その2『少年はただゲームが欲しいだけ』
呪いはしばらく続いていた。しかし、勇者の描いていたマップのおかげで大きなロスもなく入口へと戻って来れたのだ。呪文系は全く使えなかったので、あの荷物当番は賢者と魔法使いが担うことになり、体力の少ない彼らはくたくたの形相だった。
一行は一度宿へと戻った後、今回の出来事を王様の元へと報告しに行くことにした。まず、手柄として黄龍の鱗を一〇枚程度献上しよう。そして、今回の呪いの小道についてと、あの老婆……あの老婆の件は闇に葬っておこう。呪いだとしても、結局彼女が黄龍に止めを刺していたのだ。悪い呪いではなかろう。
しかし、小道の呪いは恐ろしかった。呪文系全てを封じる魔法。今も魔法使いはその魔法について調べている最中だったが、見つからないらしい。
「悪い、分からない。だから、城へ行く前に道具屋に立ち寄っても構わないか?」
これまでたくさんのクエストを熟し、右に出る者はいないと世に言わしめたこともある魔法使いが久しぶりに吐いた弱音だった。
「構わないですよ。私にも分かりませんしね」
賢者も同じように文献を漁ってくれていたが、結果は同じだったようだ。
今日の出来事で、部長に結果的に守られた卓郎はふと思ってしまった。勇者一行って外部受注された切り捨て可能な便利屋みたいなものなんじゃないかと。それは大変だ。夢がない。慌てた卓郎は彼らに何かご褒美をあげようと考える。やる気が出なければ、命なんかかけられない。
ベタなものなら、あれだよな。お姫様をもらうとか。
でも、お姫様をもらうってことは、国政を担うなんていうことに繋がって、余計に負担増じゃないのか? それに、お姫様ってめんどくさそう。
栄光や名声。
食っていけない。やっぱ、金かな。
あ、でも、記念碑、銅像ってやつもいいかもしれないな。歴史って重みあるし、ロマンだもんな。
「なぁ、孝郎は何が欲しい?」
一緒になってそばで寝そべっていたまだ小学一年生の孝郎は目をキラキラさせて答えた。
「ゲーム」
ゲームか。
「買ってくれるの?」
「うんや、聞いてみただけ」
孝郎と目を合わせずに答えた後、孝郎の会心の一撃が卓郎の腹の上に乗っかって来ていた。
影の魔王卓郎が呻き声をあげて、勇者ではなく、孝郎にやっつけられてしまった。
混沌の魔窟での恐ろしい出来事を思い返しながら一行はお祓いにでも行こうかという話をしていた。まだこの時は笑い話ですませていた。きっと、何かとてつもなく厄介な呪いをどこかでもらったに違いない。そんな風に。
しかし、王様に黄龍の鱗を献上している時にそれは再度起こったのだ。
「そなたたちの活躍は目覚ましく、心強いものじゃ」
「ありがとうございます」
「じゃから、褒美を与えたいと思うのじゃ」
まだ魔王をやっつけたわけでもないのに、王様はそんなことを言い出したのだ。
「いいえ、まだ道半ばですので……」
勇者は畏まってその申し出を断ろうとする。すると王様はさも悲しそうな顔をなさった。
「そのように困った顔をするものではないぞ」
何故かその言葉の後、変な者がまた召喚されたのだ。
小さな手のひらサイズの少年だと思う。そして、彼が勇者たちの目の前にやってきて、「ゲーム」と未練がましく呟くのだ。意味が分からない。血の気が引いた。邪という感じはしなかったが、気持ち悪い。しかし、王様のそばからやってきたのだから、無下にも出来ない。
王様は困った顔でまたその少年を眺めていた。