その5『良子のママよ永遠に』
さてさて、ここは生真面目キーマさんのパソコン前。
古き良き時代のテンプレとも言うべき、王道RPGを小説として描いているタクローのサイトへとやってきた。実は、キーマさんは懐かしい思いを感じながら、誤字の多いこのお話をブクマまでして読んでいたのだ。しかし、今日は酷かった。
「うわ、何これ」
まず、魔王の喋り方。うーん、これは味? こういう魔王がいないって確証はないしね。
患者って、賢者のことだよね。
浜の剣って……破魔の剣ってことだよねっ
「良子のママ」って「よし、このまま」ってことだよね!
っていうか、キラキラ刻んでいく、って何? これって削除でいい感じ!?
もしや切り刻む?他に何か意図するところでもあったりする訳!!?
一瞬悩みはしたが、キーマさんは最近実装された誤字報告のボタンをすぐに押していた。
ところ変わって、卓郎は飲み過ぎて頭が痛い。背広のままベットに突っ伏し、まどろみ、鼾を掻き、うとうとし、寒気を感じていた。さらに、動きたくないのに、尿意を感じ始めている。起きなくては……。むっくり起き上がった卓郎は用を足して、すっきりした後、小説サイトを開いてみた。サイトを覗くことが何となく癖のようになっているのだ。
新着誤字報告があります。
誤字か……。
卓郎はずきずきする頭を押さえながら、全ての誤字を確かめることなく採用し、そのまま朝までの眠りに就いたのだった。
とりあえず、影の魔王『卓郎』は酒に溺れ自滅した。
なんとか形勢逆転を果たした勇者一行は再び城へと報告に向かった。
「王様、これが魔王の遺髪にございます。どうぞお確かめください」
跪き、頭を床すれすれにまで擦りつけ、勇者一行は深々と頭を下げていた。ここまでするのは、もちろん礼儀からでもあるのだが、あの小さい少年の呪いを実はまだ恐れているからだった。ここまで頭を下げていれば、見たくない者も見なくてすむ。目を瞑っていることにも気付かれない。
「よくやった。褒美を授けよう」
魔王の遺髪を確かめた王様は声高らかに勇者たちの労をねぎらった。
「ありがとうございます。実は、我々もお願いしたきことがありまして……」
「よかろう、言ってみるが良い」
その国にはかつて魔王を倒した英雄の銅像がある。この世を闇の手から救った英雄は今も称えられ、足下には平和を願うためのコインが置かれ続けている。
これは、卓郎の小説最後の一文である。しかし、卓郎は知らない。その銅像が良子のママであることを。
勇者たちは思ったのだ。あの煌めく老婆が神の使いだったのだろうと。そして、最初に現れた時に、無下に扱ったせいで我らに呪いが降りかかったのだろうと。
「崇めるべきは、あの老婆の姿をした光の女神です」
四人の猛者が口を揃えて国王に嘆願したのだ。
最後までお付き合い下さいありがとうございました。
ちなみに卓郎は「『よし、このまま行けるところまで行くぞ』その声と同時に飛び出した目映い光が容赦なく魔王を『切り刻んでいく』」と書きたかったようです。まぁ、意味としてはキラキラでも通じるのかもしれません。