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誤字でクエスト  作者: 瑞月風花


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その4『浜磯の悲劇』

お銚子事件を解決した卓郎は、さらに妻へ向けてのいいわけメールを打ちはじめた。あろうことか、本日の新人歓迎会を良子に伝えていなかったのだ。

 『ごめん、良子。今日は遅くなりそうで、今、浜磯っていう居酒屋にいてさ。超、盛り上がってるんだよ。二次会行くってみんながさ。でも、いい幹事だったみたいでさ。今日の俺ってきっとキラキラした奴に見えるんだろうな。見直したか?でも、やっぱり上司の好みは知っておくべきだよな。褒められたよ。孝郎にもよろしく言ってて。愛してるよ、ママ』

 まだ頭ははっきりしているほろ酔いの卓郎は長々と良子にメールを送った後、二次会の幹事も務めることになる。そして、その夜、激酔い加減でクライマックスを調子よく打ちはじめた。

 もはや嫌な予感しかない。


 さて、幹事の出来を褒められた酔っ払い卓郎が上機嫌で文章を書きはじめる。




 漆黒のマントを翻し、全ての魔法を跳ね返した魔王が不敵に笑った。

「調子こいてんじゃねぇぞ、こらぁ。えぇぇえ!」

まるでどこかのヤンキーである。人間の三倍ほどの背丈、岩のような重量感。紫色の皮膚に黒い唇。白い牙が覗く口は毒を孕んだような息を吐く。長く伸びた黒い爪で繰り出す暗黒魔法。

そして、その見てくれとは全く異物の喋り方。

 思っていたのと違う。そこにいた猛者(もさ)全てが頭に浮かべた言葉だった。

 しかし、勇者エースは皆を振り返り、「油断するな」と視線を送った。送った先に、何の攻撃も受けていないはずの賢者が包帯塗れになって、熱に浮かされた表情をしていた。

「どうしたんだ、いったい」

一体何の攻撃を受けたんだ? そう、賢者は、全て人類の病と怪我を請け負ってしまった『患者』にしか見えなかった。

 恐るべし魔王。

「すぐに手当てを」

と勇者が言うや否や、魔王が次なる攻撃を仕掛けたのだ。襲い掛かる爆風に対して、魔法使いゼットが素早くシールドを張った。その一瞬の隙をついた剣士は既に魔王の懐の中に入っている。すかさず、勇者は剣士にシールドを張る。見事なチームワークだ。そして、剣士の渾身の一太刀。確実に魔王にダメージが与えられた。

 いける。そうだ。この破魔の剣でいけるところまでいけばいい。回復役をなくした今できる最善はそれに尽きるのだ。勇者は剣に力を与えるための言霊を叫んだ。

「轟け破魔の剣」

確かに轟いた。ざぶーんと。そして、磯臭い臭いが漂う。何かが違う。まったく違う。しかし、跳び出したからには突っ込むしかない。

 剣士も何か感じたらしい。

「運がなかったのかもな。ま、行くとこまで行くしかねぇわな」

もうここまで来ると、不運と片付けた方がいいかもしれない。破魔の剣に効果音の効果などなく、雷のような閃光を帯び、勇者の力を最大限に引き出すことのできる武器だったのだ。勇者の力さえあれば、確実に魔は削げるのだ。

 だから、ざぶーんってなんなんだよ。

 鳴りやまない海の音と剣士の言葉に自分の運の尽きを見た勇者は顰笑しながら頷き、剣士に応えた。

「よし、このまま行けるところまで、行くぞ!」

もう、皆さんお分かりだろう。「よし」とは勇者の口癖である。

 そして、あのおばあさんが召喚されたのだ。

「まったく、何なんだよあんたら」

良子のママは魔王の懐から現れて、そして、煌めき出した。何が起こったのか分からない。呆然自失の仲間たち。光り続ける老婆に目を殺られた魔王。しかし、何かが少しずつよい方向に変わってきている、と勇者はつぶさに感じ取っていた。さっきまで効果音しか出さなかった破魔の剣にさえも力が満ちはじめたのだ。

 後援部隊の賢者がすっかり回復し、傷ついていた勇者と剣士を回復させる。魔法使いは武器強化の呪文に加え、奥義『聖なる炎』を唱え出す。勇者はもう一度、剣に言霊を込め、破魔の剣を魔王の心臓に向けて突き立てた。


 良子のママの煌めきは止まらない。



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