12.人間種との会遇
(……どこに、行けばいいんだろう。私……)
アリスはふらつく足取りで地上を歩く。視界の中で目印となるものはたまに生えている木々、そして遠くに鬱蒼と生い茂る森とそびえ立つ山々。
(私は、どうすればいいんだろう……。吸血鬼じゃない、私は……。父様と、母様の、子でもない私は……)
「……っ?」
歩いていると、急に後ろ髪を引っ張られる。振り返り見ると、地に生えている小さな植物に彼女の長い髪が絡まっていた。それに、歩いて地面に擦れていた部分は塵に塗れ、彼女の首元をなびく輝かしい銀髪とはまるで別物のように小汚かった。
「……っ!」
彼女は苛立たし気に舌を打つと、爪を一閃させる。
バサァッ―――
腰より先に伸びた髪は断たれ、風に舞う―――その拍子に羽織っていた漆黒の外套も刻んでしまう。それも脱ぎ捨てる。吸血鬼としての正装など、見るだけで腹立たしかった。
歩く障害を取り除いた彼女は再び前を向き、ひたすらに歩を進める。
―――そのまま昼も歩き、夕暮れ時も歩き、夜になった頃には遥か遠くに見えていた森にまで足を踏み入れていた。彼女の体力は尽きない。その身体は吸血したことによって大人の吸血鬼の6倍は保つ。
「………」
それでも疲弊しているものがあった、心だ。
彼女の心の中は、私は何なの、どうしたらいいの、どこへ行けばいいの、の自問の連続であった。答えは返ってこない。
行く先が見えない。物理的な視界ではなく、己の立つべき場所、いるべき場所、心の拠り所、帰属意識、全てをなくしてしまった彼女は暗く塞がる心中でもがき続けていた。
「……っ、あっ!」
ドシャァッ―――
そうして彼女は木の根に足を取られ、地面に転んでしまった。痛みもないし傷も出来ていないが、起き上がる気力が湧かない。惰性で歩き続けた身体は、ここへ来てその心と同様、崩れ落ちてしまったのだ。
(どうしたら、いいんだろう、この先……)
転んだままに、アリスは答えの浮かばない疑問を投げかけ続ける。心はばらばらに裂かれたまま暗く冷たく凍りつき、次第に彼女の意識もそれに引きずられるように深く深く沈んでいったのだった。
眠りにつく直前、目の前に白く小さな花が一輪咲いているのを、彼女は見た―――
『お母さん! 見て見て、プリムの花がお庭に咲いてたのっ! お母さんにね、あげるねっ!』
『あらまあ、可愛らしいお花だこと、貰っていいのかしら?』
『うん! あげるっ! えへへ、お母さん…』
『あらあら、この子ったらもう。もう4歳になるのにいつまでも甘えん坊さんなんだから』
『うん! ルイナ、お母さんだーい好きっ!』
ガチャッ―――
『おーい、部屋の掃除手伝ってくれー。今日の夕方までにあと4つ片付けないといけないんだぞー』
『うふふ、ほらルイナ、お父さんが呼んでいるわよ。お仕事手伝っていらっしゃい』
『むー! ……はーい。じゃあねお母さん、行ってくるね!』
『はい、行ってらっしゃい』
バタンッ―――
『よーし、今日もルイナ、宿屋のお手伝い頑張るねっ、お父さん!』
―――暗転。転回。明転―――アリスの夢はそこで終わる。
ガタンッ―――
小岩をはね、馬車がひときわ大きく揺れる。御者台に座っていたナートラは、ひやりとして後ろを振り返り荷台を確認するが荷が倒れたり飛び散ることはなく、ほっと胸をなでおろす―――だが、どうやら今の揺れで客人を起こしてしまったようだ。緩衝材として積んでいた干し草の中から、少女が身を起こす。
「……?」
「おお、目が覚めたかの、嬢ちゃん」
見事な銀の髪をなびかせながら周りをきょろきょろと見回し、自分の状態を確認している少女にナートラは声をかける。未だ寝ぼけ眼が開ききっていない少女に敵意や害意がないことを示すために、彼は顔に皺を寄せ笑みを浮かべる。
「ワシはナートラ。しがない村の鍛冶師じゃて。魔の森へ採集に来ておっての。そしたら嬢ちゃんが倒れとったもんで、とりあえず村まで連れてこう思ったんじゃ」
「……はぁ、ありがとう、ございます」
起きて間もなく見知らぬ老人に連れられていては、警戒してしまうだろう。ナートラが発見から今に繋がる状況を伝えると、少女は一応納得の反応を見せ、礼を述べる。
少女はさらに周囲を見渡し、そしてはるか後方に映る森―――彼女を見つけた魔の森で目を止めた。どんな表情をしてそれを見ているのかは御者台にいるナートラからは見えない。
「嬢ちゃん、どうしてあんなところに一人でおったんじゃ? 魔の森に一人でおるんも変じゃし、仲間とはぐれたんかい?」
「っ―――仲間は……いません…」
「―――そうかい」
ナートラの言葉に、びくりと身体を一回震わせ少女は否定した。その反応にナートラは目を細めるが、いかにも訳ありそうな娘に無理やり事情を聞くものでもないと馬の方へ向き直った。
ナートラが彼女を見つけたのは今朝方、馬を止め、森の中に入り炉にくべる特殊な薪や鍛冶の材料となる砂を採集をしていたところ獣道の半ばで倒れている少女を見つけた。
最初は死体だと思った。その白い服は血に汚れており、身を護る武器も防具もつけていない。魔物が多くいる魔の森に、ろくな装備もしていない少女が迷い込んでしまい命を散らせたものだと考えた。
しかし、驚くことに少女は生きていた。静かに寝息を立て、傍らに咲く花を握りしめ涙を流していた。魔の森において、魔除けの香も焚かず見張りも立てずに寝入るなど自殺行為に等しい。しかし、目の前の少女は奇跡的にも生きていた。ナートラは採集を切り上げ、少女を安全な村まで運ぶことにしたのだった。
「今向かっているのはオグストっちゅうワシが住んどる田舎の村じゃ。ここから一番近くの村じゃが、着くのは今夜くらいかの。それでもいいかの?」
「……お任せ、します」
少女はそう歯切れ悪くも素直に応じると、干し草の中に足を抱えて座り込み、遠ざかる景色を呆と眺め始めた。
オグストの村の近くまでやって来る頃にはすっかり日も暮れ、空には色とりどりの星々と青白い月が輝いていた。
なだらかな高原の中腹にあるオグストの村は畜産と農耕によって自給自足の生活を送っている。綺麗な水場と肥沃な大地に富み、そこで生活をする分には何ら不便はないが、周りを山や森などで囲まれている為街道は拓かれず、特に特産品などもない為冒険者や商人など余所者が滅多に来ない田舎の村であった。
そんなオグストの村に、久方ぶりに客人を連れてきた。しかも驚くほど綺麗な顔立ちをしている。
無口で不愛想であるが、村の若い連中は関心を持ち話しかけてくるだろう。もし、彼女に目的とするものがなければこの村に根付き、新たな風と世代を作ってくれると嬉しい。そんなことを考えながらナートラは馬を手繰り、荷馬車を走らせていた。
「……あれは……っ」
しかし、そんな彼は村に近づきその全貌が視界に入ると顔を苦々しくしかめた。
村の篝火の数がいつもより多い―――いや、あれは篝火ではなく、松明の火だ。それが村を取り囲むように忙しなく動き回り、そして松明を持つ者のうち幾人かがナートラたちの乗る馬車を指さし、怒鳴り声をあげていた。
「捕まえろっ! 逃がすんじゃねぇぞっ!」
「へい、わかりやしたっ!」
野盗であった。
彼らは防衛力のない村を狙って襲い、蓄えを奪っていく。そして一度襲った村はしばらく襲わず、蓄えが十分にある他の村へと狙いを移し、それに合わせて活動拠点を移していく。
彼らは抵抗をする者を除けば村人への人攫いや殺人を過度には犯さない。これは、例えば女子供を攫えばその村の生産能力や復興士気が低下し存続自体が危うくなるし、国の宝である人を殺し過ぎれば国軍が動く。さらに言えば、人命や大切な者の為であれば必死に反抗をしてくる者もいる為、負傷しても教会や病院で治療を施してもらえない野盗にとっても出来れば余計な戦闘は避けたいのである。
生産力と人には危害を加えず、しかし抵抗すれば村を壊滅できるだけの戦力を示し、自分たちが飢えを凌ぐために必要な分を彼らは奪っていく。
村人たちは、抵抗さえしなければ蓄えを削られるだけと知っている為無抵抗を貫く―――もし相手が返り討ちに出来るほどの戦力であればもちろん抵抗するが。そして野盗に襲われても壊滅的な被害を被るわけでもなく、蓄えを減らされただけなので再び豊かな暮らしが出来るようその土地で生産を続ける。
そしてまた蓄えが貯まった頃に彼らは再び姿を現す。
こうして野盗は世にはばかり、たまに見せしめと間引きの為に編成された討伐軍に狙われた者達以外はその悪事に手を染め続けるのである。
そして今、ナートラの馬車が狙われたのは商人の馬車であると思われた為であった。
商人の蓄えや積み荷は野盗にとって上等な獲物である。糧食でなく、商品を奪えれば換金することもでき、金が出来れば食べること以外の贅にひたれるのだ。
しかし残念ながらナートラの馬車は野盗にとって何の益もない薪と砂と干し草しか運んでいない。普段であれば、そのまま村の糧食が奪われるまで捕らえられるものの何も盗まれずに終わるはずだった。
だが、今は違う。村人ではない少女を乗せている、しかも年端もいかぬ可憐な少女だ。
野盗は村人には手を出さない―――しかし、余所者であるなら話は別だ。
「干し草の中に隠れるんじゃっ…! ばれぬよう、息を殺せっ…!」
今から踵を返して逃げるような時間もない。ナートラは少女へ隠れるよう小声で指示を出す。
背後で干し草が動く音が聞こえる―――うまく隠れたかどうか、確認する間もなく馬で駆けてきた野盗達が馬車を取り囲んだ。
「おいおっさん! 荷を寄こしてもらおうか」
「なんじゃい、お前さんたち、しがない鍛冶師のワシから何を奪うつもりなんじゃ?」
「へっへっへ、おっさん鍛冶師かよ。こいつは積み荷にも期待できねぇなぁ…と、言いたいところだが、おっさん、さっさと荷を渡してもらおうか」
「はっ、なんじゃい。お前さんたち薪が欲しいのか? それとも砂か? お前さんたちじゃ、ろくに加工できんと思うがね」
「ちげぇよ。そこに突っ立ってる娘のことだよ」
は? とナートラは声を上げ、後ろを振り返った。そこには干し草に隠れろと指示したはずの少女が、干し草の上に立ち、野盗たちを見下ろす姿があった。
「なん、でじゃ―――」
ナートラは絶句した。無口で不愛想なだけかと思ったが、まさかお頭の方までイカれているとは思わなかった。この状況で姿を見せるなど、正常な判断が出来る者であれば絶対にしない。
「その恰好、このあたりじゃ見ねぇ装飾だなぁ―――お前、この村の住人じゃねぇんだろ?」
「……ええ、そうよ」
少女の返事に、野盗から喝采が上がった。
本人が村人でないと自ら口にしたことにより、この娘は攫ってもいい獲物だということが決定したのであった―――もちろん、村人だと言われたところで彼らには見逃すつもりはなかった。村にこんな美しい少女がいないのは事前に調べて分かっている。
野盗たちは少女の全身を嘗め回すように見て、その顔に下品た笑いを浮かべる。
「おいお前ら、娘を引きずりおろせ!」
「へいっ!」
喜び勇み、一人の野盗が声を上げ荷台に上る。少女に近づき、厭らしく笑みを浮かべその身体に手を伸ばす。松明の光に照り返されて金色のように輝く髪、ワンピースの裾から覗く肉付きの良い脚、すらりとした印象の中しっかりと存在を主張している胸の辺りの膨らみ、そして恐怖に声も出せず表情の抜けきった端正な顔。
最早少女に魔の手が襲い掛かるのは誰にも止められない―――そう思った時である。
「……へっ?」
少女が野盗の首を優しく撫でた。
線の細い指にくすぐられ、心地よさを予感した野盗は喉元を襲う激しい違和感に間の抜けた声を上げる。
ブシャァァァァッ―――
時を待たず、野盗の首元より大量の血が吹き出る。
「げっ…! う、うげェッ……っ!」
「な、なんだっ?!」
「どうしたんだ、おいっ! 大丈夫かっ?!」
喉を切り裂かれた野盗は首元を手で押さえる。しかし、それでは吹き出る血を抑えられない。
仲間たちが慌てて駆け寄るがなすすべもなく、彼は荷馬車を転げ落ち、失血の寒さと血に溺れる苦しさに顔を引き攣らせ、やがて身体を痙攣させながら死に至った。
「て、てめぇっ、よくも―――」
―――ブシュッ!
そして野盗の一人が腰に下げていた剣を抜く―――いや、抜こうとした。
しかし、それは叶わず。残像すら見える勢いで動いた少女が抜剣しようとしていた野盗の胸を手で貫き、心臓を突き破った。
「ひ、ひぃっ!」
「や、やりやがっ―――」ザシュッ―――
「この野郎、よ―――」ブシャァッ―――
「た、助けてぇっ! 助けてくれぇっ!!」
続けざまに二人、得物を手にかけた野盗が瞬く間に首を刎ねられ、胸を貫かれ、即死した。
その場で助かったのは恐怖のあまり逃げようとしていた野盗たちと、その光景に目が釘付けになっていたナートラだけであった。
(な、なんという、強さじゃ……)
ナートラはその強さが自身に向けられていないことから、冷静に場を俯瞰して見ることが出来ていた―――老齢が故の覚悟や達観、というものもあったかもしれない。
その身の芯の細さから受ける印象と彼女の絶大な力の間には果てしない差があった。恐らく、何かのスキルを使っているのだろうと推測は出来るが長い時間を生きているナートラでさえもこれだけの力を行使できるスキルには覚えがなかった。
(道理で魔の森に一人で入れるわけじゃ…)
彼女は恐ろしく強い。だからこそ魔の森という魔物や魔族が跋扈する森さえも一人で踏破しようとしたのだろう。さすがに寝てしまうのはどうかと思うが、そこは強者故の余裕というものなのかもしれない。
(しかし、殺すのに躊躇いはないが容赦はあるんじゃな)
少女が殺したのは明確に害意や敵意を見せた者だけ。その殺し方は悪魔の如く容赦がなかったが逃げようとする者には一切の動きを見せなかった―――と、そこで少女を見ると震えているのが分かった。
(なんじゃ、まさか恐れているわけではあるまい?)
先ほどの戦いぶりからは戦い慣れしている者の余裕と貫禄が見えた。戦闘を恐れているわけがないと思っていた矢先―――
「うげぇぇぇっ! お、おげぇぇっ!!」
少女が吐いた。
「うおぉっ!? だ、大丈夫か嬢ちゃん?」
御者台を離れ、荷台に胃液を吐き出す少女の背中をさすった。野盗達がその場に捨てた松明の光が少女の顔を照らすと、その顔は真っ青に染まり小刻みに震えていた。
(ま、まさかこの嬢ちゃん、これだけの強さなのにヒトを殺めたことがないのか?!)
ナートラはその苦し気な表情を見て悟った。この少女は途方もない強さを持っているが―――精神的な成熟は見た目通りなのだと。
まだ成人前後の―――見た目からの勝手な判断であるが、若い精神では野盗とはいえ、ヒトを殺めたことに心が耐え切れず、それが吐き気となって少女を襲ったのだと。
「嬢ちゃん、気をしっかり持つんじゃ!」
「うぷっ、ぐぅ……だ、大丈夫、です。ちょっと、血の臭いにやられた、だけだから……」
少女はそう言って真っ青な顔をしたまま立ち上がる。たしかに辺りに漂う血の臭いは相当なものになっているが、それでもいきなり吐き出すほどのものではない。彼女が強がって言っていることは明白だった。
「嬢ちゃん、無理はせん方がええ! ここはひとまず―――」
「てめぇかっ! 俺の部下を殺りやがったやつってのは?!」
取り囲む野盗がいなくなったところで逃げ出そうとしていたところ、逃がした野盗が村に残っていた本隊に報告をしたらしい、15人ほどの集団がナートラの馬車のもとへ駆け寄り、辺りを取り囲んでしまっていた。
その輪の中から一人、前に踏み出す者がいた。おそらくこの野盗集団の頭領なのであろう。
「……たぶん、わたしってことに、うぷっ……」
少女が律義に応えるが、吐き気が未だ治まらないらしい。口を押さえ、目じりに苦悶の涙が溜まる。
「てめぇっ、舐めた真似しやがって…覚悟は出来てんだろうなぁっ!?」
「……うぷっ、うぐぅっ……お願い、だから。もう私に殺させないで、血はもう、見たくもないの」
「ふ、ふざけやがってっ……! てめぇら、かか―――」
ズバババババババババッッッ――――
頭領が声を上げ、野盗達が各々武器を構えた―――次の瞬間、武器を構えた者は全員首を失くしていた。
「―――れっ! えっ、はっ……?」
号令をかけた頭領は今まさに抜剣しようとしていたところ、一瞬で掻き消えた少女の姿と首を失くした半数ほどの部下の姿を見て、間の抜けた声を上げていた。
ドサッ、ドサドサッ、ドサドサドサッ―――
刎ね飛ばされた首が地面に落ちてくる。そして少し遅れて首を失くした部下たちが地に崩れていく。
部下たちの顔は勇ましい声を上げようとしたまま、しかし身体を失くし命も失くしていた。
そして倒れていく部下の死体と、凄惨な光景に腰を抜かして地面に尻もちをついていく部下たちの中で一人、静かに佇む少女の姿があった。
「………………」
「ひ、ひぃっ!」
少女は感情の抜け落ちたような目で―――死を連想させるような暗い瞳で頭領のことを見つめていた。
「―――に、逃げろぉっ! 全員、逃げろぉっ!!」
頭領のその一声でもって、野盗たちは我先にと逃亡をはじめ、後に残されたのはいくつもの死体とナートラ、そして少女のみであった。
「………」
これはとんでもないものを見た、という表情で辺りを見回すナートラ。果たして武装した盗賊15人に囲われてそれに太刀打ちできる者がどのくらいいるだろうか? ―――まあ、名の知れた有力な冒険者であればあるいは可能であろう。
しかし、ほんの一呼吸する合間にその半数を殺せる者が世にどのくらいいるだろうか? ―――もし出来る者がいたとして、それは噂に聞くSランクの冒険者クラスではないだろうか。。
この少女はいったい何者なのだろうか? 野を逃げる野盗の集団を油断なく見据える少女の立ち姿を見て、ナートラは元冒険者として古い血が騒ぐのを感じた。
「………お?」
しかし、野盗たちが森に入り、姿を消しても彼女は視線を逸らさない。その表情をぴくりとも動かさない。近づき、様子を見て、まさかと思って目の前で手を振る。
「お、おいっ、嬢ちゃん大丈夫か?」
―――少女は立ったまま気絶していた。




