栞さんと初デート?(4)
「楽しみですね、イルカさんのショー」
俺の隣でそういう神崎の手にはジュースが握られている。先程、「今からイルカさんのショーがやるらしいので、見にいきましょう!」と言い出した神崎に連れられ、俺はショーの観覧席へと来ていた。
「どうぞ、これ。コーラ飲めますか?」
少し待っていてください、と言葉を残し場を離れていた神崎が両手にジュースを持って帰ってきた。てっきりトイレか何かだと思っていた俺は、少し戸惑いながらも、財布を出しながら返事を返した。
「ありがとう、いくらしたんだ?」
「いえ、大丈夫ですよ。これぐらい私に払わせて下さい。善意のプレゼントですから」
これを言い訳にお礼を断っている俺からすると、この言葉を言われると何もいえなくなる。
「…ありがとうございます、有り難く飲ませていただきます」
「どうしたんですか?急にかしこまって」
なんやかんやで無償の善意というものに慣れていない俺は、謎の反応を返してしまい、神崎からツッコミをもらってしまった。
「そういえば、どこに座るんだ?前の方が見やすいけど…水掛かるしやめとくか?」
恥ずかしくなってきた俺は、露骨に話題をずらした。
「私、お恥ずかしながらこういうところに来るのが初めてで…ちょっと前に座ってみたいなーって…」
すごく申し訳なさそうに神崎が話してくる。
「いいよ、別に。俺も前に座ってみたかったし」
神崎は未だ申し訳なさそうにしているが、前の方に座りたかったのは事実だ。俺も神崎と一緒で、イルカショーを見るのは初めてだ。一番前で見た方が迫力があるだろうし、なんだったら水が掛かってほしいまであるぐらいだ。
(まあ、着替えもないし、カッパでも買うか)
「すいません、カッパ二つください」
俺は神崎の分も含めてカッパを買った。
「あ、どうして私の分も買っちゃうんですか。払いますから」
「善意のプレゼントだ。それに、これぐらい俺に払わせてくれよ」
ただでさえ釣り合ってないのだ。ここぐらい格好をつけさせてほしいものだ。
「で、でも…」
「ほら、もうショーが始まるぞ、ちゃんと着ろよ」
ショーが始まったので、カッパを神崎に渡す。神崎の顔が赤いのは、やはり少し怒っているからなのだろうか。
「わあ、すごい可愛いですね」
イルカのショーを見ていると、神崎の口からそんな声が漏れた。イルカが泳いでいる上にトレーナーさんが乗って水上を高速で移動しているのは面白かった。…が、神崎の目には可愛いように移ったようだ。
「あ、イルカさんが近づいてきましたよ」
「これは水を掛けてくるっぽいな」
俺がそう言うと同時に、水中からイルカが跳ねてくる。俺達以上の質量を持つイルカの、3メートルはゆうに超えてそうなジャンプは水槽の水を跳ねさせることなど容易であり…
「うわっ!?」
「きゃあっ」
跳ねた水は、当たり前のように観客席の方へ飛んできた。
「やばい、また飛んでる…」
俺がそんな声をあげるも虚しく…
「うわぁっ!?」
イルカは、何度でも俺達に水を掛けてきたのだった。
「面白かったですね、迫力もありましたし、すっごいイルカさんが可愛かったです」
イルカショーが終わり、そう話してくる神崎はビショビショに濡れている。
「面白かったけど…大丈夫か?凄い水飛んできたけど」
着替えもない状態で、水に掛かったりなどしたら風邪をひいてしまうだろう。俺とのデートのせいで風邪をひく、なんてことはないようにしないと。
「大丈夫ですよ、買っていただいたカッパのお陰で、全然濡れませんでした」
そう言って神崎が、胸を張って服を見せてくる。ただ…
(透けかけてるから!ダメだって!)
やはりというか、何というか。少しだけだが神崎の服は濡れていて、胸元が透けそうになっていた。
「ほら、これ着とけ」
俺は、自分で羽織っていた上着を脱ぎ、神崎に渡す。水が飛ぶたびに手を前にしてガードしていたので、全くと言っても良いほど上着は濡れていなかった。
「…ありがとうございます。じゃ、次はどこに行きましょうか」
神崎が、少し顔を赤くしながら笑顔でそう言ってくる。
(やっぱり、俺が着ていたのは嫌だったか?)
渡すときに懸念していた点を思い浮かべたが、それしか方法はなかったので、勘弁してもらいたいところである。
「ま、どこでもいいんじゃないか?適当に歩きながら、見ていこうぜ」
俺はそう返答し、二人で来た方向とはまた違う方向歩いて行った。