんと、総合評価100ポイント到達しました!本当に嬉しい限りでございます!
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